あくる日の朝、入れ違いのように会えていなかった徳操から書簡が届いた。急ぎということで、まだ寝ていた均実は悠円に起こされてそれに目を通す。 一度庵を訪ねてくるように、というものだった。 おそらく新野から帰って来たのだろう。 わざわざ呼び出しをくらったのは初めてだ。 そのことに少し驚きつつ、均実は支度を整える。 外にでると雪が降っていた。もう地面に積もりそうではないが、残冬の印のように均実の肩にも降っては消える。 雪雲が天を覆いつくしている。手の届かない高いところから降る雪は、均実の息を白くした。 「それにしても三度も劉備は来るのかな?」 後ろにいた悠円に、均実はそう話しかけた。 「それは……わかりません。」 それはそうだろう。 困ったような悠円の声に均実は苦笑した。 昨日あれだけ話して、劉備がこなければお笑い草だったが、均実はすこし半信半疑だった。 確かに亮のような若者にまで、劉備は三度も屋敷を訪れ、礼をつくしたとなれば、世間の知識人は劉備への認識を良くするだろう。 だが本当にそこまでするのだろうか。 新野にいた間、劉備はけして暇ではなかった。 一度目は劉表を訪問したついでだったし、二度目はどうしても均実の事情が気になったためだろう。 三度も本当に来るかは自信がなかった。 「じゃ、悠円。ちょっと行ってくるね。」 均実がそう言って屋敷を出ようとしたとき、その時馬の蹄の音を聞いた。 劉備がやってきたのだ。 まったく都合がいいのか、悪いのか…… 噂をすれば影というやつらしい。 亮が帰ってくるまでに、劉備が来るか来ないかを噂しなくて良かったな。 そんなふうに均実は思った。 門を出ようとしたところで、ちょうど劉備は屋敷の前についた。 「今日、臥竜先生は在宅か?」 関羽と張飛を従えて、劉備は均実に話しかけた。 「はい。養子の件も落着しましたので。」 あ〜……でもまだ寝てるかも。 というのは省略した均実の答え。均実は悠円に起こされたので今起きているが、かなり眠い。 昨日夜更かししすぎたようだ。 劉備は嬉しそうに頷いたので、省略せざるえなかった。 これが三度目だ。会えなければ確かに可哀想かもしれない。 「どこかに行かれるところか?」 均実が自分達を出迎えるためにでてきたわけではないのがわかったのだろう。 劉備は均実に聞いた。 あ〜……私も生の『三顧の礼』がみたかったなぁ。 そんなことを均実は考えていたが、徳操の招きを無視するわけにはいかない。 「はい。水鏡先生に呼ばれているもので。すぐ戻ります。」 「そうか、お気をつけられよ。」 訪ねてきた劉備に対して、屋敷の中に招き入れることもせず去ろうとする均実に張飛は一瞬苛立ったようだ。 張飛は均実があの姫だとまだ知らない。 劉備は張飛を制すると、彼にそれを教えてやることをせず、横にいた関羽に笑いかけた。 「いつまであれを続ける気かな?」 「さて?」 関羽は苦笑いを浮かべ、劉備のその言葉をうけた。 彼らは均実と入れ違いに、屋敷に入っていった。
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