息が白い。 悠円は大きく口を開けて息を吐き出すと、周りの寒さを自覚した。 冬だ。 吸い込んだ冷たい空気で、肺まで凍る。 門を開け、屋敷の敷地外に出るとあたりは真っ白だった。 もう止んでいるが昨日から降り続いていた雪が、しっかり積もったらしい。 寒いはずだ。 悠円はそう思って、もう一度周りを見回す。 空は晴れている。天の色は、白に溶け込むように淡い。 真っ白な世界のはずなのに、一つ違う色をしたものが動いているのが目にとまる。そんな景色に悠円は一瞬目を見開いた。 馬に乗ってゆっくりとこちらに近づいてくる姿。 均実だった。 文には毎回自分にむけて何かしら書かれてあったので、そんな長い間会っていないような気はしないが、本当に久しぶりだ。 敬語は使える様になったか、とか、勉強は何をしている、とか。 すこしからかいを含むようなことが、彼女の国の言葉で書かれていた。それを純から聞く度に、早く帰ってこないかと思っていた。 悠円は均実には未だに姉のような感じをもっている。 だから一旦こちらに帰ってくるという連絡を受けたとき、心から喜んだ。今日こそ帰ってくるかと思い、こんな朝早く様子を見に外に出たのだ。 嬉しくて思わず駆け寄る。 だが…… 「均実様……」 均実の顔に悠円は唖然とした。 髭が生えている。 自分の記憶と知識に間違いがなければ、均実にはそんなもの生えないはずだ。 悠円の戸惑いに気付いたのか、均実は門の前で馬を下りると笑みを浮かべる。 「どう? これでも女に見える?」 「それは?」 「セロハンテープで、適当な長さに切った髪の毛を口元に引っ付けただけ。」 「せろ…?」 均実はそういいながら、髭をはがしてみせた。 以前純からもらった筆記用具が、こういう使い方もできるとは思っていなかった。 悠円はなぜそうなるのか理解できないようだが、まあ別に問題はない。 もう一度髭を貼りなおすと、悠円は苦笑した。 行動が突飛であるのは、何年経っても変わっていないらしい。 「寒いね。風邪ひかなかった?」 慣れた動きで馬から下りると、均実は悠円にそういいながら馬を預けた。 「大丈夫です。皆元気ですよ。」 「おっ、敬語ができるようになってる!」 均実が笑ってそういうと、悠円は少し憮然とした顔をした。 「当たり前でしょう。均実様が新野に行ってから、どれだけ経ったと思われているんですか?」 確かにもう六年は経つ。 悠円ももう十四。背も伸び、少し声も低くなり始めていた。 その姿が時の流れを如実に表している。 「そっか……。そうだね。」 六年。その間に、自分は歴史を変える準備を整えられたのだろうか。 やれることはやった。 均実はそう思えるだけの勉強もこなしたし、そしてそのためにここに帰って来た。 懐かしい屋敷の門をくぐる。 長い間留守にしていたけれど、この屋敷は雪が積もっている以外は何の変わりもない。 辺りは真っ白な雪の世界。この冬は、均実がこの世界に来てからもっとも寒いもののような気がした。
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