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均しき絆 作者:奇伊都

第41回   白き世界

 息が白い。
 悠円は大きく口を開けて息を吐き出すと、周りの寒さを自覚した。
 冬だ。
 吸い込んだ冷たい空気で、肺まで凍る。
 門を開け、屋敷の敷地外に出るとあたりは真っ白だった。
 もう止んでいるが昨日から降り続いていた雪が、しっかり積もったらしい。
 寒いはずだ。
 悠円はそう思って、もう一度周りを見回す。
 空は晴れている。天の色は、白に溶け込むように淡い。
 真っ白な世界のはずなのに、一つ違う色をしたものが動いているのが目にとまる。そんな景色に悠円は一瞬目を見開いた。
 馬に乗ってゆっくりとこちらに近づいてくる姿。
 均実だった。
 文には毎回自分にむけて何かしら書かれてあったので、そんな長い間会っていないような気はしないが、本当に久しぶりだ。
 敬語は使える様になったか、とか、勉強は何をしている、とか。
 すこしからかいを含むようなことが、彼女の国の言葉で書かれていた。それを純から聞く度に、早く帰ってこないかと思っていた。
 悠円は均実には未だに姉のような感じをもっている。
 だから一旦こちらに帰ってくるという連絡を受けたとき、心から喜んだ。今日こそ帰ってくるかと思い、こんな朝早く様子を見に外に出たのだ。
 嬉しくて思わず駆け寄る。
 だが……
「均実様……」
 均実の顔に悠円は唖然とした。
 髭が生えている。
 自分の記憶と知識に間違いがなければ、均実にはそんなもの生えないはずだ。
 悠円の戸惑いに気付いたのか、均実は門の前で馬を下りると笑みを浮かべる。
「どう? これでも女に見える?」
「それは?」
「セロハンテープで、適当な長さに切った髪の毛を口元に引っ付けただけ。」
「せろ…?」
 均実はそういいながら、髭をはがしてみせた。
 以前純からもらった筆記用具が、こういう使い方もできるとは思っていなかった。
 悠円はなぜそうなるのか理解できないようだが、まあ別に問題はない。
 もう一度髭を貼りなおすと、悠円は苦笑した。
 行動が突飛であるのは、何年経っても変わっていないらしい。
「寒いね。風邪ひかなかった?」
 慣れた動きで馬から下りると、均実は悠円にそういいながら馬を預けた。
「大丈夫です。皆元気ですよ。」
「おっ、敬語ができるようになってる!」
 均実が笑ってそういうと、悠円は少し憮然とした顔をした。
「当たり前でしょう。均実様が新野に行ってから、どれだけ経ったと思われているんですか?」
 確かにもう六年は経つ。
 悠円ももう十四。背も伸び、少し声も低くなり始めていた。
 その姿が時の流れを如実に表している。
「そっか……。そうだね。」
 六年。その間に、自分は歴史を変える準備を整えられたのだろうか。
 やれることはやった。
 均実はそう思えるだけの勉強もこなしたし、そしてそのためにここに帰って来た。
 懐かしい屋敷の門をくぐる。
 長い間留守にしていたけれど、この屋敷は雪が積もっている以外は何の変わりもない。
 辺りは真っ白な雪の世界。この冬は、均実がこの世界に来てからもっとも寒いもののような気がした。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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