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均しき絆 作者:奇伊都

第40回   未来に封じる争いの種

「なるほど、天女はまた手からすりぬけたか。」
 簡雍の笑いを含んだ声が耳に痛い。
 関羽は戦いを終え、樊城にはいった劉備についてきた簡雍にからかわれていた。
 ほぼ戦いの後始末は済んだ。
 後は新野に帰るだけだろう。
 やるべきことを終え、あとは樊城を出発するという劉備の命令を待っているところに、簡雍がやってきたのだ。
「均実殿に対して甘すぎではないか?」
「ああ、それはわしも思う。何故わざわざ恋敵のもとへ想い人を送り出すのか、わしには理解できん。」
 からかわれている間に、趙雲まで自分を訪ねてきた。
 彼も自分をからかいに来たに違いない。
 まったく……
 関羽はうんざりしながら、その二人の客に応対していた。
「側にいてくれ、と正直に言えばいいではないか。」
 二人が関羽の行動についてそう指摘する。
 関羽は今回そう言うつもりはなかった。
 前、古城で別れるときはそう言った。
 だが彼女はそれで留まらなかった。
 だから言わない。もう言わない。
 無理に留めることは、自分にはできない。
 均実が笑っているのが、関羽は一番嬉しかった。
 だがもし怒っていても、困ったような顔をしたとしても、それでもいいと思う。
 せめて……泣いてほしくはないのだ。
「それが甘やかしているというんだ。」
 すこし呆れ気味に言う簡雍に、なんともいえない。
 彼女の涙を何よりも見たくないと思ってしまう。その時点で関羽は均実に強くでられない。
 仕方がないだろう。
 彼女を守ると約束した。
 守りたい。
 自分にできることなら……彼女の心までも。
 本当なら、側で、を守りたいの頭につけたいところだが、それはできない。
 彼女の束縛は……自分にはできない。
 話をきりあげるように、関羽は顔をあげる。
 そういえば何故彼らはここにいるのだろうか。
 劉備と簡雍は友人のようなもので、よく一緒にいる。趙雲も劉備の護衛としてついていなければおかしくないか?
 だが彼らは劉備とともにいなかった。
「兄者はどこに?」
「県令殿に会っているさ。」
 簡雍はそういった。
 なるほど。もうそれなりに治安も落ち着いてきた樊城であるし、県令として地位のある劉泌をたずねているのなら、それほど身の危険もないだろう。
 だが関羽は眉をしかめた。
「ここに来られてから一度会われただろう。なんでそう何度も。」
「県令殿に用があるのではない。寇封という若者に用があるらしい。」
 今度は趙雲が関羽の問いに答えた。
「どうやら養子にと望んでいるという。」
 何故っ?
 関羽は一瞬叫びそうになった。
 劉備にはもう劉禅という息子がいる。
 男子を養子にとる必要はない。
 というより……
 関羽は養子をとるというその案に、必要どころか危険を感じた。
 跡取り争いは、大将の子供である兄弟間で争われる。
 それは袁紹しかり、劉表しかり。
 寇封は好青年にみえた。だがそれとこれとは別問題だ。
 将来、劉禅との争いの種になるのが目にみえている。
「どこへ行く?」
 簡雍は二人を放って歩き出した関羽に、どこか諦めたような声をかけた。
「兄者を止めに行く。」
 関羽はそう言った。
 趙雲は関羽を止めようともしない。
 だが簡雍も趙雲も、そして関羽もわかっていた。
 劉備は言い出したらきかないことを。

 隆中に向かう途中、均実は寇封が劉備の養子になったという話を風の噂で聞いた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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