数日間、牽制に兵を出したりしていたらしい。 いくつかの案をだしては、それを実行する手を打った。 本格的なぶつかり合いというのはない。それはあちらが水上戦に慣れていないためでもあるだろう。 亮は思案しつつ、ある丘に登った。陸からは遠くの曹操の陣を見ることはできないのだが、考えをまとめたいと思ったのだ。 だがそこには先客がいた。 それに気付いた時、亮は一瞬歩みを止めた。 しかしその地面に座り込み、立てひざに顔をのせた姿勢の後姿は不定期に揺れている。 そっと前にまわり、正面からみると……均実が舟をこいで寝ていた。手には笛を持っている。亮がいないため、あまり人のこないここで、笛を吹いていたのだろう。 時折姿がみえないときがあるが、ここに来ていたのか。 すこし微笑み、目を覚まさぬように横に座る。 そしてまっすぐ曹操の陣があるであろう方向を見据えた。 しかしこれからの戦の構想を練ろうとしたとき、 「ん……」 均実が声を出したので、亮は起こしてしまったかと彼女を見た。だが別に起きたわけではなかったようだ。 ほっとしつつ、亮は均実の顔にかかっていた髪を横にわけてやった。声がでるようになってから、均実は一応一つくくりに髪をまとめるようになったが、きちんと結ぶのが面倒なのかほつれてきている。 異世界から来た娘。 何年もこの世界で過ごし、そしてこの世界で生きていくことを選んでくれた。 何より嬉しかったが、 「評兄ぃ……芳兄ぃ…」 驚いて彼女の顔を見た。 つぅーっと筋をつくって涙が目から落ちた。 「ごめん……」 寝息を立てつつ、謝っている。 涙をぬぐってやると、一瞬微笑むような顔をして再び涙が流れた。 「ごめんなさい……」 家族……か。 亮はふたたび寝息をたてはじめた均実から目をそらした。 また自分が配慮していなかったことに気付く。 均実にだって日本に家族がいるだろう。 それを自分のために諦めてくれたのは嬉しいが……それが均実にとっていいことだったのだろうか。
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