魯粛は夜になってから亮を連れて行こうとした。 曰く、ようやく周瑜が帰ってきたという。 明日は孫権の目の前で会議になる。その前に一度目通しをしておくべきだという。 「孔明殿、彼女も連れて行かれるのか?」 当たり前のように亮の後ろについてきている均実をみて、魯粛は困惑したような声をだした。 「そうですが?」 亮は何か問題が?という雰囲気を含ませて言った。 一人にしておくのは不安だった。 離れていると、どこかに何も言わずに行ってしまいそうな気がした。 「何かあれば責めは私が受けますよ。」 亮がそういうと、魯粛はそれ以上何も言わなかった。 だが屋敷に入る前に、家人に止められた。 亮と魯粛以外は通すなといわれているらしい。 「困ったな……」 「供をつけますから、客舎のほうに均実殿だけ戻っていただいては?」 「しかし――?」 亮が困惑していると、均実は彼の着物の袖を軽くひっぱった。 見ると、屋敷の庭のほうを指差している。 家人に聞くと、庭ならばいれてもいいと言われた。 「庭で待っていてくれるのかい?」 亮がそう聞くと、均実は小さく頷いた。
そう、ただ頷いた。 亮の不安を和らげるような微笑もなく。 ただ均実は頷いたのだった。
|
|