同じころ…… 「季邦殿」 呼ばれ振り向くと、今の今まで話し合っていた相手が追いかけてきていた。 手綱をひき、それを待つ。 そんな季邦のすぐ側で、亮は馬を止めようとした。だが荒い気性の馬ではないはずなのに、うまくいうことを聞かず、季邦から数メートル離れたところで何とか前足の一方を宙で止めた。 すこし季邦は苦笑しそうになる。 「乗馬は苦手ですか?」 「得意では、ないね。」 「そんなところまで邦泉とはよく似てますね。」 あの友人もそれなりに乗ることはできるが、けして上手いわけではなかった。 顔はあまり似てないが、この二人はさすが兄弟と思うときが多々ある。季邦は均実と話しているときと、亮と話しているときとはまるで同じ空気を感じ取っていた。 すこし驚いたような顔を亮はしたが、すぐに微笑んで馬を撫でた。 横を兵が無言で歩いていく。一人ではない、多くの人間が黙々と同じ方向に進んでいた。 「途中まで送ろうと思ってね。」 亮の申し出を断る理由もなく、季邦は再び馬を歩かせた。 「まだ何かお話でも?」 そしてなんとか馬に動いてもらうことに成功した亮が、季邦の横に並んだ時にすこし小声で聞いてみる。 「これが本当に最後だ……止める気はないんだね?」 亮がまるで死刑宣告のような声で言った言葉に、季邦は口角をすこし引いた。 甘いなと思う。自分を説得することに意味はない。自分という因子によって、劉備は次への行動がより行いやすくなるのを、彼は理解しているはずなのだから。 自分の存在は、逆境にある彼らにとって最悪よりはるかに良い一つの道を示している。 そしてその道を自分が望み、選んでいる。 その道の先で自分がどうなろうとも、亮は気にする必要などないことだ。 「友を守ることができるなら。」 すこし遠くに友人の姿が見えた。 利害は一致している。これ以上話すこともない。 季邦は亮にそう言って、馬の腹を蹴る。 「もうお会いすることもないでしょうけれど、お元気で。」 特にこれからのことで気負っているわけではない。 だが軽く言ったその言葉は、思ったより亮を動揺させたらしい。背後で今まで横に並んでいた馬の足音がピタリと止まった。しかしそんなことは季邦には関係ない。 「私は君を……信じるよ」 だから季邦はそんな亮の声を背に、まっすぐに前をみた。自分の友人がいる場所を。 やるべきことのある場所を……
|
|