「それに、あたしね、夢では栄の・・・でもそれは栄じゃなかった」
「・・・芯悟だった?」
「な、何で?なんで知ってるの?」
「お前、よくここで昼寝してるだろ?」
「もしかして聞いた?」
「聞く気はなかったけどな」
「なんかもうやだ。なんでそんな知ってるの?」
止まっていた涙がまた溢れ出す。そんな伊咲のことを栄はたまらずに抱きしめた。
「栄?」
「お前ほんとバカだよなぁ」
「離してよ。彼女に見られたら・・・」
「・・・・いいじゃん。てか俺彼女いねぇし」
「え?」
抱きしめられた栄の胸から伊咲が顔を覗かせた。栄の顔は笑顔になっていた。
「お前、隣のクラスの江坂と思ってんの?」
「ち、がうの?だってデートの約束とかしてたじゃない」
「あいつとは確かに仲いいけどあいつ俺の幼馴染のことが好きなんだよな。しかも映画の話はそいつと行くため。ってお前どこまで人の話聞いてんだよ」
「じゃ、2人で学校に一緒に来たのは?」
「お前がわけわかんねぇから時間をずらしたらあいつと会って一緒に来た」
「じゃ、じゃあ・・・」
「お前質問が多いな」
笑いながら栄が話す。これはもしかしたら夢の中かも知れない。伊咲はそう思った。そして栄の胸の中で自分の頬をつねってみる。
「いたっ!」
「何やってんだよ」
「ゆ、夢じゃないのかなって思って」
「ほんとにお前はバカだよな。でも・・・好きだよ」
「え?」
「桃が好きだよ」
夢の中のシチュエーションと同じ。でも相手は栄。これは夢じゃない。伊咲はそう思い栄の顔を見つめた。
「ったくほんとにお前は何もしらねえんだなぁ〜もし江坂が俺の彼女だったらなんで俺のこと苗字で呼ぶんだよ」
「みょ、苗字?」
「俺の名前も知らないのか?伊咲桃さん」
「栄じゃないの?」
「まぁ〜俺のこと名前で呼ぶやついねぇし、わかんないかもしれないか。俺の名前は栄芯悟っていうんだよ」
「芯悟?!」
「そういうことです。ったくお前は木っ端図化しい寝言言うは意味わかんねぇ態度取るは、俺にどうしろっていうんだよな」
「ほんとに?本当に芯悟?」
「信じてねぇ?」
「ほんとにあたし・・・栄のこと好きで・・・夢じゃないよね?またシャボン玉のように消えたりしないよね?」
「消えないよ。・・・桃、好きだよ」
「あたしも、あたしも芯悟が大好き」
抱き合った2人の姿。毎日ずっと夢に見ていた芯悟との恋愛。もうシャボン玉のように消えたりはしない。夢の中だけじゃない。これからもずっと一緒にいれる。桃は腕をしっかりと回して芯悟を抱きしめる。
「ずっと一緒にいてね」
「バーカあたり前だろ」
「嬉しい。でもいつからあたしのこと好きだったの?」
また顔を覗かせて桃が言う。芯悟はその視線から逸らすように答えた。
「・・・そんなの言えるか」
ストラップをあげる前から桃が好きだったなんて芯悟は絶対に言わないでおこうと思った。それはまた夢の中で一瞬で消えてしまうシャボン玉の中で聞けるかもしれない。
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