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シャボン玉 作者:一之瀬 芽衣

第4回   もういいよ。何も見たくない
いつもの通学路。小さな花屋の前。学校から少し離れたここでいつも伊咲は栄の姿を待つ。一言でも話したい。その気持ちが毎日、下駄箱に行く時間を合わせる。それを知ってか知らずか栄はだいたいいつも決まった時間に伊咲の待つ場所に現れる。しかし、今日は何時になっても栄は現れる気配がない。10分、20分いくら待っても栄は来なかった。時間も仕方ないということで伊咲は学校へと少しずつ足を進めた。

「ちょっとー聞いてよー!!」

重たい気持ちのまま教室に着くとすぐに莉子がやってきた。莉子は伊咲に耳打ちしてこう言った。

「あの2人、今日一緒に来たのよ!!」

あの2人とは栄と彼女。伊咲は知らずに涙を浮かべていた。

「どうしたの?ちょっと大丈夫?」

「え?」

「泣いてるじゃない」

莉子の言葉で伊咲はやばいと思った。このままでは全て悟られる。必死で涙をぬぐい笑顔を作って見せた。

「いやぁ〜もう昨日のドラマに感動しちゃってさぁ。思い出したらまた泣けてきちゃった。なんかお腹痛くなってきたからあたし保健室に行ってくるね」

莉子の心配して一緒に行こうかという言葉ももう耳に入らないくらいに伊咲は一心不乱に保健室へと走った。もう何も考えたくない。栄のことは見たくない。でもこんなときに限って一番会いたくない人に会ってしまう。

「あ!」

「・・・・」

伊咲は栄を見たが素通りしようとする。しかし、栄は伊咲の涙に気づいた。そしてまたあのときのように腕を掴む。だが伊咲に笑みは戻らなかった。

「どうしたんだ?」

「・・・別に」

栄の顔を見ないように伊咲は答える。栄は掴む腕の力を強めた。心なしか栄の手はとても熱かった。そして声を荒げた。

「別にじゃねぇだろ!お前おかしいぞ」

「ほっといてよ!!栄に関係ないでしょ!!」

栄の言葉と掴む腕も遮って伊咲は一目散に保健室に走った。涙は溢れても溢れてもとまらない。伊咲は改めて栄が好きでしょうがないことを実感した。でもそれは同時に苦しくて切ない片思い以外の何者でもないと思った。



伊咲が栄を好きになったきっかけは夢の中。その日の出来事が夢に出てくるくらい伊咲の中で栄を意識させるようなことだった。

「これやるよ」

「え?」

「なんかおまけでついてたからさ」

まだ伊咲と栄が話をほとんどしないときに栄がふと渡したペットボトルのおまけ。みるとかわいいくまのストラップだった。伊咲は栄がそんなに仲がいいわけではない自分に何故これをくれるのか不思議に思った。それを察してか栄がこう口を開いた。

「なんか似てるからさ。それに」

「え?あたしが?」

「なんかバカっぽいところがさ!!」

「!!ひどい!」

「なぁんつってまぁいらなかったら捨ててくれていいしさ」

笑顔でそういい残し去っていった栄。その姿をじっと見つめながらなんだかかわいいと思ったのがきっかけだった。そしてもらったストラップを携帯につけた。その日の夜、伊咲は夢を見た。それまでは夢と言ってもまったく覚えてない、しかもあまりいいとはいえない夢ばかりだった。しかし、今日は違う。学校のとある教室。男女がいて、女は伊咲。そして男は・・・栄だった。2人はカップルで楽しそうに話している。忘れられない夢。それが栄を更に意識するきっかけとなった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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