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青い空、君と輝いた夏 作者:一之瀬 芽衣

最終回   君と輝いた夏、そして最後の約束
 県大会が開幕した。海星高校は1回戦、2回戦を難なくクリア。エースピッチャーの田辺くんはもうドラフト指名の名が上がる名投手。栄えある強豪高をことごとく抑えてきた。さすがとマネージャーの私でも思っていたが、宏伸は卓ちゃんのほうが強かったと言った。そして私たちは、決勝に駒を進めた。しかし、相手高は紫崎高校。いつもこことは接戦だった。私は決勝を明日に控えて練習の帰りに宏伸と日記帳を買いに文房具屋に行った。

「これにしたら?」
「何言ってんの!それ何?」
「なんか畳っぽいよな!」
「もうまじめに探してよ!!」
「じゃこれは?」

宏伸が渡してきたのは私がほしかった青の日記帳。正直驚いたけどやっぱり宏伸は私のことをよく理解してくれていると思った。

「それほしかったんだ!!」
「だろ?お前顔に書いてあるもん。青の日記帳がほしいって」
「え?どこどこ?」
「バーカ!そんなん書いてるわけないだろ!!」

そうやって私のおでこをこつんとたたく。宏伸の大きな手が正直心地よかった。

 決勝戦当日、空は本当に快晴で卓ちゃんの大好きな青色が空一面に描かれていた。私は激しい胸騒ぎに襲われた。なんだろう。この胸の高鳴りは。そしてそれと同じものを宏伸も感じていた。何か恐いほどの胸騒ぎ。まさか卓ちゃん・・・。私たちの不安をよそに決勝戦は始まった。海星高校は後攻だった。

「ストライク!バッターアウト!!」

審判の声がこだまする。さすがは田辺くん。一回を0点で抑える。そして海星の攻撃、しかし、相手もそんな弱小高ではない。実力を見せ付ける。私たちは互いに0点のまま、とうとう9回まで迎えた。もうこのまま延長に結びつくのではないか。そう誰もが思ったときだった。

「セーフ!!」

相手紫崎高校は2アウト満塁というチャンスのときを迎えた。打たれれば確実に3点入る。もしここで3点取られてしまえば私たちが勝つ確立はほとんどない。私は祈るような気持ちで試合を見ていた。

「ストライク!!」
「ファール!!」
「ボール!!」

2ストライク3ボール。私たちはもう終わってしまうのでしょうか。お願い、卓ちゃん!!力をください!!私はひたすら祈りを込めた。

ボールが上がった。ファールじゃない。もう誰もが無理。そう思った瞬間宏伸がボールをキャッチした。

「アウト!!」

3アウトチェンジ。攻守交替で宏伸がベンチに戻ってきた。

「宏伸・・・」
「あいつ、俺んなか入ってきやがったよ」

そう言って流れる汗の中に光るものがあった。私は卓ちゃんが逝ったんだと思った。でも今は涙を見せれない。卓ちゃんのためにも、弘伸と卓ちゃんは今一緒に戦ってるんだから。

「さ、次は攻撃だな。行ってくるよ」

宏伸はそう言ってバッターボックスに向かった。後から聞いた話、宏伸は卓ちゃんに話しかけていたらしい。そして卓ちゃんも答えてくれたって言ってた。

「さんきゅ」
「勝てよ!俺がいるんだから」
「分かってるよ!!」

「バッター、レフト、中嶋くん」

またもや2アウト満塁のチャンス。でも私は絶対に勝てると信じていた。卓ちゃんが勝たせてくれるって!!そして2ストライク3ボール。宏伸は打った!!そして私たちは勝った。3対0で。こんな話まぐれじゃないかって思うかもしれない。でも、私たちは勝った!!そして卓ちゃんは・・・

 私たちが甲子園に行く数日前に一通の手紙が宏伸の家に届いた。差出人は宏伸だった。
    
    こんにちは。いや、こんばんはかな?
    きっとお前らがこの手紙を読んでるってことは俺はいないんだよな。
    俺は自分の人生を振り返って幸せだって思えたよ。  
    変な約束をひたすら守ってくれるお前らが本当に大好きだった。

    宏伸、お前、ほんと変な奴だったな。俺が転校してった日にいきなり  
    初対面なのに俺に向かってタンカ切ってきたよな。俺がピッチャーだって。
    その割には体でかくてキャッチャー向きだって言われてさ。笑ったぞ。
    でも俺、お前と出会えて、お前と野球できてマジで嬉しかったよ。
    隣にいる泣き虫のことはお前に任せた。

    弘緒、お前とはずっと一緒にいたな。変な話、
    俺はお前と結婚するんじゃないか  
    そう思ってた。でもそれは叶わなかったな・・・。
    でも最後、お前を抱きしめられて本当によかった。
    隣のバカをよろしくお願いします。

                         7月19日  朝倉卓大

7月19日は私たちの決勝戦の前の日だった。そして、お母さんから一筆添えられていた。
    
    7月20日 朝倉卓大は旅立ちました。安らかに幸せそうに・・・。

やっぱり卓ちゃんはあの日決勝戦のあの日逝ってしまったんだ。前日まで震える手で必死に手紙を書いてくれていたんだ。私と宏伸は堪えてきた涙を溢れんばかりに流した。そしてどちらともなくお互いを抱きしめた。


「またお前日記書いてんのか?」
「うん」
「懲りない奴だな。それにしてもあの夏はすごかったな」
「何言ってんの。県大会の決勝戦で力尽きて、甲子園ではボロ負けの一回戦だったくせに」「お前それ言うなよなー」
「せっかく甲子園に行けたのにさぁ」
「いいんだよ。あの夏はあれでよかったんだよ。それより弘緒、早くしろよ。電車乗り遅れるぞ」

今日の空は卓ちゃんの大好きな色で輝いてます。
まるであの日のように。
海星高校の応援をしてくれているかのように。

PS 隣のバカとは相変わらず仲良くやってます。
   そろそろ卓ちゃんとの最後の約束が叶えられるかもしれません。

私はそう日記帳に書いて、ペンを置いた。この日記帳ももう10冊を越えました。次の色はあの色にします。そう、卓ちゃんの笑顔のような太陽のオレンジに。




PS 俺との最後の約束
   神崎弘緒から中嶋弘緒になってください

 

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Novel Editor