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青い空、君と輝いた夏 作者:一之瀬 芽衣

第3回   初めての友達そして秘密を知る人
  新神戸の駅に着いた。私はここで降りる。少し高校とは離れていた。電車で揺られること10分。駅に着いた。徒歩10分、小さいながら立派なマンションだった。私は一目見てここが気に入った。南を見れば海が、北を見れば山がある。見晴らしに惚れた。部屋の中は数回来て物を運んだり、大家さんに見ていてもらって盗難もなかったのですぐ暮らせるようになっていた。中に入って持ってきた荷物を置くと私は突然不安になってきた。本当に卓ちゃんはいるのだろうか。本当にこんな気持ちで高校を選んでよかったのだろうか。そんなことを考えていると私は長旅の疲れかそのまま寝入ってしまった。

 いろいろしていると時間が過ぎるのは早い。もう今日は入学式。真新しい制服に身を包み、もしかしたら卓ちゃんに会えるかもしれないというたった一つの希望を胸に抱いて私は家を後にした。駅までは退屈しないよう買ったばかりのMDを耳につけて好きな音楽を聴きながら歩いた。駅に着くと定期を改札にかざし、電車に乗り込んだ。私は座らずにドアに立って景色を眺めていた。MDを聴いていても人の声が耳に入ってきた。

「なぁ、あの子新入生ちゃう?」
「あ、ほんまや。制服とかめっちゃきっちりしとうもんな」
「うちらも去年はそうやって見られてたんかな」
「そうやで。ほんま早いなぁ」

聞きなれない関西弁、見慣れない土地。全てが新鮮だった。そして、電車に揺られて数十分、同じ制服を着た人がぞろぞろと電車を降りた。私もつられるように降りた。みんな母親がついてきている。一人ぽつんと歩いているのは私だけのような気がした。でも、そんなことはあんまり気にしないようにした。母親に迷惑をかけるわけにはいかないと私が自分から拒絶したのだから。

「なぁ、あんたどっから来たん?」

新入生が体育館に集められ、私は言われた席に座った。4組だった。すると隣にいた子が私に話しかけてきた。これがあおいとの初対面だった。

「え?あ、県外から来たんです。私」
「へぇそうなんや。うちは大阪やねん。ここの制服めっちゃ可愛くない?うち、制服見てここにしようって決めたんよ。あ、うちは歳宮あおいっていうねん。よろしく」
「あ、私は神崎弘緒です。よろしく」

歳宮あおい。彼女はこの高校で初めて出来た友達だった。私は元気っ子あおいのおかげで人見知りながらたくさん友達を作ることが出来た。そして学校には何とか慣れてきたある日、部活紹介が行われることになった。体育館に集められていろんな部活が一つずつ紹介されていった。

「なぁ弘緒はなんか部活入るん?」

私は未だ卓ちゃんには会えてなかった。やっぱりこの高校じゃなかったのかな。と一抹の不安も度々あったが自分の努力を水の泡にはしたくなかった。

「んー私、野球部のマネージャーやりたいなって思って」
「野球部のマネージャー?」
「うん。会いたい人がいるんだ」

私は先生の目を気にしながらこの海星高校に来た理由をあおいに話した。

「マジで?すごいやんそれ!」
「そんなことないよ」
「いや、絶対そんなんすごいって!しかも会えたらもうほんま運命やな」
「そんな、ことないって」
「いや、うち応援するで!!がんばりな!!」

あおいが応援してくれて、私はますますやる気が出てきた。そして、野球部にマネージャーの依頼を提出しに行った。

「ほんとにうちの野球部は厳しいよ。できるん?」
「はい!!」
「まぁそこまで言うんやったらええよ」
部室に志願届けを出しに行ったら3年生の先輩がいた。最初は無理かなって思ったけど私の願いが通じたのか先輩は快諾してくれた。私は野球部のマネージャーになって卓ちゃんに会えるきっかけを捜した。1年生の入部者は40人といたって多い。しかし、最後まで続ける人はほんのわずかだといっていた。そしてその人たちと対面した。私は卓ちゃんを捜した。でもそこに卓ちゃんはいなかった。

「えーいてへんかったん?」

私はその日家に帰ってすぐあおいに電話をかけた。誰かに話を聞いてもらいたくて仕方なかった。あおいは私の話に真剣に耳を傾けてくれた。

「うん」
「でも、今日は全員来てたわけじゃないんやろ?そしたらまだ望みあるかもしれんやん」
「うん」
「せっかくその人に会うために来たのに諦めたらあかんって!まだわからんやん!!そや今度たこ焼きのおいしい店に連れてったるわ」

あおいはそうやって私を慰めてくれた。それがすごく嬉しかった。でも、いつになっても卓ちゃんは野球部には現われなかった。私は卓ちゃんがいるはずの高校生活が来ることを祈るしかなかった。

「弘緒ちゃん、なんやまた新入部員が入ったんやて」
「え?そうなんですか?」
「うん。なんか迷ってたらしいけど、入部することにしたらしいで。もうすぐ挨拶に来るってゆーてたわ」

もしかしたら卓ちゃんかもしれない。私はその人が部室に入ってくるのを高鳴る胸を押さえつつ待った。足音が聞こえる。そしてその足音が止まった。ドアに手をかける音が聞こえて、ドアが開いた。

「はじめまして、ちょっと遅れて入部しました中嶋宏伸です」

卓ちゃんじゃなかった。でも彼は卓ちゃんをよく知る人物だった。

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Novel Editor