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青い空、君と輝いた夏 作者:一之瀬 芽衣

第2回   海星高校への受験
  インターネットでの検索結果、海星高校は数校あった。らちがあかない。一つ一つ調べても何も手がかりがない。私は卓ちゃんとの約束を果たすことができない。そう落胆しながら進路相談を受けた。

「海星高校か」
「はい。どこにあるんだ?」
「・・・わからないんです」

担任が眉間にしわを寄せていた。ごもっともだ。だってどこにあるかも分からない高校を志願されても願書とかその他どうしようもないのだから。

「何で海星高校に行きたいんだ?」

担任は足をゆらしながらいらいらして聞いてきた。私は隠してもしょうがないと思ったので卓ちゃんとの約束を担任に話した。すると担任は思い出したかのように言った。

「朝倉が言ってる海星高校って言ったらもしかしたら野球の名門校の海星高校かもしれないなぁ」

そして担任はそこの学校に間違いないと念を押してきた。私は教えられた高校をもう一度ネットで検索してみた。そこは間違いなく、何度も甲子園に出ている名門校だった。受験は一回。間違えたら卓ちゃんには会えない。でもここに間違いないと担任に念を押された。私は担任の言葉を信じて県外の海星高校を受験することにした。

「海星高校ってどこ?」
「県外」
「県外だけじゃわからないでしょ」
「・・・甲子園のあるとこ」
「甲子園?」
「そう」

担任が念を押した海星高校は、高校野球の聖地甲子園がある兵庫県だった。両親、特に母親は猛反対してきた。一人暮らしをさせるわけにはいかないだの、関西は遠いだの。耳にタコが出来そうだった。それでも私は行きたかった。1%の可能性でも賭けてみたかった。
母親を含めての三者面談の日、志望校決定が間近に迫っていたが私は断固して意見を曲げなかった。

「そうはいいましても、先生、大学ならまだしも高校で一人暮らしは・・・それに関西は遠いですしね」
「でも彼女が行きたいと思うところが一番ですからね」
「そうはいいましてもねぇ・・・」

担任は私を弁護してくれた。母親はまだ反対している。平行線状態がひたすら続いた。

「彼女の意志を尊重してあげてはいかがですか?」

担任のその一言で渋々ながら母親は了解してくれた。私は志望校を海星高校一つに絞ってひたすら頑張ることにした。理科、数学、この2教科が私の最大のネックになっていた。海星高校は野球の名門校というだけあって倍率も高い。兵庫の私立高校でも三本の指に入るかもしれない。私はとうとう自分だけの力では無理だと諦め、塾に通った。夏休みは毎日塾。ひたすら塾。塾と恐ろしいくらいの塾地獄。それでも決して落ちるわけにはいかないと秋、冬、死ぬものぐるいで毎日頑張った。その熱意が伝わったのか一番反対していた母親が一番応援してくれた。

 受験当日、私は初めて海星高校に来た。外部でも受験できたがあえて自分の目でその高校を見ておきたかった。ここにもしかしたら卓ちゃんがいるのかもしれない。そうそれを確認したかった。でも受験者1500人というありえない人数。どこに卓ちゃんがいるのかなんてまったくわからない。とにかく捜すのは不可能だった。私は合格して卓ちゃんを捜す!!そう決めて受験に臨んだ。そして夏、秋、冬の成果、私は海星高校に合格した。それから家捜しやなんやらでとにかく忙しい毎日が終わり、無事卒業して春、私は神戸に旅立った。

「気をつけるのよ。何かあったらすぐ電話してきなさいよ」
「わかってるって」
「もし、何かあったら・・・」
「もうこれで何回目?心配しなくても大丈夫だって」

駅までの母親の見送り。新幹線の切符を買ってホームに行く。母親は泣きそうな目をしていた。なんだか私ももらい泣きしそうになった。新幹線に乗り込む、ドアが閉まると子犬のような目をして母親はひたすら手を振っていた。動き出すともう姿があっという間に見えなくなってしまった。私はドアの前で泣いた。初めて親元を離れることを実感した。

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Novel Editor