卓ちゃん、私、卓ちゃんと輝いたあの夏を絶対に忘れないよ。
今年もまたこの時期がやってきた。高校球児の夏、高校野球。
今年の夏は卓ちゃんがいなくなって2年目。
去年はどうしても見ることができなかったけど、
今年は憧れの聖地、甲子園に野球を見に行くね。あなたの大親友と一緒に。
私は渡す当てのない手紙のような日記を毎日書き続けてる。 こんなこと、もし卓ちゃんが知ったら笑うんだろうな。 でもね、私はこれで十分幸せなんだ。卓ちゃんに話しかけてるみたいで。 私は今年大学2年生になりました。
「弘緒、実は俺引越しするんだ」 「え?何で?どこに引っ越すの?」
幼なじみの朝倉卓大がいきなり私、神崎弘緒に言った。私たちは生まれたときからの幼なじみ。親同士が友達ということもあって、常に行動を共にしてきた。私たちはほとんど離れる経験がなかった。めずらしく卓ちゃんがアイスキャンデーをご馳走してくれると私を誘ってくれたので何かあったのかな?と思ったらこういうことだったのか。私は左手のアイスキャンデーが溶けないように卓ちゃんの話を聞いた。
「遠くだって」 「遠く?」 「そう、ずっと遠く・・・」
卓ちゃんは空を見上げながら言った。私は卓ちゃんの姿がおかしいながらもやっぱり左手のアイスの溶け具合が気になってそっちに集中していた。
「なぁ、弘緒」 「ん?あ、溶ける」 「お前、俺がすごい野球好きだって知ってるよな?」 「うん」
卓ちゃんは中学1年ながら、地元では名を馳せる名ピッチャーだった。小さいころからボールが友達で、常にボールを持ってた。私もいつもキャッチボールに付き合わされたものだった。小学生になると少年野球団に入って、人よりもコントロールも速度もずば抜けていた。今も中学では一目おかれている。私は何のとりえもなかったからその卓ちゃんと幼なじみということが少しだけ鼻高だった。
「俺、野球は命の次に大事だと思うんだ」 「うん」 「中学3年になったら話したいことがあるから、それだけ覚えておいて」 「うん」
なんだかよく分からない呼び出しから一週間後卓ちゃんは引っ越していった。場所はただ遠くとしか言わずに・・・。私は約束という言葉を忘れなかったがそれなりに中学生活を満喫していた。
中学3年生になった。卓ちゃんはあれから一度も連絡してこない。どうしたんだろう。約束は覚えてないのかな?私は少し不安になりつつあった。もしかしたらもう2年前の話なんて覚えていないのかな。毎日そんな気持ちでいっぱいだった。そんな5月のある日、一本の電話がかかってきた。
「弘緒?」 「卓ちゃん?」 「ごめんな。全然連絡できなくて・・・」 「ずっと待ってたんだよ」 「ごめん」 「ううん。あのときの話聞かせてくれるよね?」 「・・・あのさ、お前、高校決めた?」 「ううん。まだ決めてないよ」 「・・・海星高校、受験する気ない?」 「海星高校?」 「うん。そこで会おうよ」 「海星高校ってどこ?!」 「あ、ごめん。小銭が切れる」
プープープープー
受話器から聞こえるのは電話が切れた音。私はどうしたらいいのか分からなかった。卓ちゃんは一体何が言いたかったのだろう?全くもって理解できなかった。ただ海星高校とだけ告げただけ。何が根拠かも彼が私に何を求めていたのかも分からない。とにかく私は海星高校がどこの高校かを調べることにした。
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