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あなたのために・・・ 作者:一之瀬 芽衣

最終回   愛する人の幸せを祈っています
 あれから数ヶ月、今日はおにいちゃんとはるきさんの結婚式。真っ白なウェディングドレスに身を包んだ彼女は天使のように美しかった。私の左手には薬指のリング。慧くんがくれた。次はあなたたちだねって笑顔ではるきさんが言ってくれた。私は辛くて家を出た。その間もずっと慧くんはそばにいてくれた。辛いときも、楽しいときも、悲しいときも、嬉しいときも。でも私はいつも苦しかった。おにいちゃんには幸せになってもらいたい。そう思って出した結論がこんなにも辛すぎるなんて。2人は愛し合っていた。はるきさんと慧くんは愛し合っていた。あの日、初めてはるきさんに会った日、彼女は私にこう言っていた。

「これ琉希ちゃんにしか言わないけれど、自分で買ったのリング」
「え?」
「あいつこうでもしなきゃ、彼女作らないからさ。私のこと気にして。お前が暇なとき相手するやついないとかわいそうだろうってね。私はあいつのこと好きだけど私じゃあいつを幸せにできないし、近所の幼なじみのおねえちゃんだからね。だから琉希ちゃん、あいつのことよろしくね」

そのときはよく意味がわからなかったけれど、私じゃ幸せにできないって言った彼女の言葉の中に彼が若すぎるということと重荷になりたくないという意味がこめられていた。きっと彼を愛してもどこまでも自分のほうが上だということに多大なるコンプレックスを抱いていたのだろう。

「幸せ?」
「うん」
「よかった」
「あなたも幸せにね」

結婚式の会場で2人が交わした会話が私の中に大きく響き渡る。もし、もしあの時、私がはるきさんを呼んでいればここで新郎新婦として並んでいたのははるきさんと慧くんなのに。

「どうした?気分でも悪いのか?」

うつむく私を慧くんが気にかけてくれる。こんなにも優しい彼の幸せを私は壊してしまった。彼の夢を壊してしまった。はるきさんまでもがドレスを引きずり駆け寄ってきてくれる。

「琉希ちゃん?」
「・・・ごめんなさい」
「え?」
「すべてごめんなさい!!」

私はその場で泣き崩れた。愛する2人を引き裂いて、たとえ愛していたおにいちゃんの幸せを形にできたとしてもこの2人の幸せは形にすることができなかった。

「琉希ちゃん、ほら笑って。今日は結婚式なんだから」

白い手袋をつけた手が私の前に差し出される。私はその手をとって立ち上がった。はるきさんは握った私の手を慧くんに差し出した。慧くんはそっと私の手をとってくれた。

「琉希、もう何も苦しまなくていいんだよ」
「これからは私たち姉と妹として仲良くしようね」

2人の言葉が重なる。こんなにこんなに綺麗な心を持った2人。私はもうこれ以上2人を裂くことはできないと思った。そして私の手を慧くんから離し、はるきさんに差し出した。2人は私の顔を見た。私はうなずいて自分の薬指から指輪を外し、彼女の薬指にはめた。

「愛する人と幸せになることを祈っています」

私がそう言い、もう一度うなずくと慧くんはウェディングドレスの花嫁を連れ去った。そして花嫁は本当に愛する人の元に行った。

おにいちゃんごめんね。私、おにいちゃんよりも愛する人を見つけました。だから愛する人の幸せのために私はもう一人の愛するおにいちゃんを犠牲にしました。でもね、これはきっと間違いじゃないし、後悔もしていない。

今度2人に会うことができたら最高の親友になれるといいな。 
私の愛する人がずっと幸せでありますように・・・


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Novel Editor by BS CGI Rental
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