FROM 森下 慧 はるき、話したいことがあるから明日、7時海の公園に来てほしい
慧くんは昨日誓ったように今日はるきさんを呼び出してプロポーズをするつもりだった。私は慧くんのその強い決意を邪魔するわけにはいかないと止めなかった。このプロポーズをはるきさんが受け入れればおにいちゃんとの結婚は破談になる。でも私、おにいちゃんを愛しているけれど慧くんが好きだから。
「琉希、入るぞ」 「おにいちゃん」
慧くんがはるきさんに指定した時間から2時間後の9時。おにいちゃんが私の部屋を訪ねてきた。
「・・・お前、森下慧って知ってるか?」 「え?慧くん?うん」 「・・・あいつはるきのなんなんだ?」 「どういうこと?」 「今日、はるきと一緒にいるときにメールが来たんだ。あいつが席を外したときに携帯見たらそいつからメールが入ってた。だから消した」 「消した?どんな用件?」 「話があるからってやつ」
知らなかった。おにいちゃんがそんなことをしてたなんて。じゃあ慧くんは、慧くんはこないはるきさんをずっと待ってることになる。私は血相を変えておにいちゃんを問い詰めた。
「なんでそんなことをしたの!!」 「あいつは僕の婚約者だぞ!!それなのに他の男と会うなんて!!」 「だからって勝手にそんなことしていいの?」 「なんだよ!お前あいつの見方か?僕の結婚が破談になってもいいっていうのか!!」 「・・・わよ。いいわよ!!むしろ破談になってほしいくらいだわ!!」 「なに!!」 「だって私!!おにいちゃんが好きなんだもの!!」
言葉にしてしまった。絶対に口にしてはいけない言葉。でも後にはひけなかった。この数年間ずっと苦しかった。いつからかおにいちゃんを恋愛対象に見るようになって、こんな風に思うのはきっと病気だって。おにいちゃんが好きなんて言ったらみんなに気持ち悪がられるんだろうなって。ううん。そんなことはきっと口に出しちゃいけないんだってずっとずっと言い聞かせてきた。もし、私がおにいちゃんの妹じゃなかったらって何度思っただろうな・・・。
おにいちゃんはただ黙って立ちすくんでいた。私はかばんを持っておにいちゃんの横を抜けて部屋を出た。外は雨が降っていた。それなのに傘も持たず、海の公園に足を早めた。走っても走っても涙は止まらなくてずぶぬれになっている慧くんの姿を見て抱きしめることしかできなかった。
「慧くん・・・」 「・・・ダメだったよ」 「慧くん・・・ごめんね」
慧くん、私はダメな女の子なの。こんなに、こんなにも傷ついている慧くんの姿を見てもおにいちゃんの幸せを願ってしまう。今すぐにでもはるきさんを呼んであげればあなたはすぐにでも幸せになれる。でもね、でもね、ごめんなさい。降りしきる雨が私の心を洗ってくれるなら、私は彼女の代わりにずっとあなたのそばに居ます。
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