■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

あなたのために・・・ 作者:一之瀬 芽衣

第7回   打ち明けた真実
「琉希?」

私に声をかけてきたのはスーツ姿の慧くん。すごく大人びていて街で会ってもきっと分からないくらいに彼は素敵になっていた。着ていたスーツをいすにかけ、彼が座る。

「久しぶり」
「ああ。かなりな。お前は?今どうしてんの?」
「普通にOLやってるよ。慧くんは?」
「俺は営業。毎日くたくただよ。日曜の今日ですら休日出勤だぜ」

軽く笑いながらコーヒー買ってくるよと彼が席を立つ。5年前がまるで昨日のようにフラッシュバックした。ここに慧くんが座って私がいて。ふと彼のスーツのポケットから携帯が見えた。あのストラップを彼はまだつけてくれていた。コーヒーを持って彼が戻ってきた。私が携帯を見ていたことに気付き、携帯をポケットからだした。

「これ、なんか外せなくてさ。あのときの気持ちが嘘だったってことになるんじゃないかなって」
「慧くん・・・私もずっと外せなかった」
「そっか。ありがとう」

お互い笑顔になり、私たちはそれから他愛もない話をした。慧くんの会社の話、私の会社の話。でも肝心な話ができずにいた。彼はそれに気付いたのか場所を変えようと立ち上がる。本当にこういうさりげなさが変わってなくてうれしかった。彼が連れてきてくれたのはあの海が見える公園だった。

「何か話したいことがあるんだろ?」

慧くんがあのベンチに腰かけて言った。私はうつむいて何も言えなかった。いざとなるとどう言葉にしていいのかわからない。

「ゆっくりでいいよ」

何もできない私の髪をゆっくり撫でながら慧くんが言う。涙がこぼれてきた。こんなに醜い私をこんな暖かい手で触らないで。私は彼の手を自分の手で握り口を開いた。

「私、叶わない恋をしていたって言ったでしょ?実はその人もうすぐ結婚するの。辛くて辛くて本当にどうしていいかわからなくて。私はその人を愛することはできても形にすることはできない。こんなに近くにいるのに。おめでとうって無理に言わなきゃいけない・・・」
「琉希・・・」
「私、わたし・・・」

私が言葉に詰まると慧くんはぎゅっと抱きしめてくれた。もういいよってまた髪を撫でながら。春の風が私たちを包み込み優しくまとう。

「慧くん・・・私もう一度慧くんと一緒にいたい」
「琉希・・・」
「はるきさん結婚するんでしょ?」
「え?!」
「もういいよ。ちゃんと知ってるから」

慧くんの胸に顔をうずめたままそう口にした。彼は私の肩を抱き、自分の胸から離した。私が彼の顔を見るとさっきのはるきさんと同じ表情を浮かべて。

「慧くん?」
「いつ?誰と?」

私の体を揺らしながら彼が言う。もしかしてと私が口にすると彼は私から離れて頭を抱えた。

「知らなかったの?」
「明日、プロポーズするつもりだった」
「ほんとなの!!?」

頭を抱えたまま彼が口にした言葉はあまりにも想像を超えるものだった。はるきさんはおにいちゃんと結婚するはずなのに、どうして慧くんがプロポーズするの??私はもう何が真実なのかすら分からなくなっていた。

「はるきさん・・・私の兄と結婚するの」
「兄?琉希?まさかお前・・・」

私がつぶやくように言った言葉に彼は顔を上げて反応した。これ以上隠しても仕方がない、そう思った私は自分の思いをすべて彼に伝えた。

「うん。そう私、おにいちゃんを愛してるの。大好きで修学旅行に行ったときのおみやげのストラップをすごく大事にしていた。私の一番の宝物。こんな思い抱いちゃいけないって何度だって言い聞かせた。気付かれないようにずっと平然を装って妹のふりをしていたわ。でも、やっぱり毎日顔を合わせるのが辛くて。そんなとき慧くんに出会ったの。慧くんといるときはおにいちゃんへの思いなんて忘れられたし、本当に慧くんが大好きだった。でも、あの日慧くんに言われた言葉で間違ってたんだって気付いた。確かに私は慧くんのように好きなひとを幸せにしたりはできないけれど幸せを願うことはできるってね。だから結婚するって報告してくれたときも素直に喜んだわ」
「琉希・・・」
「それなのになんでおにいちゃんの相手がはるきさんなの?そんなの!!私、2人も大切な人を彼女に奪われたのよ!!愛していたおにいちゃんも、大好きだった慧くんも!!」
「琉希・・・明日俺、プロポーズするから」
「どうして?だってはるきさんはもうおにいちゃんと結婚するのよ」

私はすべての気持ちを慧くんにぶつけた。慧くんは私を安心させるように肩を抱いてくれた。辺りはもう暗闇に包まれていて、私は泣き喚いた。慧くんはずっとそのままそうしてくれていた。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections