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あなたのために・・・ 作者:一之瀬 芽衣

第6回   5年目の再会
 あれから彼に会うこともなく、5年の月日が流れた。慧くんのアドレスは消していない。いつか連絡を取るかもと消せずにいた。私は企業に就職し、毎日忙しい日々を送っている。そんな春の日だった。

「琉希ちょっといいか?」

仕事から帰り、くたくたで部屋に入ってベッドに伏せているとおにいちゃんが私を呼んだ。ちょっと待ってとベッドから起き上がり、ドアを開けた。おにいちゃんは部屋に入り、ベッドに座る。私はドアを閉めておにいちゃんの横に座った。

「琉希、おにいちゃん結婚しようと思うんだ」
「え?それほんと??」
「あぁ〜今度彼女連れてくるから会ってくれるか?」
「うん。もちろん。おめでとう」

おにいちゃんが結婚する。うれしそうな顔をして報告してきたおにいちゃんに私は笑顔を返した。そして日曜日。その彼女が来る日。家族はそわそわしている。私はそんな風景を見てうれしくなった。家族全員がおにいちゃんの結婚相手にわくわくしているんだから。そして彼女を連れておにいちゃんが家に入ってきた。私たちは玄関で出迎えた。

「はじめまして」

白いワンピースに巻いた髪の毛、ヒールの高いミュール。姿は完全に違っていたけれど、私はその人が誰かすぐにわかった。

「ようこそ」

お母さんが笑顔でスリッパを出す。彼女は会釈し、中に入ろうとした。私はそれを腕をつかんで止めた。この家に入れるわけにはいかない。

「琉希何してるんだ!!」

おにいちゃんが私のつかんだ腕を放そうとする。でも私は離さない。そして彼女の顔をじっとにらみつけて名前を呼んだ。力強く。

「久しぶりですね。はるきさん」

彼女は驚いた表情で私を見た。私はつかんだ彼女の腕引っ張り、靴をつっかけて外に出た。おにいちゃんが追ってくる姿が目に入ったけれど振り払うかのように走った。おにいちゃんの姿が見えなくなったころ私は足を止めた。そこは小さな公園だった。彼女をベンチに座らせ、私はその前に立った。

「琉希ちゃん・・・」
「私、認めない!!あなたが婚約者なんて認めない!!」

彼女は私を見て驚いている。無理もないだろう。彼氏の家に行ったと同時に妹に追い出されたのだから。でも私には彼女を認められない理由があるのだから当然だ。彼女を幸せにしたいといって別れた慧くんはどうなるのだろうと。

「琉希ちゃん、あなた優の妹だったの」
「そうよ!!私が妹」

彼女は私を見ないで言った。でも私は彼女の肩をつかんで顔を上げさせ、大声を張り上げた。彼女は笑顔だった。許せなかった。

「そうだったの。じゃああたしたち姉と妹になるのね」
「そうね。でもね、私あなたは認められない。慧くんに言われたの。はるきを愛してるから彼女を幸せにしたいってね。だから私たち別れたの。それなのになんであなたがおにいちゃんの婚約者なのよ!!」
「うそ・・・」

私が涙ながらに言った言葉に彼女を口を押さえて信じられないような顔をして見せた。でもそれは決して私がおにいちゃんを愛していると言った言葉ではなく慧くんが言った言葉に対して。

「もしかして、知らなかったの?」

その言葉に彼女は何の反応も示さない。私は彼女の腕を握って無理やり家に帰った。


「ごめんなさい」

。玄関ではお母さんとお父さんが血相を変えて私を見る。おにいちゃんは私の手を振り払って彼女を引き寄せた。

「お前、なんてことするんだ!いきなり」
「ごめんなさい。彼氏の家庭教師さんだったからびっくりして」

とたんに嘘をついた。いや、嘘じゃない。ただそこに元がつくかつかないかの違いだけ。彼女は何も言わずただうなずいた。お母さんがこんなところじゃなんだからなんて彼女を家に通す。彼女も出されたスリッパを履きおにいちゃんに抱えられ、リビングに。私は自分の部屋に行き、携帯を掴んだ。こんなことのために消せずにいたわけではなかった彼の番号を出し、通話ボタンに触れた。数時間後に会う約束を取り付けるために。

「そう、優とは同じ塾で」
「・・・はい」

リビングで彼女とお母さんが話している声を耳にし、私はドアを開ける。そこにいる全員が私を見た。私は冷蔵庫から麦茶を出してコップに汲んでそれを飲み干すと彼女のほうを向いて、こう言った。

「先ほどはごめんなさい。あんなことして」
「・・・あ、ううん」
「感動の再会のつもりだったの。許してね。じゃあ私も彼氏と約束があるから、はるきさんゆっくりしていってね」

彼女の返事も聞かず、私は笑顔で立ち去った。不信がっていたみんなもこの言葉で安心したみたいで楽しそうに談笑を繰り返すのが分かった。私は待ち合わせ場所に車で向かった。待ち合わせ場所はあのコーヒーショップ。少し早く来た私はいつも彼が注文するホットコーヒーを頼み、いつもの窓際の席で彼を待った。あのときより少し大人びた服で彼を待つ。気持ちは違うけれど、すべてを打ち明ける決心を胸に抱いていた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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