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Your Friends 作者:一之瀬 芽衣

第2回   自分のことよりも・・・

 今日は朝子と話しをした。私と律と唯で。朝子の家の前で待ち合わせ。暫くすると朝子が出てきた。最初はみんなで世間話をしていたけど、律が話しを持ち出した。

「なぁ朝子、友達って何やと思う?」
「・・・ワカラナイ」
「嘘つくのって必要?」
「・・・必要なときもある。でも・・・」

私はそれを黙って聞いていた。確かに嘘も必要なときがあるかもしれない。でも人、それも友達を傷つける嘘を平気でついた朝子の気持ちは私には理解できなかった。

「でも・・・もし嘘が悪いと思ったら私は謝るよ」

これが3つ目の嘘。朝子は私に一度も謝ることはなかった。自分が悪いということを認めてくれなかった。でも、もうそれは仕方がない、そう思った。私が人を信用しすぎたんだ。もうそれは自分が悪かったんだと思った。そう思えたのは私には神様からもらったかけがえのない贈り物がそばにいてくれたから。

「じゃ私帰るわ」

そう言って朝子は何の悪びれた様子もなく家に戻って行った。私は彼女の態度の中で自分に対してのことは整理がついていた。ただ彼女は私だけでなく、律をも傷つけていた。私もやっぱり自分が大事に思える人を傷つけられたことを絶対に許せる人間ではなかった。特に自分の大事なものをののしられ、ボロボロに傷つけられた律のことを平然と何も思わない朝子を殴ってやりたくもなっていた。あんなに大好きだった朝子のことを・・・。

「うちもいろいろあったよ。過去に。でもあんなに律を傷つけるの許せないわ」

凛が泣きながら言った。凛と理穂、そしてもう一人大事な仲間由梨は私たちの後ろで隠れていた。そして私たちは証拠にと朝子との会話を全てテープレコーダーに録音していた。
3人はそれを聞いて絶句していた。凛はめったに泣かないし感情を出したりしない。でも彼女はそこで初めて自分の過去を話し、そして涙した。みんな泣いた。

「もういいよ。うちはみんなに話してすっきりしたから」

律はそう言った。でも私はやっぱり許せなかった。あんなに大好きだった朝子はもう私の中で、今は憎むべき相手に変わり果ててしまった。

 
 あの日から2日経った今日、またあのメンバーで集まった。最初は楽しく過ごしていたが私は朝子の話になると律の顔をまともに見れなくなっていた。そしてそれに律は気づいていた。

「芽衣・・・うちの顔見られへん?さっきからずっと避けてるやん」
「・・・そんなことないよ」
「芽衣うちも気づいてた。あからさまに律を避けてる!」

律だけでなく口々にみんながそう言った。私は律を見るのが恐かった。この中で朝子に直接的に傷つけられたのは私と律だけ。私は律を見ると傷つけた朝子の顔が頭に浮かんできた。自分の情けなさに腹が立った。無力だって思わされているようで涙が溢れてきた。大好きな友達だって言い聞かせて頑張ってみたけど発作が起きてしまった。私は隣の部屋に移動した。

「うちがこっちおったるわ」
理穂が私を気遣ってくれて私のそばにいてくれた。理穂とは一度朝子のことでけんかして仲が悪くなっていた。でも私が書いた作文を彼女が読んでくれて彼女は私に前と同じように接してくれた。その作文には私の発作を一番わかってくれている友達だというように書いた。それが彼女に伝わった。私は彼女ともう一度仲良くなれたことが心から嬉しかった。

「それでな・・・」

障子一枚隔てた部屋から律の声がする。私は律のことをすごく傷つけたと思った。私が支えてあげたい、癒してあげたい、そう思う傍ら、苦しめて傷つけてしまった。本当にごめん。本当にごめん。何度も心の中で思った。暫くして落ち着いたので少し顔を見ないようにして話を一緒に聞くことにした。これが私の今出来る精一杯の方法だった。

「大丈夫?無理せんでいいよ」

律がそう言う。律のことが大切で大好きだと思う。だからこそ余計にそんな大切な律を傷つけて平然としている朝子のことを考えると朝子を同じように傷つけたい思いに駆られた。それなのにその矛先は大事な律に向けることしか出来なかった。よく優しいね。とかいわれるけど私は優しくなんかない。

「芽衣、自分を責めたらあかんで!!」

理穂が私がずっと黙っているとそう言ってくれた。テレパシーみたいに伝わったのだろうか。理穂には私が私を傷つけていることが。

本当は朝子に傷つけられてわかってもらえなかったことすごくくやしくて辛い。まるで『あんな嘘勝手に信じ込んでバカじゃないの』って言われているような気がしてすごく泣きそうになった。でもあのときの私はどんなことをされても朝子が好きだった。だから嘘をつかれたとかついたとかそんな気がしなかった。親にも反発したり理穂と別れたり、それでも朝子についていたのは朝子しか見えてなかったから。
『芽衣にしか相談できんのよ』
そう頼られることが快かった。私を本当に頼ってくれている。それだけでよかった。今ももう自分の判断ミスだと思えた。でも律のことだけはどうしても・・・許せなかった。

人を傷つけて平然と出来る朝子は私とは全く違う考えの持ち主だと思う。そして私はこの気持ちが初めてだと気づいた。自分のこと以上に人のことのために腹を立てているこの気持ちを。答えは見つからなかった。でも、絶対に見つけたい!!私はそう心に決めた。

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Novel Editor