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電話相談員 作者:一之瀬 芽衣

第1回   1
今日も携帯が鳴り止まない。普通なら嬉しいはずなのに、全然嬉しくなかった。
鳴った着メロの音楽は悲しい歌だった。
この着メロが鳴ると、私は嘘でも電話相談員になる。


「今日彼氏にお前といるとしんどいって言われた」
「なんで?」


理由は知っていた。それは彼女が彼に気持ちをぶつけすぎていること。
彼は今、就職活動の真っ最中。精神的にも肉体的にも疲れて家路に着く。
それなのに彼女は、『お疲れ』と一言掛ける前に『寂しい』と言い放つ。
そんなの誰だって疲れる。私は一方的に彼女のグチしか聞いていないのに、
それでも彼女に非があるように思えるのはきっと彼女が
自分のやってることが相手の負担になってることになんて気づかないんだろうな。


「わかんない。でももう付き合うの無理って言われた」


私が彼でもお断り。
自分がそんな風に疲れているときに癒してくれない相手なんてただの負担なんだから。


 「ねぇどうしたらいいんだろう?」
「んーやっぱ今は待つべきじゃない」


それしか言えない。だってそれが答えだから。
彼の疲れを癒すことの出来ない彼女なんていらない。
それなら・・・私が彼と付き合う。私なら彼を癒すことができる。
私なら彼にいっぱい愛情を注いで上げることだってできる。私なら・・・・

なんで彼は彼女じゃなく、私を選んでくれなかったんだろう。

私は彼女が嫌い。だって彼に選ばれたのは彼女だったんだから。
こんなグチばっかり私にこぼしてくる彼女だったんだから。
私は適当に言葉を返して電話を切った。


携帯が鳴る。また悲しい歌だった。電話に出るとまた相談員になる。


「彼氏とけんかした。もう別れるかも」
「なんで?」


うまくいってるときには全くの連絡一つよこすことのない彼女からだった。
私は彼女もそんなに好きじゃない。だって彼女は私の負担だから。

それでもいい格好して相談に乗る私はかなりのずるい女でしょうか?


結婚すると言い放ち、別れるといわれたと嘆く。
だったら結婚なんて軽々しく口にしなければいいのに。恋愛なんてしなきゃいいのに
私はまたそこで簡単に相談に乗る。本当はそんなことしたいと思っていないのに。
彼女はありがとうと言って電話を切る。私はその言葉が嬉しくてやっているだけなのに。


また電話が鳴る。今度は全然知らない人から受ける着メロ・・・
誰だろうって思って電話を取った。私にも恋が舞い降りてきたのかもしれない。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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