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はちみつレモン 作者:KINE

最終回   はちみつレモン

 夕方四時、少し暗い部屋でわたしはりんごジュースを飲もうとして、やめた。レモンジュースにしよう。
 レモンっていうと、キスの味とか言うのよね。ホントかな。
 テレビをつけたらドラマの再放送がやってた。当然のように恋愛沙汰。女の人が受話器を握りしめて泣いてた。
わたしにはその気持ちが分からない。
思いかえしてみると、わたしは恋をしたことがない。恋を、知らない。…寂しい。わたしも早く、友だちと恋の話とかして盛り上がりたいな。
 たったひとりの人のこと思って、嬉しくなったりドキドキしたり、どんな感じなんだろう。想像もできない。
 でもいつかわたしも、そうよ、きっとそのうち、素敵な出会いに巡り逢えるわ。
 …あれ?レモンジュースきれてたの?どこにもない。なんだ、今レモンジュース飲んだら、すぐにでも恋ができるような気がしたのに。



 コンビニに行くと、つい目当てのもの以外の商品も見てしまう。って、そんなんじゃダメよね。そんな回り道してたら、きっと恋にも出遅れちゃう。
 飲み物の棚から、レモンジュースに手を伸ばす。簡単に取れる。はぁ、恋愛も、こんな風に簡単に見つけられて、簡単に手にできるものならいいのに。って、これは逃げよね。
 頑張ろう。
「おまえいっつもキムチ味だな。」
「別にいいだろ旨いんだから。」
あ、…なんか聞き覚えのある声。クラスの男子だ。
「今日社会の時間オレずっと寝てたよ。」
「あーわかる。あいつの授業たりーんだもん。」
嫌だな、会いたくないな。こっち来ないで、早く帰って。恋はしたいけどあんたたちみたいなブサイクは嫌なのよ。
「なぁ、そういや聞いたか?」
見つからないうちに、早く帰ろう。
「川本のやつハシヤマに告(こく)ったらしいぜ。」
「はぁ?マジかよ!」
…え?……。
あれ?なんだろ、なんか、なんかもう、あの男子二人に見つかりたくないとか、どうでもいい。頭が混乱する。なんかもう、ここに居たくない。
…川本くん。
やだ、わたし今、どんな顔してんだろ。



 わたしはフラフラしたまま会計を済ませて、店を出ると一目散に家へと駆けた。
 走りながら思い出していた。そういえば先輩が言ってた。好きな人いないと思っていても、誰かが他の人と付き合ったりしたときに、自分がショックを受けたりしたら、その人のことが好きだったってことだって。
ああ、わたし川本くんのこと好きだったんだ。なんでもっと早く気づかなかったの?最悪、最悪よ。恋をしたいと思っていたけど、それが恋だって気づいたときに恋が終わってるなんて、…最低よ。こんな風に初恋が終わっちゃうなんて。



 家に着くと、もうわたしの手には力が入らなかった。コンビニの袋がすべり落ちる。わたしはそれを破いて投げ捨てて、台所に置いてある蜂蜜の瓶を蹴って座りこむ。痛かったけど、そうでもしないと気が済まなかった。
「あいつブス専(せん)かよ。」
悲しんでいいのか、それとも喜ぶべきなのか、全然わからないわ。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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