その春、受験した全ての大学に落ちた。 元々自分の偏差値より少し高めの大学を選んだし、A.O入試でもこてんぱんにされたので、辛いかもと思っていた。 それでも行きたい大学を受験したことに悔いはないのに、周りの態度はひどいものだった。 友人には浪人生と笑われ、親にはろくでなし、不良債権だと言われた。 初めは落ち込んでいたけれど、だんだん苛立ち始め、ついに親と衝突し……そして何も考えずに実家を飛び出した。 持っていたお金はたった三百円ぽっち。今更笑われた友人の家に行くのも馬鹿らしい。 だから行く当てもなく、一時間ほどフラフラと夜の街を歩いて見かけない公園に足を運んだ。 辺りには誰もおらず、とりあえず自販でコーラを買って、私はベンチに腰をかけた。 いや、かけるはずだった。 暗闇で視界が分からなかったから、私はベンチで先に寝ている人に気づかなかったのだ。 私が腰を下ろした瞬間……大きな悲鳴が聞こえた。 ぎゃっと低い声。思わず驚いてベンチから後ずさりする。 目を凝らしてみると、細身の男性がベンチで寝ていた。 「ご、ごめんなさい!」 私は驚きながら寝ている人に言うと、もそもそと男性がベンチから起き上がった。 じっと見てくる男性に、思わず怯んでしまう。 怒らせたと思い、ぎゅっと目を瞑る私に男性は言った。 「今、何時?」 「へぇ?」 いきなり言われた言葉、少しアルトの声に度肝が抜かれた。 ぼーっと男性は私の顔を覗き込んでいる。 急いで私はケータイを取り出す。 「今……九時半で……す」 そう恐る恐る言うと、男性は伸びをして体をボキボキ鳴らす。 正直意味が分からなかった。何者なのだ、この人は。 「ありがとね、オネイサン」 「え……」 明らかに貴方の方が年上ですよと、思わず突っ込んでしまいそうだった。 「ここで……何してたんですか?」 いつの間にか、何気なく聞いていた。 今度は男性が一瞬きょとんとした顔になった。 「んー……水道代止まっちゃってさぁ」 「え」 「家にいても虚しいし、一日くらい公園にいるのもいいかなって。ATMで振り込んだから明日にはつくだろうし」 男性は笑いながら話していたが、私はまるっきり笑えることではないと強く思った。 「オネイサンは?こんな時間にどうしたの?」 そう聞かれてついドキッする。 十八になって家出というのを言うのもアホらしい。 黙っていると何かを察したかのように、男は笑い出した。 「家出さん……か」 言われてしまうと恥ずかしい。そして、本当にその通りな自分が余計恥ずかしい。 そう思いただ俯く私に、声が降ってきた。 「家へ来る?」 いきなりのその発言にゆっくり視線を上に上げた。 「ホントに水道出ないからアレだけど…今のとこ電気はつくし、女が野宿っていうのもどうかと思うよ」 事実だ。行く先もないし、これ以上遅くなると酔っ払いが出るかもしれない。 ケータイをチラッと見ても、親から電話が来ているわけでもない。 「ここから家、近いんですか?」 「ん、五分くらい歩く程度」 そう笑いながら言った。
その表情は印象的で……私は吸い込まれた。
公園から去って歩いて五分。男性の家……キーの家に私は転がり込んだ。
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