自分の為に泣いてくれる人。 でも美奈はそんな人に声をかけることなどできない。 「直人・・・ありがとう・・・。」 どうせ言っても聞こえない。 でも美奈は言わずにはいられなかった。 「え?」と言いながら振り返った直人。 直人はまっすぐと美奈を見る。 美奈も驚いた。 「見え・・・るの?」 「あぁ・・・見える。見えるよ!」 直人は泣きながら言った。 「美奈、僕の所に来てくれたんだね!」 直人は美奈を抱きしめる。 しかし、直人が彼女の感触を感じられたのはほんの一瞬。 すぐに空気のように感触は消え、空気を掴むような形になった。 「ごめんね、直人。」 美奈は直人に謝った。 「それはこっちのセリフだよ。」 「でも」 美奈は言った。 「ありがとう。」 笑いながら美奈はそう言ったのだ。 直人も笑った。 その時だった。 美奈の姿が消えかけてきたのは。 「消えてきてる!」 そう直人に言われ、急いで美奈は手を見る。 透けていた手がどんどん薄くなっていくのが分かった。 「きっと・・・火葬が始まったから。」 自分でも考えられないくらい冷静に美奈は告げた。 「・・・逝くのか?」 とまどいを隠せないような顔で直人は言う。 美奈の答えはひとつだった。 「うん、私はもう人じゃないから。」 「もう・・・会えないね。」 「そんなこと・・・ないよ・・・」 そう言いながら涙目になる美奈。 「私・・・ずっと直人の事見てる。直人は私の代わりに勉強や運動や・・・恋。がんばってね」 直人はうなずけなかった。 「私のこと。忘れて良いから。」 直人は黙っている。 「それじゃあ・・・私逝くから。」 美奈はニッコリと笑うとそう言うと後ろを向き、歩き出した。 「美奈!」 直人に呼ばれても美奈が振り返ることはなかった。
ありがとう・・・直人・・・・ 私のこと・・・想ってくれて・・・・ 美奈はそのまま天へ召された。 その頃、ちょうど美奈の遺体は火葬が終わり 彼女の遺骨が残った。
花びらは舞う。 何を思い 何を感じ 花びらは舞うのだろうか。 もしかしたら 彼女の思いも 花のように舞うのだろう。 小さな道端の花でも 舞うことができるのだから。
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