はじめまして、読者の皆さん。
ボクはウサギです。
しかもアルビノと言われる、体が白くて、赤目のウサギです。
ボクが住んでいるのは人里から離れた山の中です。
でもその山の中にも、人はいて、村があるんですよ。
ただすっごく閉鎖的なんですよぉ。
だからか、普通は愛玩動物として可愛がられるはずのボクにも、平気で物を投げてきます。
「このごく潰し! とっととエサを連れて来い!」
そう言って石を投げてくるんですよ。
まあボクは身軽なので、避けて逃げますケド。
でもアレでもボクの食料を作ってくれる人々です。
ボクも何かしらのカタチで、彼等に与えなければいけないんですよ。
でも腹が減っては何とやら。
ボクは山を下りて、麓の村へやって来ました。
バス停近くには、無人の野菜売り場があるんですよ。
そこでジッとしていると、たまぁに人が通りかかって、ボクを見て、ニコニコしながらニンジンを買ってくれます。
山の中の人々よりも、こちらの人々には温情というものがあり、良いですねぇ〜。
…でも、あそこで作られるエサは特別に美味しい。
あそこ以外では食べれないことをボクは知っています。
だからどんな仕打ちを受けようとも、あそこに居続けるんです。
―美味しい食事を食べる為に。
おや? 今来たバスから、見慣れぬ制服の女の子が降りて来ました。
たまぁにいるんですよね。
都会に疲れて、癒しを求めて、ここへ来る人間が。
女の子はバスから降りると伸びをしました。
そしてボクの姿を見て、笑顔になりました。
どうやら動物にも癒やしを求めている人みたいです。
女の子はニンジンを買ってくれました。
ボクは食欲が強いので、食べました。
お礼をしなければいけませんね。
まあボクにできることと言えば、あの村へ案内することだけですけど。
ボクは女の子に目で語りかけます。
―ボクについて来て、と。
好奇心が強いみたいで、女の子はおもしろがってボクについて来ました。
しばらく山を登ると、あの村にたどり着きます。
ボクは近くにいた村人の足を、蹴り付けました。
村人はムッとしてボクを睨むも、女の子の姿を見ると、すぐに笑顔になりました。
「ようこそ! いらっしゃい!」
久々のお客様です。
次から次へと村人が出てきました。
すると彼女は大歓迎を受けます。
村人総出で歓迎会を開きました。
女の子は戸惑いながらも、喜んでいました。
そして夕刻、女の子は帰る時間になりました。
村で1番の美形と言われる青年が、山の麓まで送って行きました。
…何やら、春の予感です。
さてさて、ボクの役目はまだあります。
次の日から、ずっとバス停で女の子を待ちました。
女の子は最初、一週間に一度来ていました。
それが二度、三度と増えていき…毎日来るようになりました。
それはきっと、村人が女の子を歓迎してくれるから。
そして青年に恋をしているから。
まあ…良いことですよね。
女の子はここに癒やしを求めに来たのです。
思いっきり優しくしてくれる人がいれば、人間すがり付きたくなるものなのでしょう?
まあウサギであるボクには、分からないことですけど。
最近では村人がエサをくれるようになり、ボクも幸せです。
ある日、女の子は村の外れの湖に、青年と共に来ました。
ボクはそこでお昼寝をしていたのですが…まあ寝たフリをしましょう。
ここで自己主張すれば、野暮ってモンです。
女の子は最初、暗い面持ちでした。
悩みを青年に話していました。
青年は終始笑顔で、話を聞いてあげていました。
そして話が終わる頃には、女の子は笑顔になっていました。
やがて夕刻になり、女の子の帰る時間になりました。
しかし女の子は中々帰ろうとしません。
それどころか…青年に、帰りたくはないと言ったのです。
その時、青年の表情が満面の笑顔になりました。
人間であったならば、ボクの顔も笑顔を浮かべていたことでしょう。
青年は女の子の言葉を、全面肯定しました。
「ここにずっといれば良いよ!」
青年があまりに強く、そして熱く言うので、女の子はおされ気味に頷きました。
そして―女の子はここに住むようになったのです。
やがて季節は巡り…山の景色も変わってきました。
しかし村人の女の子への態度は変わらず、優しいものでした。
女の子は見違えるほどにキレイに、美しくなりました。
どうやら青年と恋人になれたみたいです。
周囲からも祝福され、幸せ絶好調というところでしょうか?
…ところがある日、女の子に変化が表れました。
村人の家族を見て、ふと自分の家族を思い出したようです。
ここにいれば、学校へも行かず、自分を傷付ける者もいないのに…。
それでも女の子の心は、揺れています。
恋しくなったのでしょう。
わりと珍しいことではありません。
その内、女の子の表情が暗くなっていきました。
村人は心配しました。
けれど女の子の心の中には、元の生活や家族のことでいっぱいになってしまったのです。
そして…女の子は言ってはいけない、その一言を、口に出してしまったのです。
―帰りたい、と。
すると村人の表情が一変しました。
恐ろしい顔付きになり、そして…満面の嫌な笑みを浮かべながら、彼女に襲い掛かったのです。
ボリッ ガリッ ゴリッ ビジャッ
彼女は声を上げるヒマもなく、村人に食い殺されてしまいました。
やがて女の子を食い終えた村人達は、残念そうにため息をつきました。
「せっかくお嫁さんになってくれると思ったのに…」
「まあしょうがないな」
「残念だったな」
「でもまあ…ウマかったよ」
口元の血を舐めながら、村人達は満足そうでした。
そう、この村に来た外部の人間は、エサになるか村人になるかの、どちらかしかないんです。
何せ封鎖的な村ですからね。
肉にも飢えていますし、人口も年々減っています。
農業でやっていくにも、限界がありますからねぇ。
閉鎖的なだけに、外部との表立っての接触は持たない。
ただ、ボクの連れて来る人間を、待つだけの存在。
けれどボクはその役目に満足しています。
だって…食い殺された人間の残骸で作られたエサって、とっても美味しいんですもん♪
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