わたしは一人、廊下を歩きます。
登校中の生徒達の中、教室に向かって。
まだ朝早い時間のせいか、生徒の数もまばらです。
でも向かいから、3人組の女の子が歩いてきました。
廊下に響くような大声を上げて、それは楽しそうな笑顔で…。
わたしは思わず俯いてしまいました。
生まれ付き病弱な体のせいか、わたしはああやって声を上げて笑うことができないのです。
ところが俯いていたせいで、
どんっ!
「きゃあっ!」
3人組の1人にぶつかって、廊下に倒れてしまいました。
だけど女の子達はそんなわたしの姿を見て、くすくす笑っています。
お互いわざとじゃないにしろ、そんな態度をすることはないのに…。
そう思った時でした。
どくんっ!
胸の中心で、何かが高鳴ったのです。
その動きは激しくなり、心臓まで激しく動き出しました。
「ぐっ…! がほっ、ごほっげほっ!」
たまらず咳き込みだしたわたしを見て、さすがに3人組は目を丸くしました。
どんどん人が集まってきて、その中の数人がクラスメートで、わたしを助け起こしてくれました。
そしてぶつかった3人に、激しく怒っています。
わたしの体質のことは、クラスメートなら知っていることです。
なのでクラスメート達は、何かとわたしを庇ってくれるのです。
やがて高鳴りはおさまり、わたしは普通に息ができるようになりました。
クラスメート達の助けを借りて、教室に入りました。
その後も何かと気を使わせてしまい、本当に申し訳がないです。
でも最後の授業のマラソンは、ちょっときつかったです。
体育の先生はとても厳しい方で、わたしに遅れてもいいから完走しろと言われました。
長距離のマラソンです。どんどんわたしは遅れて、ついには周回遅れ。
マラソンを終えて、待ってくれているクラスメート達が不安そうに見ています。
どくんっ…!
胸に覚えのある高鳴りを感じました。
けれどここで倒れるわけにはいきません。
みんなが待っていてくれているのです。頑張って完走しなければ…!
…そう思っていたのに。
高鳴りはやがて、もやのように胸の中に広がっていきます。
どくんっ、どぐんっ!
高鳴りが鳴るにつれ、もやが体中に広まっていきます。
自分ではどうすることもできません。
やがてもやは手足にまで及び…わたしはまた、倒れてしまいました。
遠くから、クラスメートや先生が駆け寄ってくるのが見えたのを最後に、わたしは意識を手放しました。
―意識を取り戻した時、わたしは見慣れた保健室のベッドの上でした。
保険医の先生が制服を渡してくれて、着替えました。
すると保険医の先生が送ってくれると言ってくれたので、甘えることにしました。
すでに外は夕暮れに染まっています。
保険医の先生は申し訳なさそうに、体育の先生のことを言ってきました。
あの後、体育の先生は他の先生やクラスメート達から激しく抗議を受けたそうで…。
本当に申し訳ない気持ちで、いっぱいになりました。
家に帰ると、心配顔の家族が出迎えてくれました。
でもわたしはまだ体調が悪いことを理由に、自分の部屋に戻りました。
そしてイスに座り、カバンからプリントを取り出しました。
何かと欠席が多いので、先生達はこういったプリントで何とかしてくれようとします。
でもそのプリントの多さを見て、ため息をつくと、
どぐんっ!
…また、あの高鳴りがっ!
「ぐっ、くぅっ…!」
激しく胸の中で高鳴るモノは、病院に行っても発見できないもの。
どんな検査を受けても見つからず、どんな薬を飲んでも効きません。
わたしの胸の中に巣くうモノの名は…
―【憎悪】―
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