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あんちゃんとサイバー世界 作者:フラボノ

第1回   あんちゃんとサイバー世界
 最近あんちゃんの様子が変だ。
 今は夜、時は食事時。我が家は海の近くにあるので魚モノばっかりが食卓に並ぶがそんな事は問題ない。
 私はテーブルの向こう側で味噌汁をすすっているあんちゃんを覗き見た。
 明らかにそわそわしている。右手にご飯左手に味噌汁とは、新手の礼儀作法だろーか。
 食が進まないのでご飯やおかずをいっしょくたにして味噌汁で胃に流しこもうとしている様子。
「こら、伸之! なにやってんの、行儀が悪い!!」
 やっぱりかーちゃんに怒られた。渋々と左手の味噌汁を置いて右手のお椀から白米を移植手術、ねこまんまに変形させている。

 あんちゃんこと、黒田伸之は17歳の高校二年生。私こと、黒田翼の2つ上の兄だ。
 顔立ちはいたって平凡、野球部でキャプテンやってる関係上、スポーツ刈りなのでマイナスがつく。
 学校の成績も普通。性格はお人よしで温厚。ついでになで肩。趣味はぬいぐるみ集め。私の為と言ってぬいぐるみを買うのは止めて欲しい。
 若干話が脱線したけれど、あんちゃんは俗に言う「優しいだけが取り柄」とか「好きだけど友達止まり」ってやつである。
 いや、下手に私みたいに頭が良すぎたり、世界征服の野望とかヘンな考えを持ってたら困るけど。
 まあとにかくそういうワケで、そんな平凡なあんちゃんが最近おかしい理由を実は私は知っている。
 あんちゃんたら、インターネットで知り合った女性に恋しちゃったのだ。


 ウチはパソコンがあんちゃんの部屋と私の部屋、合わせて2台ある。
 この2台を1つのケーブルモデムを使ってインターネットにつないでいるのだ。
 鳥取ケーブルテレビのおかげで私やあんちゃんは砂丘を越えて世界へ羽ばたく事ができるワケである。
 ついでに、もう1台のパソコンの方にも。
 難しく言おうとしても私も詳しく仕組みを知ってるわけじゃない。なので簡単に説明すると、2台のパソコンがケーブルモデムを経由して部分的につながっているのだ。
 共有フォルダのディレクトリ、つまり『共有』という名前の入れ物の中においてあるモノは2つのパソコンのどちらでも使う事が出来る。
 で、あんちゃんたらバカだから共有フォルダの意味も知らないのだ。
 彼女とのメールのやり取り記録(ログ)を大事に共有フォルダに保存していたのである。
 私はそれを発見して、ためらわずに内容を読んだ。
 ただひたすらに30分ほど読みふけった。
 そして脱力した。
 以下に例をあげるとこんなカンジ。

『件名:こんばんわ
 差出人:らいと
 シルバーアイランドの方、進んでますか?
 私は最近ちょっと見たいドラマとかが多すぎてあんまり進んでいません^^;
 今度始まったドラマ、面白いですよね。ムサシさんはドラマとか好きですか?
 私はドラマ大好きです(笑)』

『件名:reこんばんわ
 差出人:ムサシ
 らいとさんこんばんわ、お元気ですか。
 >シルバーアイランドの方、進んでますか?
 僕は今日やっとレベルが32になったので城のボスを倒しに行こうと思っています。
 それでは』

 ………あんちゃん、アホぅ。
 らいとさんの方から話題を振ってくれてるのに見事にスルー。むしろスルーパス、いっそキラーパス。
 遡ってメールを読んだところ、彼女とはそのシルバーなんたらというRPGゲームの攻略サイトで知り合ったみたいなのだけど、あんちゃんのメールはいつもどこかが抜けている。
 なんというか、返事がしにくいメールというか……会話がそこで途切れるメールというか……。
 これでまた、あんちゃんがモテない理由をまた1つ発見したのよねぇ。
 思いやりしきれてないというか、思いやりを槍投げのように投げやりなのだ、たぶん。
 そりゃ幼馴染の女の子を他の男に取られるほどの剛の者だから、不器用なのはわかってたけどさ。

 そんな事を思い出しつつ、私は密かに溜息をついた。あんちゃんの良さを本当に知ってるのは世界で妹の私だけなのね、うん。
「ごちそーさま!」
 頭の中のもやもやを振り切るように席を立ち、部屋に戻りパソコンを起動させた。
 メガネをかけてディスプレイを眺める。ネット中毒のおかげでまた視力が下がっている気がした。
 これ以上視力が下がるとコンタクトに出来なくなるかもしれない、それはそれで私の中で大事件。
 それでも、もういっこの大事件をおろそかにしてもおけない。
 あんちゃんの恋愛事情を解決する為に今日も共有フォルダにアクセス、本日のらいとさんメールを読む。
 ふむふむ、彼女は島根に住んでいて……明日の休日に会う約束!?
「ぬぅわにぃ〜!?」
  思わず大声で叫んでしまう。隣の自室にいたあんちゃんがドアを開けてこっちの様子を伺いにきた。
「どーした?」
「のうっ!!」
 慌てて神速マウス捌きでパソコンの画面をデスクトップにした。ばれただろうか?
「ど、どーしたもこーしたもないわよ、あんちゃんのバカ! 乙女の部屋にノックもせずに上がりこむなんて非常識なのよ!」
「あ、す、すまん……」
 必殺の逆ギレでなんとか危機は回避されたようだ。それにつけてもあんちゃんは押しに弱すぎる。
「しかしなあ、翼、そのあんちゃんっていうのそろそろやめろよ、もう中3なんだから」
 と思ったら、今日は珍しく反撃してきたではないか。
 みっともないのはわかってるけど、あんちゃんってのが一番あんちゃんらしいんだもん。
「む〜」
 そんな事は恥ずかしくてとても言えないので、私は口をもごもご動かしただけだった。
「あ、ちょうどよかった。翼にちょっと相談があるんだ」
「え゙?」
 やけに深刻なあんちゃんの顔を見てギクリとした。
 今のあんちゃんが女の私に相談する事っていったら……やっぱらいとさん関係?
 ご近所のガキ共とおばさん達に男勝りで通ってる私に相談なんてしないで欲しいんだけどなぁ。
 そりゃある程度はわかるけど、まだ男の子と付き合った事ないから詳しくわかんないよ?
 そんな私の懸念は見事に当たってしまう。
「実はお兄ちゃん、明日デートなんだ」
 いや会いましょうってだけで『デート』とはらいとさんはどこにも書いてなかったでしょ、そりゃ実質デートでしょうけど私はそれはなんか認めたくないわけでジェラシーなわけで。
 色んな気持ちがぐるぐると回りまわって、結局私は、
「はぁ」
 とだけ返した。
「……あんま、驚かないんだな」
「いや、十分驚いてるわよ」
 そのお気楽な脳の構造に。今の混乱した私を見てあんまり驚かないとは、このあんちゃんは化け物だ。
「そうか、まあいいや。で、どんな格好をしていけば嫌われないかなぁ?」
「うーん、相手はどんな人なの? 趣味とか歳とか。それによって変わるんじゃない?」
 丁度良いので情報収集することにした。メールを読む限りだとらいとさんの歳や嗜好に対する話題、写真などははっきりさっぱりまったく無かったのだ。あるいは共有とは別のフォルダに格納しているのか。
 あんちゃんは私の質問に照れくさそうに笑う。
「いやあ、実は知らないんだ」
「はぁ?」
 私の顔からかけていたメガネがずり落ちる。
「ある日、いつものようにお兄ちゃんがネットサーフィンをしているとだな」
 いや、今時ネットサーフィンて。
 思わず話の腰を折りかけるが、我慢して続きを聞く。
 聞くとあんちゃんは趣味や歳どころか外見、声も知らないらしい。メールのやりとりだけ。
 つまりあんちゃんは文字列に恋してるわけで。
 人間って、すごいんやなぁ……我々はキリストの原罪から解放された新人類なんやねんなぁ……
 私はなぜか心の中、関西弁で呟きながら天井へ向かってイイ表情をした。
 でもなんとなく、あんちゃんならありえる話よねえ……そんなとこが好きなのだ。
「……おい、翼?」
 ふと呼ばれたのに気付いてほよっとあんちゃんに向きなおす。
「あ、ああ、そうね……本当になんも情報ないの? なけりゃアドバイスのしようもないわよ」
「うーん……あ、そうだ。らいとさん、ホームページを持ってるよ」
 お、それは初耳だ。さっそくアドレスを要求する。
「おっけ、ちょっと紙とペンを貸りるぞ」
 そういうとあんちゃんは手近にあったボールペンを手に取り、メモに一筆書いていく。
「アドレスは、えーとhttp―――」
 URLを暗記までしてるのね、本気で惚れてるわね、あんちゃん。
 うんざりしている私をよそにメモられたURLを渡してくるあんちゃん。
「おっけー、じゃあ私がこのホームページを見て明日の朝、ぴったりの服を選んであげるわよ」
 メモを受け取った私はニヤリと笑ってあんちゃんを部屋から追い出した。
 ……さて、とりあえずパソコンのアドレスバーにメモにあるURLを打ちこんでみた。
 あんなやりとりのメールだけじゃわからんし、ホームページを見て私のあんちゃんに釣り合うような人じゃなかったら邪魔しちゃるつもりだ。私ったらなんて兄想いの妹なんでしょう!
 パソコンのカリカリという音と共に、ディスプレイに白と黒を基調としたトップページが映し出される。
 まあ、無難なセンスよね。いきなり音がジャンジャン鳴ったりとかしないし。あれびっくりするからムカツクのよね。
 プロフィールのページがあったので覗いてみると、ほとんどの項目が秘密だった。
「年齢も、出身地も、住所も性別も本名もみんな秘密じゃないのよ、ふざけやがってぇ」
 つい悪態をつきながらも、私は掲示板の発言ログなどを見て、なんとからいとさんの趣味、嗜好に関する情報を入手していく。
 基本的に性格はおっとりしていて優しいようだった、少なくともネット上では。
 しかし掲示板に荒らしが来た時には迅速にしっかりとした対処をとっている所を見ると芯は強い女性でもありそうだ。
 いやまー、迅速という点が暇人ではないのかという懸念はあるのだが。
「うーん、他の情報はないかしら……」
 検索サイトで「らいと」という検索ワードを入力して検索してみる。
 ヒットするページが多すぎていまいちわからない。
 メールアドレスで検索してみる。引っかからない。
 なんとなく私の名前で検索してみる。見る見る出てくる私の同姓同名さん。くそー、やっぱ翼って名前じゃ男の方が多いかぁ!
「―――はっ、また横道に逸れかけたわ」
 ふと我に戻っても、もう手詰まり状態だ。
 らいとさんのホームページをうろうろしていた所で、アイディアが浮かんできた。
「ああ、ディレクトリ覗きできるかな」
 ディレクトリ覗きとは、例えば、
『www.kuroda.come/gazou/tubasa.html』
 というURLがあったとするならtubasa.htmlの部分を削り、
 gazouという入れ物(ディレクトリ)に入っている普通は公開していないモノまで全て覗くことが出来るという恐ろしいテクニックである。いや、簡単に防止できるけどね。
 このテクを使って知り合った人のホームページのディレクトリを覗いたらエッチな画像ばっかりだったのでそれきり手を切った事も……時に人は知らなくても良い事まで知りすぎてしまうものだ。
 と、そんなことは置いといて、私はそれらしきところのURLを削ってみた。
「ビンゴ!」
 私は小躍りする、だが喜んだのも束の間、ほとんどのリンク先が訪問済みを示すの紫色になっている。
「くっそぅ……」
 それでも根気良く一個ずつURLを調べていると、uranikki.htmlというブツを発見した。
 uranikki……うらにっき……裏日記!?
 せめてuradiaryにしろよと微かに思わなくも無かったが、ためらわずに猛クリックした。
「……」
 よくホームページに日記を載せているサイトとか、最近だとブログとかあるけど、あれは厳密には日記じゃないってのはみんなもよくわかっていると思う。
 だってアレ、他人に見られる事を想定して書いているんだから。普通日記って読まれたくないモンでしょ?
 で、ざっと見る限りこの裏日記とはどうやら本当の意味での日記のようだった。
 私はあんちゃんに関する記述を探す。記述はすぐに見つかった。


『○月□日
 攻略サイトでムサシ君と知り合う。なんかゲームに一生懸命でかわいい男の子みたいな感じがした(笑)』

 ……なんで誰も見ないハズなのに(笑)とかつけてるのかしら、この人。
 盗み見られている事を前提にして書いてるのかな? 純粋にディレクトリ削りを知らないようにも見えるけど。
 それとも、笑ったという事を書き記す為に使ってるのかなあ?
 色々考えたけれど、私がらいとさんでない以上理由は永遠に闇の底だ。
 気を取り直して他の日の日記を見てみた。

『○月○日
 捨て猫がいたのでまた拾ってしまった。
 我ながらこの捨て猫を拾うクセはなんとかならないかなあ(苦笑)
 名前は……オスだからちょうどいいしムサシにしよう』

「……」

『○月△日
 ネコのムサシもムサシ君もかわいいなあ。
 自分もあれくらい元気があったらなとかちょっと思った』

『□月☆日
 純愛モノの小説を買った。感動して最後は泣いてしまった。
 この作家さんは良い話を書くなぁ、またこの人のシリーズを見つけたら買おう』

「……」
 私はいつしか、食い入るように日記を読みつづけていた。


「よっしゃ、おっけー!」
 次の日の朝、私はあんちゃんを思い切り着飾らせていた。
 ジーパンに革ジャン、ここらへんはオーソドックスな方があの手合いには逆にポイント高い。
 ついでに私のあんまりきつくないフレグランスをふりかけてやった。
「なあ翼。なんか、やりすぎじゃないか…?」
 セットされた髪の毛をうざったそうに触りながらあんちゃんが私に口答えした。
 私はあんちゃんのその手をぴしと叩く。スポーツ刈りをなんともしようがないから、必死でなんとかしたってのになんて言い草だ、この妹不幸者め。
「いいのよこれで! いい!? 絶対何があっても彼女をゲットするのよ! あんないい娘、そうそういないんだから!」
 らいとさんの裏日記は全然普通でたいした事も書いてなかった。
 でも、だからこそ素朴な文章から伝わるハートフルで心温まってそれでいてちょっぴり悲しいセレナーデ……なんだかまたよくわからなくなったけど、とにかく良かった。
 もう一度言う、なんだかよくわからないけどとにかく良かった。
 彼女は本物だ、やっぱりなにが本物なのか自分でもわからないけど、彼女ならこのあんちゃんを任せられると私の直感にビビッときたのだ。でも付き合う前に私に一発殴らせろ。
「あんちゃんももう17歳だし、そろそろ大人になっても良い頃よ! 安心して、母さんには私から今日泊まるって言っておくから!」
「さっきからゲットとか、大人にとか恥ずかしい事言わないでくれよ……それに明日は学校だし泊まれないよ」
 あんちゃんは真っ赤になってうつむいた。つまりあんちゃんも少しはその気ってことね!
「よーし、そろそろ時間ね。いってこーい!」
 私が背中をバーンと叩くとあんちゃんは2、3歩吹っ飛んだようにつんのめり、ヨロヨロと右手を上げてトボトボと家を出て行った。なんかリストラされたサラリーマンみたいだ。
 それを見届けちょっと経ってから、私も待ち合わせ場所へとこっそり移動を開始する。
 最後まで見届けるのが妹の義務ってヤツよね!

 待ち合わせ場所は駅近くのわりと大きいレストランの前。鳥取と言っても、全部が砂丘なワケではないのだ。滋賀は全部琵琶湖なんだろうか?
 電柱の陰に身を潜め、ちらっと様子を伺う。らいとさんはまだ来ていない様だ、あんちゃんがボーッとつっ立っていた。
 あんちゃんはかなりそわそわしている。そしておもむろに手を顔に持っていく。
「あ、ツバサじゃん〜」
 ああっ、あんちゃんの緊張した時に小指で鼻をほじるクセがっ!
「おーい、ツバサ〜」
 あんちゃんのバカ、矯正しとけば良かった!
「コウ〜!」
「うっさいわねっ! 黙ってないとバレちゃうでしょーが!!」
 呼ばれてた事に気付いて振り返るとそこにいたのは近所の悪ガキ、西野シュンスケ(小3)だ。
 この鼻たれシュンスケは私の永遠のライバルである、二日前に私の背中にカエルを突っ込んだあの時の怨みを私は未だに忘れてはいない!
「なにがバレるんだよ、ツバサ〜」
「ああもう、語尾を伸ばすなよムカツク!」
 けど今はケンカをしている場合ではなかった。
 それでもとりあえずシュンスケに変形喉輪落とし(シャイニングフィンガー)を食らわせつつ、
 レストラン前に目を移すとあんちゃんに話しかけてる一人の人物が!
「ああーっ!」
 私はたいそう驚いた。あんちゃんもたいそう驚いた。
 あんちゃんの前に立ってたのは1人の中年サラリーマン。
「どうも、私がハンドルネーム、らいとです(笑)」
 文字で表現するとまさに(笑)としか形容できない笑い声だ。
 らいとさんは男だった。
 い、いやまあ確かに女だとはどこにも書いてなかったけど! 言われると確かに日記とかに男っぽい心当たりもなきにしもあらずだけど!
「わ、私の目に間違いがあるなんて…!!」
 信じられないので違うベクトルの物事を考えてバランスを取った。いわゆる逃避行動である。
 失恋したあんちゃんの目の前にあるレストラン、これぞまさに、失恋レストランね!
 シュンスケが気絶寸前、ギブアップと腕をペシペシ叩いているのも私は気付かなかった。

 夕方、先に帰って来ていた私からかなり経って、あんちゃんが家に帰って来た。
「ただいまー」
「おかえりー」
 玄関に迎えに行ったのはいいものの、辺りに漂うのは気まずい空気。
 やっぱ、どうだった? って聴かなきゃいけないのかな、ここは……。
 なんとなくメガネをはずしていじっていると、沈黙に耐えきれなかったか、あんちゃんが先に口を開いた。
「いやあ、らいとさん良い人だったよ」
「え?」
 意外な切り出し方にポカーンとする私に構わず、あんちゃんは早口でまくしたてる。
「いやあ、らいとさんは大人の人でさあ。色々プレゼントもらっちゃったよ、ほら!」
 あんちゃんは肩にかけたバッグから最新のゲームソフトを取り出して私に見せた。
「ゲームの話も凄く合ったし! 最高だったよ」
 あんちゃん、まさかだけど本気で楽しんでたの? そっち側の人だったの?
 一瞬考えた思いは背を向けて言ったあんちゃんの一言に霧散させられた。
「……男だったけど」
「そ、そう……」
 なんという、悲哀。世の中の業を全て背負った、報われない救世主の如き背中を見ているようだ。
「……俺、もう寝るわ。ご飯いらないって母さんに言っといて」
「う、うん……おやすみね、あんちゃん」
 あんちゃんはトボトボと階段を上がって行った。
 私は昼からずっと今回の事をまとめていた。
 結果は失敗……というか不戦敗だったけど、これもあんちゃんにとって社会勉強になったはず!
 うん、きっとそうよ! 心の経験値が増えてレベルアップだよね!
 辛くなったら私が貰ってあげるから、今度はがんばろーね、あんちゃん!

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Novel Editor by BS CGI Rental
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