圭が死ぬと、いつの間にかジェム・シリカ病は治っていた。 「……でも、ナイフで削れた指は戻らないのな」 人よりもちょっと短くなった人差し指と中指を見つめて溜息をつく清。 野球部に戻った彼に、もうフォークボールは投げられない。 おまけに後遺症で局部性発汗症を併発してしまったのだが、逆にこちらは変化球を投げるのに役立てたという。
喋るぬいぐるみ、アレクはめぐみが引き取った。 詳しい話を聞くうちに、めぐみはアレクが少なからず圭に気が合った事に気付く。 「もうちょっと、周りを見てれば良かったのにね」 そう、めぐみは呟く。 「貴方が清に助けられたように、貴方も誰かを助けていたんだから」
恭介は、事後処理におおわらわだった。 なにせ指定伝染病にまでした病気が実は呪いでした、なんて説明で厚生労働省が納得する訳もない。 「こりゃ、官僚の道は断たれちゃったかもね」 病院内では、そうボヤく恭介の姿が良く目撃された。 だが、ボヤく恭介の顔は、笑っていたという。
人は出会い、そして別れていく。 だが、小安井圭。彼に関わった者は皆、ときどき彼の事を思い出す。 青緑色が目に飛び込んできたとき。 あるいは孔雀石を露天で売っているのを見たとき。 あるいは性同一性障害に苦しむ人のドキュメンタリー番組を見たとき。 頻繁にではない、本当にときどきだけれども。 あの戦慄な呪いと共に、誰よりも少女らしかった少年の事を思い出すのだ。
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