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ジェム・シリカの指先 作者:フラボノ

第16回   予防線
「な、なんでそんな事を……」
 絶句するめぐみをよそに、圭は訥々と語りだす。
「不良達に殴られて、私の右手はボロボロだった。後で診察したら、五指全てが複雑骨折だった」
 圭の瞳はめぐみやアレクではなく、窓の外、遠くを見ていた。
「でも、その程度で済んだのはアレクの魔法と、清さんのおかげだったの」

 不良によってたかられ、殴り、踏みつけ、蹴られている圭の前に現れたのは、部活帰りの清だったのだ。
 当時野球部に所属し金属バットを持っていた清は、不良をあっという間に蹴散らした。
「おい、大丈夫か!?」
 そう言って、清は圭の肩を取り、引き起こす。
「あ、ありがとうございます……」
 よろめきながらも立ち上がる圭。清の汗の匂いが、圭の鼻腔をくすぐった。圭の頬が紅潮する。
「どうした? 歩けるか?」
 こくこくと首を縦に振る圭。ふと、地面に転がったままのアレクに気付く。
「あ……」
「ん? ああ、このぬいぐるみか。ちょっと待ってな、よっ……と」
 圭に肩を貸したまま、身をかがめてもう片方の手でぬいぐるみを回収する清。
「ほいよ。とりあえず近くに良い接骨院知ってるからそこに連れてくぜ。俺も指やった時にお世話になったんだけどな、本当に痛くねーんだぜ」
 圭の痛みを紛らわせようと笑い飛ばす清。圭は真っ赤になって俯いていた。
「本当に、ありがとう……」
「なーに、気にすんなよ。俺は下総中山清、将来大投手になるからチェックしとけよ!」
 夕焼けが、赤くなった頬を気付かれなくしてくれた。圭は夕焼け空に感謝した。

「それから一ヵ月後、痛みが無くなったからギプスをはずしてみると、指が石になり始めていたの」
 それまで、圭はアレクの言葉を信じてはいた。だが実際に石化しはじめた指を見て、初めて恐怖を覚える。
「死ぬのが怖かった。けど、当時の私はこの呪いに打ち勝とうと思った。それで綿総合病院の門を叩いた……」
 呪いという事は伏せ、病院へ入院した圭。最初は、謝るアレクへこの呪いなんかに負けず、絶対に治してみせると意気込んでいたという。
「けれど、駄目だった。治療薬の副作用とか、一人だけの病室とか、とても苦しくて、痛くて、つらくて……」
 自らの胸を押さえ、俯いてしまう圭。瞳から、涙がこぼれていた。
「私の……神経は狂ってしまった。わかってても、止められなかった。清君に、会いたいと思った」
 そして9月、圭は清にジェム・シリカの呪いをかけた。目論見どおり、清は圭と同じ病院へとやってきたのだ。
「会いたい……たったそれだけの理由で?」
 愕然とするめぐみ。めぐみの心の中で、やりきれない怒りが湧き上がってくる。
 それは、圭も同じだった。
「たったそれだけ? 全然たったじゃないわよ、私にとっては何よりも大切だったのよ!」
 圭にとって、清への思いを否定される事は全てを否定されるのと同じくらいの意味を持っていた。引き金を引かれた圭を見て、アレクが慌てて止めに入る。
「ちょっ……めぐみちゃん、圭を刺激しちゃ駄目だ!」
 しかし、めぐみはアレクの制止を振り切ってしまう。言葉の応酬が続く。
「他にいくらでも方法はあるじゃないの! あんだけ珍しい苗字なんだから調べて家を突き止めたり! そんで告白でもしていくらでも一緒にいれば良かったじゃない!!」
「そんなの、断られるに決まってるじゃない! 私は、結局男なんだから……っ!!」
「そういうところが気に食わないのよ! 清がそんな事気にしてたら、あんなに怒るはずがないのよ!!」
「なによ、怒るって、意味わかんないわよ!!」
「自分が男だから無理とか、予防線張って前へ進もうとしない! そんな性格だから恋人できないのよ。身体のことが問題じゃなくてねッ!!」
「………―――ッッ!!!」
 圭の顔色が、変わった。圭自身にも思い当たる部分があったのだろう、唇を噛み、顔を歪む。
「……………ふざけないで」
 震える圭の肩。揺れは大きくなり、カタカタとベッドまで揺れる。爆発の前兆。
「ふざけないで、みんな、みんな、みんな死んじゃえーッッ!!!!」
 呪いが、全世界に拡散した瞬間だった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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