その部屋には、夜だというのに明かりがついていなかった。 窓から差し込む月明かりに照らされ、ベッドで半身を起こしたままたたずむ人影が見える。 人影は腹まで毛布をかぶり、ぬいぐるみを抱いていた。 「ねえ、アレク」 人影が呟く。低く、重い声だった。 「なんだい?」 今度は、ハスキーな高い声。室内に、ベッドの人物以外の人影は見えない。 「また、敵が現れたの」 淡々と、抑揚の無い低い声。 「アレクを追ってきた悪魔の使いに違いないわ。呪いに飽き足らず私と清さんの愛まで引き裂こうだなんて……」 「落ち着いて、冷静になるんだ。そんな事はありえない」 諌める声、こちらの声には感情があった。その感情は、焦り。 「ううん、間違いない。アレク。夕方、私が病室にいない間に女の子が来なかった?」 若干の沈黙の後、答える声。 「……来たよ。君の絵を見たりとか、部屋の中を物色してたけど、すぐ出てっちゃった」 「ほら。やっぱり私を確実に仕留めようとする悪魔の手先だ」 「だから違うって! 冷静になってよ!!」 悲痛な叫びだが、人影はゆっくりと自らの唇の前に人差し指を一本立ててみせた。 「叫ばなくても聞いてる。あまり大きな声を出さないで、悪魔に気付かれるわ」 冷静になるべきは自分と気付いたのだろう、アレクと呼ばれた声の主は黙りこくる。 「悪魔め、私はただじゃ死なないわよ……刺し違えてみせる」 ギリ、という鈍い音が室内に響く。月明かりに移るのは赤い点々。 歯が、唇を噛み切っていた。 「……! まさか、また『拡散』させるつもりじゃあ!」 「そうよ、呪いを拡散させるのよ。悪魔め、自らが作り出した呪いに身を焼かれて死ぬが良い、私の苦しみを貴様を味わえば良い、そうだあの医師も悪魔の使いに違いない変なクスリを使って私をこんな風にしてしまったアイツこそが元凶許されるべきでない存在滅ぼすホロぼすほろぼす……」 最初ははっきりとしていた発音が、徐々に小さくなり、もごもごと呟くだけになる。 「圭………」 人影の目には、ぎらぎらとしたものがあった。
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