■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

ジェム・シリカの指先 作者:フラボノ

第1回   発覚
 少年、下総中山(しもうさなかやま)清は初め、それを絵の具だと思った。
 今袖を通したばかりのYシャツを見る。
 Yシャツは学校指定のもので、アイロンもしっかりかけられている。
 そんな純白のYシャツの、左肘の部分が薄い青緑色に染まっていたのだ。
「……?」
 清の両親は健在だ。高校1年生である清の洗濯物は、母親が毎日洗っている。
 純白のYシャツが着る前から汚れているという事は、まずないのだ。
「この前の美術の時間でつけちまったのか?」
 気にせずボタンを留めようとした清は、自らの指先を見る格好になる。
 そして、気付いた。
「なんだ、これ?」
 右手の指先が、青緑色に染まっていた。青緑色は第一関節から始まっていて、指先になるほどその色が濃くなっていく。
 親指も、人差し指も、中指も……五指全てが青緑色になり、艶々とした光沢を放っている。
「俺は……もしかして、寝ぼけてるのか?」
 次に左手を見る。指先はどうみても血の通った肌色だった。右手の指先だけが青紫色に変色しているのだ。
「それとも、これは夢か?」
 呟いたところ、階下から朝餉を告げる母親の声が聞こえてくる。
「今行くー!! ったく、一体なんだってんだ」
 とりあえずボタンを留める清。青緑色の指先がボタンに触れると、ポロポロとした粉末と共に青緑色がボタンにつく。
 清はそこでようやく、最初に気付いた奇妙な現象の原因に思い当たる。Yシャツの左肘部分が青緑色に染まっているのは、右手でYシャツの皺を伸ばしたからではないか?
 目覚まし時計を見る。金属製のストップボタンには、指紋の代わりに青緑色が付着していた。
 ベッドの上に脱ぎ捨てたままのパジャマを見る。皺くちゃなパジャマには、やはり青緑色が付着していた。
「……………」
 右手をチョキの形にして、まじまじと見る清。
 左手で指先を擦ると、粉末が左手につく。この粉末が物体につく事で青緑色を着色しているのだろう。
 試しに目覚まし時計のボタンを左手で払うと、鈍い銀色が顔を覗かせた。代わりに左手に青緑色の粉末が付着する。
 清は、敢えて先程と同じ言葉を口にする。今度は無意識ではなく、意識的に。現実を直視する為に。
「なんだ、これ?」
 右手の指先から青緑色の粉末が出ている。この粉末は無限に湧き出てくるのか?
 そんな疑問が清の脳に広がる。そんな訳は無い、無から有を発生させるなど、普通ありえない。
 普通ありえない状況ならば『今既に起こっている』のだが、今の清にそこまで考えることはできなかった。
 導き出された回答はひとつ。清はその回答が気に食わないので、回答を口にするのに随分と逡巡する。
 だが、どんなに馬鹿げた答えでも、それしか答えがないのならばそれは正解なのだ。
 どこかのミステリーで読んだ、そんな言葉が清の脳裏に浮かんで消えた。
「……右手が、削れているのか」
 搾り出すように呟く清。
 その顔は、右手よりもよっぽど青ざめていた。
 少年、下総中山清はその次、夢なら良いと思った。

次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections