「司令官! ピナトゥボ火山が噴火しました!!」 「こちらも噴火を確認しました!!」 慌ただしい部屋の中、俺は黙って世界地図が映ったモニターパネルを眺めていた。 赤い丸がインクの染みのように世界中に散らばり、モニターパネルの右下では数字が秒刻みで回転していた。 『地球爆発まであと00時:03分:14秒』
それは突然ではなかった。 地球があと30年後には爆発してしまう事がわかった。 そして、それがわかったのは30年前だったってだけだ。 寿命、だった。 マントル対流が異常に活性化を始め、烈火の如き勢いで燃焼を始めたのだ。 それは、消えかけた蝋燭が最期に明るく輝くのと同じなのだ。 人類は他の星へ移住しようと努力しはじめ、地球脱出軍を設立した。 俺とレティ、ブラメシュの三人の幼馴染はその必死の光景を見て自然にこの地球脱出軍へ入ろうと思った。 そして努力の結果念願が叶い、俺達三人は地球脱出軍に入隊した。 しかし、遅かったのだ。 初めは順調だった。月に移り住む事に決まり、コロニーやシャトルを造り始めた。 だが、月は地球より小さい、住める人数も限られてくる。 世界各地で戦争が起こり始めたのは3年前の事だった。 いつしか世界中から人々の集まって来ていた地球脱出軍は孤立していた。 どの国も軍に経費を送ろうとせず、俺達はシャトルも作れなくなった。 そして、今に至ったのだ。
「……ひっく、なんで、なんで私達、こんな時代に生まれちゃったのよ!」 横でレティが泣きじゃくっている。 レティはいつも明るい少女だった。けして美人ではなかったが、元気があって皆から好かれていた。 彼女は俺達の希望だった。 そう、2年前にブラメシュが自殺するまでは――― それから、彼女は笑わなくなった。 「しょーがねーだろ、生まれちまったんだからよ」 俺はイラついて吐き捨てた。
地面が揺れ始める。 俺とレティは思わずよろめき、倒れそうになった。 「へへ、どーやら本格的にやべーらしいな……」 近くの機械に手を置いて俺は呟いた。 「司令官! データ検出完了しました!」 部下が俺に近寄り、紙切れを渡した。 「そうか、ご苦労」 俺は人類がまた地球のような環境の星で生まれる確率を調べさせていたのだ。 そこには果てしない程に0が並べられてあり、最後に申し訳無さそうに4という数字があった。 「ちっ……絶望的じゃねーか」 俺は言い捨て横のレティにゴミのような紙切れを回した。 レティはしばらく薄っぺらい紙切れを眺めて言った。 「よかった……」 と。 「よかった!? レティ、お前、この数字がイミする所がわかってんのか!?」 「わかってるわよ、ゼロ%じゃないのよ、そうしたらワタシはうまれかわってまたブラメシュにあえるのよ」 レティは俺のほうに顔を向けた。 目に涙をためていた。口が笑っている。しかし、俺を見てはいなかった。 「ブラメシュもう少しねもうすこしであなたにあえるのよ」 彼女は彼女の中のブラメシュに向かって言っているのだ。 なぜなら俺に対してこの笑顔を見せたことは一度としてなく――― 「ケッ、ついに狂いやがったか」 俺は思考をぶち切るようにうめいた。 狂う事のできたレティが羨ましかった。
地球爆発1分前を知らせる意味の無いサイレンが鳴り始めた。 揺れが一層激しくなる。 一度部屋の電源が落ち、非常用の薄暗いランプがついた。 俺は未だに信じられないでいた。 地球が無くなり、自分が死ぬという事を。 どこかゲームか何かのように思っていた。 だが今、ようやく実感できた。 悔しかった。こんな天変地異なんかで自分やレティが死ぬ事が。 レティは揺れに耐え切れず、倒れながら、いつまでも笑い続けていた。 思えば、俺はブラメシュに何一つ敵わなかったのだ。 テストもスポーツもいつもブラメシュの二番手に甘んじていた。 そして……最期も。アイツが自殺した理由が、1分前にならないとわからないなんてな。 「次、生まれてきたら、ブラメシュ、今度は負けねーぜ」 俺は懐から銃を取り出し、ポイントをレティの頭部に合わせ、トリガーを引いた。 パスッ、とサイレンサーのせいで音が虚しく響いた。 連続する、空気が抜けたような音。 続けて撃つと、レティの顔面は赤い血と白い脳漿に包まれていた。 しかし、それでも笑っていた。 美しいと思った。 「な、何をしてるんですか司令か――!?」 ようやく事態を飲み込めた部下も俺に撃たれ、倒れた。 頭は意外と冷静だった。 ブラメシュもこんな感じだったんだろうと思った。 俺は自分の頭に銃口を当て――― 「ざまーみろ、チキューめ」
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