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伝説のレェンダ 作者:フラボノ

第8回   ランド・タートル
 南方独特のシダ植物が生い茂り、野鳥の声が木霊する。
「ついに……きたんだね」
 感慨深げに呟くポタン。
 目的地であったマリアージュ公国南の国境沿い、密林のジャングル。
 二人はその入り口の前に、呆然と立っていた。
「噂には聞いていたが……こりゃまたでかいな」
 クレストは服の袖で汗を拭う。着込んでいるブレストプレートに触れると、かなり熱を持っていた。
「はやくも、ジメジメしてるね」
 ジャングルは温度と湿度が高い。自称ぽっちゃり系のポタンには厳しい気候だった。
「いいか、ジャングルの入る時は長袖に長ズボン……出来るだけ肌を露出させるなよ」
「うん、肌が焼けちゃうからね」
「……………」
 ポタンの答えに顔をしかめるクレスト。
「虫除けだ、虫除け。あと、私達は紐付きブーツを履いているからいいが、そうでなければ長靴が必要だな」
「なんで?」
「寝ている間にブーツの中にヒルが入り込んでくるからだ」
「うげ……気持ち悪い」
 想像して舌を出すポタンを見て、クレストも釣られて笑う。
「大丈夫、ヒルに刺されても血を吸われるだけで痛くはないらしいぞ」
「そういう問題じゃないって……」
 体を振るわせるポタン。揺れた腹の肉は、さぞ旨い血が詰まっているだろうと思われる。
「さて、行くか……まずはランドトータスのいる沼を見つけなければな」
 クレストは一歩足を踏み出す。続いてポタンも、緊張気味にクレストへと続いた。

「ぺス、カ、トーレッ!」
 妙な掛け声を発しながら鉈を振るうクレスト。蔦が切り払われ、飛んでいく。
「えーと……なに? その掛け声」
 鉈へ強化魔法エンチャントウェポンをかけながら、ポタンは呆れ顔だ。
「街に帰ったら食べたい料理を思い浮かべてるのさ。まろやか子牛の、ステー、キッ!」
 草木を切り払い、道無き道を行くポタンとクレスト。
「まずはレェンダの事だけ考えようよ……」
「お、沼があった」
 木に手をつきながら進んでいた二人。クレストが視線の先に、沼を発見する。
「ホント!? えーと……」
 クレストの背中から顔を出し、ポタンは沼を確認すると、目がパチクリさせた。
「思ったより綺麗なんだね」
 沼は青緑色をしているが、それは水草の緑と透き通る水の青色だった。天空より降り注ぐ太陽光に反射し、角度によってはエメラルドグリーンにも見える。
「沼と湖の明確な区別はないからな。割合透明度が低いと沼、って呼ばれる事が多いようだが」
 そこまで言って、クレストは唇の前に一本指を立ててみせた。静かに、のジェスチャーだ。
 無言で頷くポタン、次にクレストは開いた両手を上から下に動かし姿勢を低く、というジェスチャーを送る。
 ポタンの疑問はすぐに氷解する。沼の方から、何者かが蠢く音がするのだ。
 ずる、ずる、と何者かの体に長い水草が掠れ、音を立てる。
「(どう……? ランドタートル?)」
 小声でクレストへ聞くポタン。クレストは首だけポタンへと向けて頷く。
「(ああ、恐らく、だが……)」
 鉈を鞘に収め、クレストは匍匐前進で沼へと進んでいく。
 そして、沼脇の水草から伸びる長い緑の首を見た。
 ランドトータスだ。大人の人間でいえば横に7人分ほどの巨体を揺らし、沼へと体を滑らせていく。
 その背中の甲羅に、赤い苔が張り付いていたのをクレストはしかとその蒼い瞳で確認した。

 鉈を仕舞うクレスト、代わりに抜くは、使い慣れしブロードソード。
 ポタンは無言でそのブロードソードに強化魔法エンチャントウェポンをかける。
 既に、二人の息は阿吽の呼吸とでも形容すべきほどに合致していた。
「行くぞっ!」
「おうっ!」
 お互いを鼓舞するために、それぞれが声を発する。ランドタートルは、気づいていないのか、それとも歯牙にも欠けないのか、沼の中で動かない。
「ハァッ!!」
 大上段から振りかぶったクレストの一撃。
 ランドタートルの首目掛けて振り下ろされたその剣は、意外にも素早い動きで避けられてしまう。
「……そんなんありかよ」
 ポタンは歯噛みしてクレストの攻撃を見守っていた。
 クレストの下半身は沼に浸かり、攻撃速度が鈍る。甲羅だけでもなく、皮膚もそれなりに硬質そうだ。
「ちっくしょ……!?」
 ランドタートルは前足を大きく持ち上げ、二本足で立つ。そして無造作に、その二本の前足を打ち下ろした。
 クレストは攻撃は避けた。
 だが、前足は湖面に打ち付けられ、波となってクレストを襲う。
 よろけるクレスト、そこへランドタートルの追撃が来た。
「クレストっ!?」
 強烈な体当たりを食らい、クレストは吹っ飛ばされる。頭から沼へと突っ込んでいくクレスト。
 クレストのは自らの脳が揺らぎ、肺に水が入るのを感じた。
「―――ク、ケホッ!」
 剣を杖代わりにして立ち上がるクレスト。腰は引けているが、闘志までは消えていない。
 しかし、ランドタートルは闘志だけで勝てる相手では、なかった。
(「避けきれないっ?!」)
 ランドタートルの突進、またもクレストは跳ね飛ばされる。
「クレスト、ここは逃げようっ!」
 ポタンの悲痛な叫び、クレストは倒れたまま、手を上げて答える。
「そうは……いかない、俺は……コイツを倒して………レェンダを、手に、いれる……ッ!」
「この……わからずやっ!」
 ポタンはクレストへ駆け寄り、必死でクレストを引きずろうとする。抵抗するクレストの重さの前に、ポタンの腕は動かない。ランドタートルは余裕だといわんばかりにのっそりと近づいてきている。
「一旦退却して作戦を練ろうよっ!!」
「く………っ」
 クレストはランドタートルとポタンを見比べる。
土緑色の亀と、鮮やかなポタンの髪の緑。ポタンの髪の色の方がが、クレストの目に強く飛び込んできた。
「わか……った……!」
「クレストっ」
 喜びを滲ませたポタンの声。クレストを沼から引き上げる。クレストの抵抗もなく、今度はすんなりと引き上げられる。
「見てろよランドタートル、今度は勝ってやるからなっ!」
 沼に、ポタンの叫びが木霊する。
 これは負け犬の遠吠えか、それとも……。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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