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伝説のレェンダ 作者:フラボノ

第6回   怪鳥グレンダル
 翌朝、二人は分かれ道に差し掛かっていた。
「ふあぁ……眠。こっちに行けば、良いんだよな?」
 白い手袋を嵌めた手で、眠い目をこすりながら立て札を確認するポタン。その立て札が示す道はカーブしていて先を確認する事が出来ない。
 ただひとつ、わかっているのはその道が上り坂になっている事だ。ポタンは走ってその道を駆け上がっていく。
「そんなに急ぐと疲れますよー? 昨夜は魔法の勉強で夜更かししたってのに……やれやれ、子供は風の子ですねぇ」
 クレストは肩をすくめながらその後ろをついていく。
「なぁなぁ、クレスト、クレスト!」
 走っていたポタンが急に止まり、振り返ってクレストへ尋ねる。
「はいはい、なんですか?」
 ポタンと、空を見上げるクレスト。雲は、もう近い。
「怪鳥グレンダルって、どんな相手なんだ?」
「……昨夜教えたじゃないですか。良いですか、怪鳥グレンダルっていうのは―――」


 身の丈5メートル、体毛はビロード色で、尾羽に近づくほどピンク色になっていく。
 その山吹色の嘴は何人(なんびと)をも貫き通し、鈍色(にびいろ)の爪は容易く人を切り裂くのだ。
「……あいつらに、頼むべきじゃなかったかしら」
 ポタンとクレストが去った『朝焼けの風見鶏亭』、エマは一人佇んでいた。
「おはよう、リアンスんとこの嬢ちゃん」
 ドアをノックする音。慌ててエマはドアを開ける。
 そこにいたのは村人の一人だった。猫背の、皺だらけの老人。
「村長……」
「すまんのう、辛い仕事を押し付けてしもうて」
 老人の言葉にかぶりを振るエマ。
「いいのよ、別に。気にしてないし、もう、慣れちゃった」
 ポリポリと頭を掻くエマ。その両手の指には、昨日より多くの包帯と絆創膏が巻かれていた。
「あの旅人達は……どうだったかね?」
「ああ、あんまり持ってなかったわ。でもね、冒険者だったから金を返す事を条件にグレンダルの討伐を依頼しといたの」
 村長は、グレンダルの単語を聞くと、眉間に皺を寄せた。もともと皺だらけなのでその変化は微妙なものだったが。
「グレンダル、か……あやつがこの山に住み着いた事が、宿場町の落ち目じゃったな」
「なーに、きっとあいつらがグレンダルを倒してきてくれるわよ!」
 エマは村長を励ますように、大声で笑う。
「グレンダルさえ居なくなればまた旅人も増えるし、それにパパとママの持ってた指輪を取り返して売れば当座は凌げるわ」
「リアンスのとこの嬢ちゃんよ……それは、それだけはしてはならんぞ」
 だが、村長はエマの笑いを掻き消すように言い放った。
「両親の、いわば形見の品を売るなど、もっての他じゃ。あの冒険者が指輪を持ち帰っても決して売ってはいかんぞ」
 村長の言葉に、エマは静かに首を振る。真っ直ぐな、紫水晶のような双眸が、村長を見据える。
「……いくら村長でも、それだけは譲れないわ。あの指輪についている宝石を売れば、金貨数万枚になる。それでこの町のみんなを救うのが、パパ達の望んでる事だもの」
「………そう、か。流石リアンスの子じゃ。……すまん、の」
 村長の呻くような懺悔に、エマは先程より、か弱く頭を掻いた。
「いいのよ、別に。気にしてないもの」

「うひょー、雲が下に見えるよ」
 崖道を往く二人。ポタンは手をかざして足元を覗く。そこには壮大な景色と白いもやのような雲が漂っていた。
「気をつけて。落ちないで下さいよ。いつグレンダルが出てくるかもわからないんですから」
 脇は切り立った岩壁、もう片方は崖になっている。道幅は十分にあるのだが、もし足を踏み外せば命はないだろう。
「大丈夫大丈夫、俺はこうみえても運動神経が……」
 丸っこい体を揺らして笑うポタンの姿が、急に暗くなる。
 見ると足元にも影が出来ていた。
 雲もないこの高地で、突如出現した大きな影。
 ポタンとクレストは、即座に首を上に巡らせた。
 天空に舞う、ビロード色の大鳥。それはグレンダルに相違ない。
「ポタン、伏せろっ!」
「わかってらぃ!」
 鋭い足の爪を突き出し、急降下するグレンダル。
 ブロードソードを抜き放ち、敢然と立ち向かうクレスト。
 その顔は、強張っていた。
「うわああぁぁっ!?」
 横へ身をかわすクレスト、グレンダルの爪は地面に傷跡を穿つ。紙を切り裂くかのような一撃、くっきりと4本の筋が地面に出来ていた。
「クレスト、大丈夫かっ!?」
 砂埃が口に入ったのか、唾を吐きながら怒鳴るポタン。グレンダルは旋回し、再度上空へと飛翔する。
「大丈夫だが……ちょっとここでは厳しいぞっ!?」
 壁面と崖を交互に見やり、クレストは歯噛みしながら剣を構え直す。雄大に空を舞うグレンダル。
「空を飛ぶ相手には剣士の俺じゃ戦い辛い……」
 自らへ飛び込んでくるグレンダルを見上げ、クレストは刃を水平に向けた。
 斜め上から迫り来る金の爪。
「……ここだっ!」
 勇気を出し、クレストは一歩踏み込んだ。同時にブロードソードが動く。交差するクレストとグランダル。
「ク、キイィィ!!?」
 鈍い音と高い鳴き声。グランダルが鳴いていた。
 崖道に転がる金色のモノ、それはグランダルの左足の爪のひとつだった。
「あいたたたた……さ、流石に痺れる……」
 剣を持ち替えて手を振るクレスト。グレンダルの勢いを利用した斬撃だった。
「すげえぜクレスト!」
 はしゃぐポタンだが、クレストにへ剣を突きつけられる。
「凄いじゃないぞ、次にやるのはポタン、君なんだ。出来るか?」
 ポタンは最初、目を丸くしてクレストを見つめたが、すぐに深くうなづく。
「……おう、昨夜言ってたヤツだよな。出来る、いや、やってみせるよ!」
 ポタンは手袋を嵌めた手をパン、と叩く。
 それは魔力を増幅させる不思議な手袋、クレストのおさがりだからポタンには若干大きいけれど。
「あの爪に牙を……世界を切り裂くほどの力を……」
 山に吹く一陣の風が、ポタンの体を嘗めた。太めの腕の毛が逆立つ。
 クレストが相手をするグレンダルは左足を負傷した為、明らかにバランスが悪い。
 ポタンは片目を瞑り、照準を合わせる。狙うは、グレンダルの右足。
「ディバイン・ウェポン!」
 グレンダルの右足が光る、足の爪に、白い闘気が纏わりつく。
「はぁ……はぁ、か、かかった!」
 魔法を使い疲労したポタンへクレストが激を飛ばす。
「よくやった! 崖から落ちないように気をつけて避難するんだ!」
「う、うんっ! 後は頼んだよ!」
 崖道を降りていくポタンを見送り、クレストはグレンダルに向かい直った。
「さて……上手くやらなきゃな」
 左足をだらんと伸ばし、右足を強化されたグレンダル。ポタン達の思惑を知ってか知らぬか、再度急降下での爪攻撃を敢行する。
(「一太刀を当てる必要も無い……集中して、避けるだけ!」)
 ぎりぎりまでグレンダルをひきつけて、横っ飛びに飛ぶクレスト。
 降りてくる爪は、それでも案外速い。
「ぐっ……!」
 逃げ遅れたクレストの左足がやすやすと切り裂かれる。
 グレンダルの右足は左足を切り裂いた後、そのまま岩壁に突き刺さった。
「これでも、くらえっ!」
 寝転んだままクレストは上半身を捻って剣をふるう。
 グレンダルに剣は届かない。否、はじめからクレストの狙いは岩壁だった。
 パラパラと乾いた音がする。その音が、次第に大きくなりはじめた。
 痛む足を押さえ、崖道を下へと転がっていくクレスト。それを追おうとするグレンダルの頭上に、自分よりも大きな影が降って沸く。
「ク、グ、ケェーッ!!?」
 壮絶な崖崩れ、グレンダルの脅威的な一撃が岩壁自体にダメージを与えていたのだ。
 へたりこむクレストの目の前で、グレンダルが岩の雨に埋もれていく。
「クレスト、大丈夫!?」
 心配して待機していたのだろう、すぐ顔をだすポタン。
「……ええ、大丈夫、ですよ」
 クレストの口調は平穏時のそれに戻っている。
 二人の目の前には、岩の山がうず高く積まれているのだった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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