「ヘイらっしゃ……あ」 厨房から八百屋かなにかのように応対をしていたエマは、入り口に見知った二人組みがいるのを見て、絶句した。 「ちょっと、どうしたのよその怪我!」 ポタンは目を瞑り、クレストに背負われていた。そのクレストも右足を引きずっている。 「レェンダを手に入れたんだけど、ランドタートルに受けた傷がね……」 答えるクレストに対し、エプロン姿でお玉片手に詰め寄るエマ。 「あのねぇ、アンタってものがついていながら、なんでポタンを守れないのよ、この馬鹿!」 「守れないってなんだよ」 ポタンは起きていた。ポタンとエマの目が合う。エマは真っ赤になって顔を背けた。 「あ、アンタ起きてたの!?」 「怪我をしたクレストをマリアージュ・ヒールで治してたんだけど、途中で気力が尽きてね。動けないから背負ってもらってたんだけど」 エマは、ふるふると体を震わせる。 「…………この馬鹿!」 ポタンの頭をポカンと殴るエマ。 「なんでお前、そんなに怒るんだよ……」 椅子に腰掛けたポタンは渋りながらも、腰につけていた袋を差し出した。 「なによこれ?」 「レェンダ」 簡潔に答えるポタン。 「えーと、私達は非常に疲れているので、エマさんに料理をお願いしようと思いまして」 「は!? そ、そんな事いきなり言われても……」 レェンダは伝説の食材だ。そんな食材を自分が料理していいのか、そんなエマの躊躇を見透かして、クレストは続ける。 「大丈夫、レェンダを食べた事がある私が口出しで手伝いますから」 そして更に声を潜める。 「それに、ポタンに美味しい料理を食べさせてあげ……あたっ!」 クレストはお玉で殴られていた。鬼のような形相のエマだったが、すぐに落ち着いて。 「……しょうがないわねぇ。じゃ、私が料理してあげるわよ」 腕を組み、頬を微かに膨らませた。
数刻後、テーブルには様々な料理が並んでいた。 パンにレェンダとバターを塗りつけ、こんがりと焼いたモノ。 薄い皮のレェンダでチーズと野菜を巻いたモノ。 子牛の肉のステーキに、盛り合わせとしてレェンダが添えられたモノ。 「どーよ!」 エマの蒸気した頬。料理で疲れたのだろう、額に光る玉の汗。 「……うまそう」 ポタンは素直にそう漏らした。エマもその言葉を聴いて、満足気だった。 「よし、それじゃ、食べてみましょ!」 エプロンを脱ぎ、エマもポタンやクレストと同じ席に座る。 「え、お前も食うの?」 「……まさか、食わせない気? この私に」 「あはははは、そんなわけないよ。一緒に食べよう」 ポタンは早速レェンダのパンを齧る。 こんがりと焼けたパンの香りが鼻腔をくすぐる。 そして――― 「ケホッ、ケホッ、うぇ、苦っ……」 むせてしまった。 「ちょっ……なに咳き込んでんのよ!」 「いや、エマも食べてみなよ。本当に凄いんだから」 「どれどれ………うっ」 レェンダの野菜巻きを食べたエマの口が曲がる。 「ほ、本当ね……こりゃきついわ。これが、本当に伝説の食材なの?」 ポタンは、横で平然とレェンダ料理を食べているクレストへ問いかける。 「ああ、そうだぞ。この苦味がわからないのは、まだまだ二人が子供だからな」 ニヤリと笑うクレスト。彼は元々、レェンダの味を知っていたのだ。 「くっそー、こんなのだと知ってたら俺、食べようとしなかったよ」 笑っていうポタン。その言葉は、本心でない事は明らかだった。 そもそも、レェンダが苦いなんて事は、食べてみなければわからなかったのだ。 人は生まれながらにして、知ることを欲する。 きっと、これからもポタンは様々な美食を求めて旅に出るだろう。 「でもさ、みんなで食べる料理って美味しいよね」 ポタンの今更といえば今更の言葉に、クレストも笑って返す。 「ま、世の中そんなもんさ」
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