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ねぇ。電話はあなたが切って 作者:深海 翔

最終回   1
「それじゃあね」
「おやすみ。…じゃあ電話切っていいよ」

いつからだったのか覚えていないけど。
あたしは彼氏と電話をする時に、必ずこう言う。
初めは何となくお互い電話が切れなくて、クスクス笑い合いながら、
結局もう一時間話し込んだり、
「いっせーのせで切ろう!」
と言って同時に切る頃もあったけど、数年前から電話は必ず彼が切るように
なっていた。

なんでかって?
私からは悲しくなってしまって、絶対にふたりだけの時間を断てないから。

電話を切るという行為は、どちらかがある種一方的な切断の仕方で、
密な繋がりを断ち切る行為だ。
ひどく簡単に。あっけなく。
まるで恋のようだ。

ぷつりと切れてしまった、電話の音を暫く聞きながら、
ほんの少し傷ついた気持ちを覆うように、深々と一度深呼吸をする。
そのため息は細く儚く、真夜中の闇にそっと溶け込んだ。

あたしは知っている。
別れる時はたぶん彼から。

きっと毎日の電話みたいに、ある日プツリと彼がボタンを押すのだろう。
妙に確信めいた、予感。
残念ながらあたしの予感は当たるのだ。

あたしはこうやって、何年もかけながら彼を失った時の、心の準備を
しているのかも知れない。

あなたの声は聞きたいけれど。
やっぱりあたしは電話が嫌い。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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