今朝の事だ。  『たかし』があたしの布団の中で、静かに冷たくなっていた。  原因は過労死。  性欲の強いあたしが数年間、朝も夜もヤりまくったので、『たかし』はついに壊れてしまったのだ。
   『たかし』はいつもとても低い声で囁きかけ、あたしがしたい時にだけ、そっと忍び寄る。  例えば夜の冷たい布団の中に『たかし』と一緒に滑り込むと、甘く熱い吐息で途端に布団の中は、春が来たみたいに生暖かくなった。  まるで子供のように体温が高かった『隆』と一緒に寝ているみたいに。
   『たかし』とのセックスでは、あたしばっかりがイキまくりだ。  本当はあたしもたかしを気持ち良くしてあげたいのに。  できる事なら唾液でうんと湿らせた舌先を尖らせて、壊れた公園の水飲み場にある蛇口みたい、液体を垂れ流す部分をなめ続けてあげたい。  スコールみたいなキスの雨を降らせて、『たかし』の全部を口に含んで果てるまで可愛がってあげたいのに…。  でもそれは叶わない。  なぜなら『たかし』は、あたしの大切なバイブレーターだから。
 
   隆と別れてた後も、『たかし』のお陰であたしは壊れずにすんだのだ。  あたしの方がバイブレーターである『たかし』のオモチャみたいに、ピクンピクンと仰け反ったり、カクンと跳ねたり、クタっと果てたりし続けていたのだ。  愛しい亡霊に抱かれるみたいに。何度も何度も。  考える事を拒否していたあたしは、それで良かった。  あたしは他の何かじゃイヤで、『たかし』とだとだからヤッていたのだから。  隆があたしの元から去った後、『たかし』だけがあたしを傷つけない拠り所だったのだ…。
 
   その『たかし』が死んでしまった。  呆然と座りこんだまま、あたしはスイッチをカチカチと上下させる。  先の剥がれかけたマニキュアでコーティングしたベージュ色の爪が、これ以上彼を壊さないように。  細心の注意をはらいながら、もどかしい気持ちを押さえつつ、あたしは何度も何度も『オン』『オフ』スイッチに手をかける。  何度気が遠くなるほど、同じ作業を繰り返したのだろう。  あたしは小さく溜め息をついた。 「ああ。君まで行ってしまったんだねぇ」  何だかしんみりしてしまい、あたしは学校を休んでしまった。(そしてそれが、華のプチニート生活のデビューとなった)。
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