「おねえちゃん。 泣かないで。」 どこまで歩いたのだろう。 暗やみの中を、とぼとぼ歩いていると、どこかから声がする。 「だれ?」 あかねは、驚きながらも、声の主をさがした。 「ここだよ」 あかねは、足元を見た。 「あっ!」 そこには、あかねのベッド頭にかざっっていたはずの、 チャイナ服の人形が立っていた。 「おねえちゃんが泣いてると、僕も悲しいよ。」 人形は、突然大きくなった。 「あ、あなたは!」 そこには、夢の中で見た、チャイナ服の男の子が立っていた。 「そう、僕だよ。おねえちゃんが、あんまり、あの乱馬ってのと仲がいいから、 あいつをやっつけてやったのさ。」 「な、ん、ですって・・・?」 「そんな恐い顔しないでよ。だって、 僕、おねえちゃんと仲良くなりたかっただけなんだもん。」 「じゃあ、じゃあ、乱馬を襲ったのは・・・」 「そう。 僕が、おねえちゃんの中に入ってやったのさ。」 男の子は宙に浮き上がった。 「おねえちゃん。もう、邪魔者はいないよ。今度こそ・・僕のものに、なってよ!」 「い、いやああー!!」 あかねは、恐怖で瞳を閉じた。 「おい、あかね! あかね!!」 (乱馬の声・・・) 「おい、しっかりしろ! あかね! あかね!」 乱馬は、あかねを抱きかかえていた。 「乱馬・・・ 来て、くれたの?」 「あったりめえだろ! お前を、ほっておけるかよ!」 乱馬に邪魔をされた男の子が、ゆらりと二人の前に立った。 「また・・・ 僕の邪魔をするんだね。」 あかねは、乱馬の腕の中で、脅えたように震えていた。 乱馬は、あかねをしっかり抱きしめながら、近寄ってくる男の子を睨み付けた。 「てめえ・・・ あかねに、何しやがった。」 「別に。 僕は、おねえちゃんと仲良くしたかっただけなのさ。」 男の子は、体が半分透けたようにも見える。 にやにやと、不気味な笑顔をしている。 「おにいちゃんはさ、邪魔なんだよね。」 「おねえちゃんから、離れてよ!」 男の子は、手を上に翳した。 すると、今まで乱馬にしがみついていたあかねが、急に乱馬から離れた。 「あかね?」 あかねの目は、また虚ろな色になった。 「おねえちゃん、乱馬をやっつけて!」 あかねは、男の子の命令通り、乱馬に攻撃を掛けて行った。 「やめろ、あかね! 目を覚ませ!」 「うるさい! お前なんか、おねえちゃんにやられろ!」 (私、何をしてるの?) あかねは、また、自分の体が、勝手に動いているのに気づいた。 (また、また、乱馬を攻撃してるの?) 乱馬は、あかねの攻撃をかわすだけで、あかねには何も手出ししないのだった。 (乱馬! 乱馬!) 「乱馬ーっ!」 あかねは、泣きながら叫んだ。 「あかねっ!」 あかねが、元に戻ったのに気づいた乱馬は、 急に力が抜けたあかねの体を、抱きかかえた。 「はあ、はあ、はあ、」 抱き合う二人を前に、男の子は信じられないと言う顔をしていた。 「どうしてだよう・・・ おねえちゃん、僕のものになって、くれないの?」 あかねは、乱馬の腕の中で、男の子をじっと見た。 「ごめんね。 私は、乱馬が好きなの。」 「そんな・・・」 「だからね。 いくら心を操られたって、私は乱馬を愛しているわ。」 あかねの瞳は、澄んでいた。 強い光の瞳を前に、男の子は返す言葉が見つからなかった。 「もう・・・ あなたは、人形に、戻りなさい。」 あかねの言葉に、男の子は素直に透明になると、 やがて、チャイナ服の人形に、戻っていった。 人形は、悲しそうな顔に見えた。 「乱馬・・・」 「あかね・・・」 二人は、お互いを見つめ合うと、強く抱き合い、キスをした。
|
|