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不思議な人形 作者:FLAIR

第3回   人形の気持ち
 「おねえちゃん。  泣かないで。」                  
 どこまで歩いたのだろう。                       
 暗やみの中を、とぼとぼ歩いていると、どこかから声がする。         
               
 「だれ?」            
 あかねは、驚きながらも、声の主をさがした。                
       
 「ここだよ」                    
 あかねは、足元を見た。               
 「あっ!」                     
 そこには、あかねのベッド頭にかざっっていたはずの、
 チャイナ服の人形が立っていた。               
 「おねえちゃんが泣いてると、僕も悲しいよ。」
 人形は、突然大きくなった。                      
 「あ、あなたは!」                
 そこには、夢の中で見た、チャイナ服の男の子が立っていた。           
              
 「そう、僕だよ。おねえちゃんが、あんまり、あの乱馬ってのと仲がいいから、
  あいつをやっつけてやったのさ。」            
            
 「な、ん、ですって・・・?」            
 「そんな恐い顔しないでよ。だって、
  僕、おねえちゃんと仲良くなりたかっただけなんだもん。」               
 「じゃあ、じゃあ、乱馬を襲ったのは・・・」
「そう。 僕が、おねえちゃんの中に入ってやったのさ。」           
             
 男の子は宙に浮き上がった。             
 「おねえちゃん。もう、邪魔者はいないよ。今度こそ・・僕のものに、なってよ!」         
     
 「い、いやああー!!」                       
 あかねは、恐怖で瞳を閉じた。                     
 「おい、あかね!  あかね!!」                   
 (乱馬の声・・・)
「おい、しっかりしろ! あかね!  あかね!」               
      
 乱馬は、あかねを抱きかかえていた。                  
 「乱馬・・・    来て、くれたの?」                  
      
 「あったりめえだろ!  お前を、ほっておけるかよ!」           
            
  乱馬に邪魔をされた男の子が、ゆらりと二人の前に立った。         
           
 「また・・・   僕の邪魔をするんだね。」
あかねは、乱馬の腕の中で、脅えたように震えていた。             
      
 乱馬は、あかねをしっかり抱きしめながら、近寄ってくる男の子を睨み付けた。 
                        
 「てめえ・・・   あかねに、何しやがった。」              
       
 「別に。  僕は、おねえちゃんと仲良くしたかっただけなのさ。」      
               
 男の子は、体が半分透けたようにも見える。                 
     
 にやにやと、不気味な笑顔をしている。                
 「おにいちゃんはさ、邪魔なんだよね。」
「おねえちゃんから、離れてよ!」                   
 男の子は、手を上に翳した。             
 すると、今まで乱馬にしがみついていたあかねが、急に乱馬から離れた。    
                
 「あかね?」           
 あかねの目は、また虚ろな色になった。                
 「おねえちゃん、乱馬をやっつけて!」               
 あかねは、男の子の命令通り、乱馬に攻撃を掛けて行った。          
      
 「やめろ、あかね!  目を覚ませ!」               
 「うるさい!  お前なんか、おねえちゃんにやられろ!」
(私、何をしてるの?)               
 あかねは、また、自分の体が、勝手に動いているのに気づいた。        
       
 (また、また、乱馬を攻撃してるの?)                   
     
 乱馬は、あかねの攻撃をかわすだけで、あかねには何も手出ししないのだった。 
               
 (乱馬!  乱馬!)                        
 「乱馬ーっ!」                   
 あかねは、泣きながら叫んだ。                     
 「あかねっ!」                   
 あかねが、元に戻ったのに気づいた乱馬は、
 急に力が抜けたあかねの体を、抱きかかえた。
「はあ、はあ、はあ、」                        
 抱き合う二人を前に、男の子は信じられないと言う顔をしていた。       
       
 「どうしてだよう・・・   おねえちゃん、僕のものになって、くれないの?」                     
 あかねは、乱馬の腕の中で、男の子をじっと見た。              
       
 「ごめんね。   私は、乱馬が好きなの。」                
       
 「そんな・・・」                  
 「だからね。  いくら心を操られたって、私は乱馬を愛しているわ。」     
                
 あかねの瞳は、澄んでいた。
強い光の瞳を前に、男の子は返す言葉が見つからなかった。           
              
 「もう・・・            あなたは、人形に、戻りなさい。」   
               
 あかねの言葉に、男の子は素直に透明になると、
 やがて、チャイナ服の人形に、戻っていった。                     
 人形は、悲しそうな顔に見えた。                    
 「乱馬・・・」                   
 「あかね・・・」                  
 二人は、お互いを見つめ合うと、強く抱き合い、キスをした。

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