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不思議な人形 作者:FLAIR

第2回   人形の攻撃
 夜も更けて、あかねはベッドで寝ていた。                   
      
 チャイナ服の人形は、あかねのベッドの頭の所に、時計と並べて置いてある。    
                
 カチカチカチ・・・                       
 時計の針が、夜半を指す。                         
        
(ここは、どこかしら・・・?)     
               
 あかねは、ぼうっとした光の中にいた。                   
      
 ゆったり周りを見回したが、景色がはっきり見えない。            
       
 「ねえ、お姉ちゃん。」                          
       
 どこからか、声がする。                        
 あかねは、声のしたほうを見た。                    
 「僕は、ここにいるんだよ。」                     
 (だれ?)
「ほら、ここだよ。」                        
 すると、目の前に、小さな男の子が現れた。                 
      
 チャイナ服を着て、やんちゃな顔をしている。                  
       
 「僕さ、優しそうな人が来るのを、ずっと待っていたんだよ。」        
                
 男の子は、あかねの前で、にこにこ笑う。                  
       
 「それって・・・   わたしのこと?」                  
      
 あかねは、なんとなく嬉しくなって答えた。

「うんっ!」             
       
 男の子は、あかねの顔をじっと見た。                   
 「ねえ、僕、お姉ちゃんのことが、好きになっちゃった。」          
              
 「え・・・?」                   
 「だからさ・・・    僕、お姉ちゃんと、一緒になりたい。」       
                         
 「どういうこと?」                      
 男の子は、あかねの目の前に、浮かびあがった。               
          
 そして、体の色が突然透けた。
「ああっ!」                             
 あかねが驚く間も無く、男の子は、あかねの体に入り込んできた。       
                
 (ら、乱馬・・・)                            
   
 あかねは、自分の意識が遠くなるような、気がした。



 朝食を食べ終わると、いつものように二人そろって学校へ行った。        
               
 乱馬がフェンスを駆けていく後を、あかねも追いかけていく。         
                
 (あれは・・・   夢だったのかしら・・・)               
       
 男の子が、私の中に入ってくるイメージが、あかねの心にぼんやり残っている。 
                        
 変な夢を見たせいだろうか?                        
       
 頭が全然すっきりしない。 
「おーい、あかねー!  おいてくぞー!」                  
      
 はっと気づくと、乱馬は、もう、ずっと先を歩いていた。           
                
 「なに、ぼんやりしてんだよ?」                      
       
 やっとこさ追いかけてきたあかねを、乱馬の顔が覗き込む。          
               
 と、               
 <どーん!>                    
 いきなり突き飛ばされる乱馬。                     
 「いてて。    あかね、いきなりなにすんだよ!」            
  
乱馬の声に、はっと我に返るあかね。                  
 (え? 私、今、何をやったの?)                     
       
 あかねは、自分が乱馬を突き飛ばしたことに気がつかなかった。        
                
 「ご・・・ごめん・・・」                      
 あわてて謝るあかね。                         
 「なんなんだよ。  まあ、凶暴なのはいつものことだけどな。」       
                
 「なんですってえ!」                        
 いつも通りの喧嘩が始まり、このときはこれで終わったのだった。
・・・放課後。                   
 二人そろっての帰り道。                        
 「なあ、あかね、今日はどうしたんだよ?」                 
                
 「え?」                      
 乱馬は、心配そうな顔を、あかねに向ける。                 
       
 「一日、ずっと、ぼーっとしてただろ?」                  
      
 乱馬の言う通り、あかねは、授業中も身が入らず、ぼんやりした感じだった。  
                
 「うん・・・」
 「どっか、具合でも悪いんじゃないのか?」                  
      
 「ううん。 大丈夫よ。」                       
 あかねは、乱馬の言葉が嬉しくて、にこっと笑って見せた。          
               
 乱馬は、あかねの笑顔が可愛かったので、嬉しくなったが、          
      
 「ほんとかよ?」                  
 と言って、フェンスの上から、ひょいっと飛び降りると、
 あかねのおでこに手を当てた。
 ふっと、頬を染めるあかね。                      
 乱馬の手の暖かさが、あかねの気持ちにじんわり沁みる。           
       
 優しい時間だった。                         
 が、               
  <バシッ!>                   
 あかねの手が勝手に乱馬の手を払った。                   
      
 (な、なんで?   どうして?)                   
 自分の行動が、信じられないあかね。                  
 乱馬も、あかねの拒否を、驚いた顔で見てる。
 「あ、あかね?」                  
 「ちがう、ちがうの・・・」                      
 あかねは、目に涙を滲ませながら、二、三歩後ずさりをすると、
 乱馬から逃げるように走って行った。                        
 「お、おい、あかね!」                        
 後に残された乱馬は、訳が分からないまま、あかねの走り去った後を見た。

 「おねえちゃん・・・」                      
 あかねは、目の前に立つ、男の子を見た。                
 (まただ・・・   また、あの男の子だ・・・)              
       
 チャイナ服を着た男の子は、あかねにニコニコ話しかける。            
       
 「ねえ・・・   おねえちゃんってさ、好きな人は、いるの?」       
                
 (好きな人・・・)                      
 あかねの脳裏には、乱馬の顔が浮かぶ。
「そっかあ。    おねえちゃんは、やっぱり、あの乱馬って人が好きなんだね。」                     
 (乱馬・・・)                   
 「でもさ、僕も、おねえちゃんのことが好きなんだよ。」           
       
 男の子は、あかねの手を取った。                    
 どこがどうなっているのだろう。                    
 あかねも、男の子も、宙に浮かんでいるようだ。               
       
 あかねは、ぼんやり男の子の声を聞いている。
「おねえちゃんは、僕のもの。」                       
     
 男の子は、あかねの手をきつく握る。                  
 「邪魔者は・・・          いらないんだ。」           
                
 男の子はそう言うと、前と同じように、あかねの中に、入って行った。


「ねえ、乱馬。」                  
 乱馬は、天道家の庭で稽古をしていた。                   
      
 額を流れる汗が、さわやかだ。                     
 「あん?  なんだよ、あかね。」                   
 乱馬は、縁側に立つあかねを見た。                   
 最近のあかねは、何となくおかしかった。                
 乱馬が、あかねに触れようとすると、強い力で拒絶されてしまう。       
       
 (俺、あかねに嫌われてんのかな?)
  あかねは・・・                   
 かわいらしい柄のワンピースを着ていた。                  
       
 女の子らしくて、可愛いな、と、思う。                   
      
 「あのね・・・            あとで、私の部屋に、来て。」    
                
 <どきん>                     
 「あ、ああ。   わかったよ。」                     
       
 あかねは、静かに部屋へ入っていく。                  
 (な、なんだろう・・・?)
 あかねの部屋。                   
 コンコン・・・                   
 「あ、あかね?」                  
 乱馬は、ぎくしゃくしながら、返事を待つ。                 
       
 「乱馬。  入って。」                        
 中では、あかねが椅子に座って、乱馬の方をみていた。            
       
 なんだか・・・          
  あかねは、思いつめたような顔をしている。                
       
 乱馬は、ベッドに腰掛けた。
(な、なんだろう・・・?)                     
 あかねの異様な雰囲気に、乱馬は、周りをきょろきょろした。         
       
 (ん?)              
 ベッド頭の、チャイナ服の人形が、一瞬、笑ったように見えた。          
              
 (気の・・・    せいか・・・?)                   
  
 「ねえ・・・     乱馬・・・」                  
 あかねは、乱馬の隣に来た。             
 <どきっ>            
  あかねは乱馬に体を密着させるように、擦り寄ってくる。          
      
 「あ、あかね?」
 「乱馬・・・」                   
 あかねの手が、乱馬の頬に伸びた。                   
 乱馬の頬を、そっと愛撫するように、撫でていく。              
       
 「あ、あかね・・・」                      
 乱馬は、あかねに夢中になった。                   
  あかねの細い腕をつかむと、ベッドにそのまま押し倒した。         
                
 あかねは、全く抵抗しない。                      
 「あかね」                     
 ベッドに仰向けになったあかねに、乱馬は覆いかぶさった。
「あかね、いいかな?」                        
 「いいよ。   乱馬・・・    私を、    好きにして。」      
  
 (か、かわいい)        
  乱馬の頭は、くらくらして爆発しそうだ。                 
    
 「じゃ、じゃあ、いくよ。」                   
  あかねの目が閉じた。          
 乱馬は、あかねに唇を、重ねた。
 ビュッ!
                  
 乱馬の頬を、刃先がかすめた。                     
 乱馬が、自分の頬に手をやると、べったりと血がついている。         
                
 「あ、あかね?」                  
 突然のことに驚く乱馬。                        
 あかねは、ベッドに仰向けになったまま、
 隠し持っていたナイフで乱馬に切りつけてくる。                     
 「お、おい! あかね!」              
 狭い部屋の中を、あかねから逃げる乱馬。                
 (あかねの目・・・   なんかにとり憑かれてるみてえだな)
「あかね! 目を覚ませ!」                      
 刃物を握った腕を、しっかり握り、暴れるあかねを取り抑えた。        
      
 「あかね!  おちつけ! あかね!」               
 乱馬は、あかねの腕をしっかり握ったまま、あかねに口付けをした。      
                
 「んんっ」            
 突然のキスに、あかねはあわててもがくが、乱馬はなおもキスを続ける。    
                
 (あかねっ あかねっ)                        
 あかねの全身の力が抜け、握っていたナイフが音を立てて床に落ちた。     
                
 「んはっ はあっ はあっ」
  「あ・・・  らん・・・ま?」                     
「あかね・・・」                  
 あかねの目の色が、ともに戻った。                  
 「私・・・    どうしたんだろ・・・?」                
     
 あかねが、ぼやけた頭で乱馬を見た。                  
 「乱馬・・・    その傷、どうした・・・の?」             
       
 「あかね、お前・・・      何も覚えてねえのか?」          
              
 あかねの頭が、段々はっきりしてきた。
 乱馬の頬の、血だらけの傷。                      
 床には、ナイフが転がっている。                    
 よくみると、あかねの手のひらにも、血がついていた。            
       
 「私・・・   もしかして・・・  また・・・?」            
       
 あかねは、乱馬にすがるような目を向けた。                 
       
 脅えたように、涙をこぼす。                      
 「乱馬を傷つけたのは・・・              私、なのね・・・?」
                     
 あかねの顔が、涙でびしょびしょに濡れる。
「あかね・・・」                  
 乱馬は、あかねを落ち着けようと、あかねの体を抱こうとした。        
        
 「乱馬。 だめ。        私・・・  もう、自分が分からない・・・」
                      
 乱馬から、一歩ずつ離れ、距離をとる。                   
      
 「俺は、俺はなんともないぜ。」
                  
 「だめなの。    乱馬、私と一緒にいちゃ、だめなの。」         
               
 あかねは、くるりと背を向けると、バタンと音を立てて、部屋を飛び出していった。               
 「あかね!」
 あかねは、夢中で走った。   泣きながら。                 
       
 (なんで、なんでこんなことになったの?)              
 あかねは訳が分からないまま、パニックになっていた。            
       
 (私のせいで、乱馬が、怪我をしてしまったなんて・・・)          
            
 記憶には、まったくない。              
 が、あの時の状況を考えれば、あかねが乱馬を襲ったとしか、思えない。    
                
 もう、乱馬の元には帰れないと思った。                
 「うっ・・・  うっ・・・              乱馬あ・・・」

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