■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

作者:米沢涼

第5回   病院
「十瀬!早く帰ろぉ〜」
 ある日の放課後。部活動の入ってない俺らは、早く帰ろうと結構焦っていた。
「おぅ!いこいこ」

 そして、学校の寄り道にある花屋に寄った。
「おばちゃん!お花!お見舞いにあげるお花頂戴!」
「あいよ〜予算は?」
「千円!」
「少ないねぇ〜お見舞いでしょぉ〜?ドドンといっぱい買ってあげればいいのに」
 おばちゃんはそういいながら、花を選んでいた。
「俺らの年でそんなにお金ありませんよぉ〜・・ならもっと安く」
 十瀬はキラキラした目でそのおばちゃんのほうを見た。
「それは出来ないなぁー高くならできるけど・・誰のお見舞いだい?」
「母さんの!」
「そうかい・・ほらよ九百円だよ」
 言いながら花を渡した。
「ハイ千円ね」
「じゃ、おつりは百円で・・・はいよぉ〜気をつけてね」
「ありがとおばちゃん」
 走ってその場を去って行った。
 そう。お見舞いだった。なぜお見舞いかといったら、疲れて母さんがぶっ倒れたって話だった。

 病院に着くと、すぐに母の場所に向かった。
 走ってはいけないので、早歩きで行った。けれど、途中でチョット走ってる感じになっていた。
「母さん?」
 ドアを開け、ゆっくりと中に入っていく。まだ寝たまんまの状態だった。
「十瀬か・・」
 そう。母とは、十瀬のほうの母だった。十瀬の父がずっと寄り添っているらしい。
「母さん・・目、覚ました?」
「いや・・」
 父さんは首を横に振った。
「ハイ。お見舞いの花です」
 十夜がたくさんの花を渡した。
「あ・・・ありがとうね・・気を使わなくても良かったのに・・」
「いえ・・いつもお世話になっているので僕は」
「そうなのかい?ありがとうね・・ありがとう」
 と、お礼をずっとしていた。
「明日もお見舞いに来ても良いですか?」
「あぁ・・嬉しいよ来てくれて」
「リンゴ・・明日リンゴ持ってきますね」
「あ!ほんとかい?母さんも俺もリンゴ好物でね・・ありがとう」
 十瀬の父はずっと十夜にお礼を言ってばかりである。
「リンゴ好物だったんですか・・ならたくさん持ってきますね」
「ありがとう・・ありがとう・・」
 かなり父が力弱っているのを感じ取れた。

「今日はありがとう」
 家に着くと、十瀬は俺にまで礼を言ってきた。
「ううん。全然。いつも晩御飯とか食べさせてもらってるし、お世話になってるからね」
「ありがとう」
「だからそんなに言わないでって悲しくなってくるから・・母さんと父さん・・元気になると良いね」
 十瀬の肩をポンと叩き、そういった。すると、うんと十瀬はうつむきながら頷いた。

 十瀬の母が倒れてから三日経っているのだ。医者の言うなら、明日で目を覚ますって言われている。だから明日リンゴなのだ。

 次の日の帰りも焦っていた。
 いつも十瀬にも親にもお世話になっていた俺は、こういうお礼しか出来なかったのだ。
 リンゴを十個だけ買い、少ないと思いながらも急いで病院に向った。
 今日は、昨日よりも全速で行った。運がよければもう目が覚めているころなのだ。
「父さん!」
 病室のドアを開けると、何か嬉しそうな父の顔が見えた。
 もっと奥に入っていった。すると、もうすでに体を起こしていた、十瀬の母が居る。
「母さん!」
 勢いよく十瀬は母のところに行った。
「十瀬・・ちゃんとご飯食べたかい?」
「うん。十夜のところで食べさせてくれてたんだ」
「そうかいそうかい・・十夜君お邪魔させてもらったらしいね」
「いいえぇ〜・・よく僕もそちらにお邪魔させてもらっているんで。それに十瀬は楽しい話してくれるんで」
 と、にっこり笑って言った。
 俺も目が覚めてくれていて嬉しかったのだ。
「ハイ。お見舞いの・・・リンゴ・・たくさんでもないんですけど・・持ってまいりました」
「あらあ〜そんな気をつかわなくてもよかったのにぃ〜」
「いいえぇ〜」
 なんだか、こういうのもいいなぁとか思っていた。
 こう考えると、自分の親よりも、十瀬の親たちとの仲のほうが良いような気もしていた。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections