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| 「十瀬!早く帰ろぉ〜」 ある日の放課後。部活動の入ってない俺らは、早く帰ろうと結構焦っていた。
 「おぅ!いこいこ」
 
 そして、学校の寄り道にある花屋に寄った。
 「おばちゃん!お花!お見舞いにあげるお花頂戴!」
 「あいよ〜予算は?」
 「千円!」
 「少ないねぇ〜お見舞いでしょぉ〜?ドドンといっぱい買ってあげればいいのに」
 おばちゃんはそういいながら、花を選んでいた。
 「俺らの年でそんなにお金ありませんよぉ〜・・ならもっと安く」
 十瀬はキラキラした目でそのおばちゃんのほうを見た。
 「それは出来ないなぁー高くならできるけど・・誰のお見舞いだい?」
 「母さんの!」
 「そうかい・・ほらよ九百円だよ」
 言いながら花を渡した。
 「ハイ千円ね」
 「じゃ、おつりは百円で・・・はいよぉ〜気をつけてね」
 「ありがとおばちゃん」
 走ってその場を去って行った。
 そう。お見舞いだった。なぜお見舞いかといったら、疲れて母さんがぶっ倒れたって話だった。
 
 病院に着くと、すぐに母の場所に向かった。
 走ってはいけないので、早歩きで行った。けれど、途中でチョット走ってる感じになっていた。
 「母さん?」
 ドアを開け、ゆっくりと中に入っていく。まだ寝たまんまの状態だった。
 「十瀬か・・」
 そう。母とは、十瀬のほうの母だった。十瀬の父がずっと寄り添っているらしい。
 「母さん・・目、覚ました?」
 「いや・・」
 父さんは首を横に振った。
 「ハイ。お見舞いの花です」
 十夜がたくさんの花を渡した。
 「あ・・・ありがとうね・・気を使わなくても良かったのに・・」
 「いえ・・いつもお世話になっているので僕は」
 「そうなのかい?ありがとうね・・ありがとう」
 と、お礼をずっとしていた。
 「明日もお見舞いに来ても良いですか?」
 「あぁ・・嬉しいよ来てくれて」
 「リンゴ・・明日リンゴ持ってきますね」
 「あ!ほんとかい?母さんも俺もリンゴ好物でね・・ありがとう」
 十瀬の父はずっと十夜にお礼を言ってばかりである。
 「リンゴ好物だったんですか・・ならたくさん持ってきますね」
 「ありがとう・・ありがとう・・」
 かなり父が力弱っているのを感じ取れた。
 
 「今日はありがとう」
 家に着くと、十瀬は俺にまで礼を言ってきた。
 「ううん。全然。いつも晩御飯とか食べさせてもらってるし、お世話になってるからね」
 「ありがとう」
 「だからそんなに言わないでって悲しくなってくるから・・母さんと父さん・・元気になると良いね」
 十瀬の肩をポンと叩き、そういった。すると、うんと十瀬はうつむきながら頷いた。
 
 十瀬の母が倒れてから三日経っているのだ。医者の言うなら、明日で目を覚ますって言われている。だから明日リンゴなのだ。
 
 次の日の帰りも焦っていた。
 いつも十瀬にも親にもお世話になっていた俺は、こういうお礼しか出来なかったのだ。
 リンゴを十個だけ買い、少ないと思いながらも急いで病院に向った。
 今日は、昨日よりも全速で行った。運がよければもう目が覚めているころなのだ。
 「父さん!」
 病室のドアを開けると、何か嬉しそうな父の顔が見えた。
 もっと奥に入っていった。すると、もうすでに体を起こしていた、十瀬の母が居る。
 「母さん!」
 勢いよく十瀬は母のところに行った。
 「十瀬・・ちゃんとご飯食べたかい?」
 「うん。十夜のところで食べさせてくれてたんだ」
 「そうかいそうかい・・十夜君お邪魔させてもらったらしいね」
 「いいえぇ〜・・よく僕もそちらにお邪魔させてもらっているんで。それに十瀬は楽しい話してくれるんで」
 と、にっこり笑って言った。
 俺も目が覚めてくれていて嬉しかったのだ。
 「ハイ。お見舞いの・・・リンゴ・・たくさんでもないんですけど・・持ってまいりました」
 「あらあ〜そんな気をつかわなくてもよかったのにぃ〜」
 「いいえぇ〜」
 なんだか、こういうのもいいなぁとか思っていた。
 こう考えると、自分の親よりも、十瀬の親たちとの仲のほうが良いような気もしていた。
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