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作者:米沢涼

第3回   メールアドレス
 のんびり部屋に戻ると、やはり悲しくなってくる。
 当時の俺の部屋も、狭いわけではない。大体広いほうだったかもしれないが、その広さが余計悲しくなってくるのだ。

 ふとある日の桜並木を思い出した。
 あのきれいな桜を思い出し、走って外に出た。そして、あの桜並木まで走っていった。

 もう終わっているだろうか 

 そう思いながらも、あきらめずに走っていった。

 まだ桜はいちおついていた。
 それを見ながら歩いていく。
 まっくらな道を歩くのは、意外と面白いものだった。
 一つの木に手を付いた。
 なんだか呼吸をしているように見える桜。
 ゆっくりとそれを見上げた。
 大きくて、葉と葉の間から見える星の空が、きれいに輝いている。
 空を見ていると、なんだか首が疲れてくる。当たり前だが、ゆっくりと手の位置に目を戻した。
 まだ幹に手をあて、ゆっくり目を閉じた。
「だれ?」
 ハッと目を開け、幹から手を放した。
「だれ?」
 声がしたほうにゆっくり向いた。
 きれいな男の人だった。
 なぜ男の人がこんなところにいるんだろう
 とか思っていたが、当の本人も男だ。なぜとかはいえないだろう。
「そっちはだれ?」
「俺は草野紳(くさの しん)・・」
「どっかで聞いたことがあるような・・・」
「その声・・十夜か?」
「やっぱり紳って・・草シャン?」
「やっぱり十夜か!久し振りだな」
 そう言って近づいてくるその紳は、同じ小学のやつだった。
 本当に久し振りで、しかも紳のほうが背が高くなっていた。昔は十夜のほうが高かったのに。
 ついでに「草シャン」というのは、昔からのあだ名である。
「その呼び方やめろよ」
 と、苦笑いしながら言っていた。
 なんだか、その笑い方も久し振りに見て、チョット嬉しかった。
「元気?草シャン」
「おう!全然元気だよ!中学って結構面白いな。友達いっぱい出来たし。どう?そっちは?」
「元気にしてたよ。・・友達かぁ〜」
 チョット深刻な顔になってしまった。
「いないの?」
 苦笑いをしながら、うんとゆっくり首を縦に振った。
「あ。けど、一人友達らしい人は・・出来た」
「そうか・・良かった。なにかあったらメルしろよ。ほらメルアド」
 たった一つの紙切れを渡された。
「うん。わかった」
 そう言って、二人は別れた。
 別れ際に、紳はボソッと俺の耳にこういったのだ。
「また会えたらいいね」
 なんだか遠くに行って、会えなくなるような言い方で、振り向くことも聞き返すこともできなかった。

 あれから俺はそのことを考えながら家に帰った。
 ベッドに横になったのは良いのだが、気になって気になって仕方が無い。
 メルアドを見ながらボケーッとしていた。
 あまり使わない携帯を、机の上から取り、メェルをした。

『今平気かな?無理だったら返信今じゃなくていいよ。あ・・十夜です。久し振り草シャン元気でよかったよ。』

 一旦そう送って、返ってくるわけが無いと思いながら、目をつぶった。
 
 次の日。
 朝起きたら即メェルを見た。
 一通のメェルが着いていた。

『チョット送れてごめんなさい・・この時間だからもう寝ちゃったかな?まぁいいか。元気だよ!明日休みで次あるね学校面倒だな・・・十夜のところでも行こうかなぁ〜なぁんて冗談だよ。そっちも元気そうで何より。明日にでも返事待ってます。』

 結構長々としたメェルで途中、見飽きるところしていた。
 メェルが来ていて、かなり嬉しく、チョットウキウキだった。

『返事朝になってゴメン。 俺のところ来てくれるのぉ〜?じゃあ待ってるよぉって、これないってね。ゴメン  どこ行くつもりだったの?あの夜・・ちょっと気になるんで聞いておきます』

 なんだか、上の人にメルしてるみたいな言い方だ。
 敬語にしすぎたかも知れない・・と、送った後にふと思った。けれど、まぁいいかと簡単な考え方しかしない。

 コンコン

 窓にノックが。
 俺はゆっくり立ち上がり、窓を開けた。
 もう鳴らす人はわかっているからだ。
「やぁ、早いね。まだ朝の9時だよ?珍しい」
 それをハイハイと聞きながら十瀬は入って来た。
「十夜ぁ〜!会いたかったよぉ〜って・・・あれ?」
「なに?」
 十瀬の目線が携帯に行ったのがわかった。
「携帯持ってたんだ・・・」
「うん。あんまり使ってなかったけどね」
 フゥ〜ンといいながら、十瀬は十夜の携帯をいじる。
「なにしてんの?」
「俺のメルアド入れてるの・・・っと・・・じゃ、たまにメルしてね」
 なんだか、本当に友達が出来たみたいで、携帯をいじるのが楽しくなりそうだった。
 今までは、友達がいなく、携帯に履歴がないという悲しい事態があったから、携帯は いじらないようにしていたが、いじり概があって、チョット楽しみになってきていた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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