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作者:米沢涼

第2回   ベランダの友
 
 けれど、まだそのときの俺はあまり変わっていない。

 家に帰る途中、急に十瀬はこういった。
「なぁ、今日寄り道して行かない?」
 そう言って、十瀬は十夜を引張っていった。

 暫く歩いて行くと、誰も居ないがきれいな桜並木に覆われたところがあった。
「こんな・・ところに・・・」
 余計な寄り道をしない十夜は、こんな場所なんて知らなかった。
「知らなかったの?」
 十夜はうんと頷く。
 まだ話すことになれたわけではないので、そういう動作で現すしかできなかった。
「ほら・・歩こうよ!きれいだよ」
 軽く走って十瀬は、桜の木を見上げるようにてきとうな場所に止まり、子供が始めて見るきれいな桜を見ているように、はしゃいでいた。
 十夜はゆっくり歩いて行った。

 なんだか十瀬の行動が舞い落ちる桜よりも面白くって、そっちにばっかり笑っていた。

 暗くなりかけて、十瀬と一緒に歩いて家まで行った。すると、何か焼肉のにおいが、家の庭辺りからにおう。
「あれ?俺の母さんが春風のところにいる・・・なにやってるんだろう?」
「さぁ?」
 十夜も十瀬も、親からはなんも聞いては居なかった。
「お帰り〜」
 兄貴が俺に気付いたみたいだった。
「あっれぇ〜?何してるのぉ〜?こんなところで・・・焼肉?」
「そうだよぉ〜ほらッ遅かったから無くなりそうよ」
 と、俺の母は言った。けれど、全然肉やら野菜やらが残っているのが目に見えている。
「十瀬君もいっぱい食べなさい」
 父さんまでもそう言っている。
 もちろん、十瀬の親も来ていて、隣人バーベキュー?けれど、実際食べてみれば、意外とおいしいものだった。
 その頃の俺は、そんなに食べるほうではなかったし、焼肉だとか、バーベキューとか言うものも、あまり体験したことが無かったのだ。
 いまだにバーベキューと焼肉とジンギスカンの違いがわからない俺だが。

 あまり食べなかったが、結構おいしいもので、食べ疲れたのか、立ちつかれたのかはわからないが、とりあえず疲れたので、部屋に戻った。
 十瀬はまだ下で食べている。意外と大食いだとそのときに知った。
 ベッドにバタリと仰向けに倒れ、天井をじっと見ていた。
 何もない天井だが、じっくり見ていると、本当にこの目で今見ているのもが、本当に見えているものなのかが不思議と思う。
 じっと見ていれば見ているほど、なんだか、想像にしかないものだとも思う。
 もし、十瀬と会ったことが・・もし今が夢ならば、今で良いから冷めてほしい。
 こんなにも、いい人生が送れるとは、実際のところありえないのだから。

 本当に昔からいいこと無しだった。
 なぜかはわからないが、いい事が無かったのだ。
 だからこそ、これが幸せだとか、いいとか思うのだろうか。
 傷が浅いうちに・・・この夢が覚めてほしい。

 そんなことを思っていると、いつの間にか寝ていたのか、目が覚めたときは、もう明るい朝だった。
 けれど、いつも起きるときよりも、なんだか早く起きてしまった。
 昨日のままだから、焼肉くさい。
 朝風呂に入った。
 なんだか気持がよくて、また寝そうだったが、次寝たら、いつおきるかわからない・・・それに今は風呂だから寝たらヤバイだろうと、眠くなってきている目に、想いっきりシャワーをぶっ掛けてやった。

 風呂にも入ったし、気持がよくなって部屋に戻った。
 そして、指定ジャージに着替え、カバンを持って外に出た。すると、最早十瀬が居た。
 なぜこんなに早いのだろうかと考えながらも、テクテク学校に向かっていた。

 何時間目だっただろうか、暑いせいなのか、かなりだるくなってきていた。モワンモワンと頭の中が鳴ったり、回ったりしていて、気持悪い。
 頭を押さえながら、授業を受けた。あまり記憶に残ってないが、それは確か、四時間目くらいのような気もする。
 もう少しがんばれば、昼ごはんが食べれるのだ。
 今更だが、今日の朝は、何も食べてきていなかった。
 けれど、昼もお腹が空いていない。こんなんで本当に大丈夫なのかと、この先が不安になってきていた。
「どうかしたの?」
 いつの間にか授業は終わっていたらしい。
 何か異変に気付いていたのだろうか、十瀬はかなり不安そうに見ていた。
 十夜は首を横に振った。すると、ズキッと頭が鳴る。
 気付かれないように、全然平気な顔をしていた。けれど、何かまだ不安そうな顔をする十瀬がいた。
「あんま・・・・無理しないでね?」
 うんと頷く。
 あまり今は声を発したくは無かった。

 あ

 一つある事を思い出した。
 昼ごはんが食べれないとかそういう以前に、お弁当を忘れてきたという(ここの学校は給食無し)ことを今思い出した。
 すぐに出てきたので、そんなことも忘れていたのだ。
「一緒に弁当食べようよ十夜」
 そのことを思い出しながら、十夜は横に首を振った。
「えぇ〜なんかあるの?」
 また首を横に振る。
「もしかしてもう・・・俺が・・嫌に?」
 もっと首を横に振る。振るごとに頭がズキズキ言う。
「本当にどうかしたの?」
 ゆっくり首を横に振り、にっこり笑って教室を出て行った。十瀬を置いて。
「なぁ十瀬!あんな奴置いといて、一緒に食べようぜ?」
 と、隣の席の奴が言ってきた。
「う・・うん」
 十瀬は、十夜のことを考えながら、ゆっくりうなずいていた。

 屋上に出て、ずっと風に当たっていた。
 春の風が涼しく、気持がよかった。

 なんだか眠たくなり、座って壁によしかかり、目を閉じた。


 気が着いたら、もう夕方近くになっていた。
 それまで寝ていたのだから、誰も着ていなく、もし来ていても、起こしてくれなかったということだ。
 急いで教室に走った。
 すると、こっちでも眠ってる人がたった一人。

「十瀬・・」

 そう。まだ十瀬が残っていたのだ。
 窓が開いていて、風が入ってきていた。
 さすがに寒いだろうと、十夜は自分の上のジャージを脱ぎ、かけてやった。
 きっとこの衝撃では起きないと思う。カバンを持って、帰ろうかどうか迷っていたが、結局帰らないでやめた。

 外を眺めるよう。

 窓の開いたと所によしかかり、すぐ見えるグランドを見ていた。
 野球部が一生懸命なのかどうかはわからないが、練習をしているところが見える。夕日を背中に、走っている人も居た。きっと陸上部だろか。
 こうしてみると、なんだか面白い。
 なぜ面白いのか?と聞かれれば、どうも言いようが無いが、なぜかいい気分になったのだ。
「あ・・・れ?だれ?は・・・るかぜ?」
 十夜はゆっくり振り向いた。
「起きたんだ・・・・帰ろうか?」
「うん。あれ?かけてくれたの?」
「おぅ。寒そうだったから」
「ありがとう・・」
 何か驚いたようにこっちを見ていた。なぜかはなんとなく勘付く。
「じゃあ、ずっとこれ着てよ」
「え!返してよ」
「イヤッあ・・・なら俺のを貸すよ」
「なんじゃそりゃ」
 そう言って、渡されたのを着てみると、チョット大きい。
 中学生だからか、今が育ち盛りな十瀬だったのだ。
「そういえば・・・十瀬・・もう背・・高くなったよな・・」
「そうかなぁ〜?春風が縮んだんじゃない?」
「まじ?」
 と、チョット自分の身体をそうか元か思いながら、見回して見てみた。
「嘘だって」
 クスクス笑いながら十瀬は言っていた。面白くって、俺まで笑っていた気がする。それからだろうか、俺がなんとなく変わり始めているような気がするのは。

 なんだかんだ言いながら、家に帰っていった。
 夜、ベッドの中に入り、また天井を見つめていた。
 何か考え事をしているのだ。
「俺・・・なんか今日変だ」
 急に言葉がそういった。
 実際はそのときの俺は、そんなこと考えて居なかったのに、口が勝手にしゃべった。ということは、どこかで考えているってことなのだろうか。
 今日は最後のほう、たくさん話した。たくさん言葉を発した。

 なぜこんなに話せたのだろうか。

 なぜこんなにも、桜の季節で悩まないといけないのだろうか。

 なぜこんなに、十瀬のことが友達と確定されてしまっているのか。

 俺には、すべてわかっているのかもしれない。
 けれど、いまだに俺が言ったことを実行されている。
 それは、名前で呼ぶ名とかいったときから、ずっとみよじで呼ばれているのだ。
 自分から言ったほうがいいのか、言ってくれるのを待つべきなのか。
 解決できないままでいるのは、なんだか嫌だった。
 軽く着替えてベッドから出て、ベランダに出た。そして、隣のベランダに移る。隣は、丁度十瀬の部屋だった。
 
 窓をノックした。

 カーテンで閉められているため、なんだかチョット緊張する。ゆっくりカーテンは開かれた。

 十瀬

 良かったと、かなり安心してた。
 ガラガラッと窓は開いた。
「どうしたの?こんな夜中に。入りな」
 と、入れてくれた。
「お邪魔します」
「どうした?来てくれるなんてメッチャ嬉しいよ」
 と、ニコニコしていた。
 そんなに嬉しいものなのかと、かなり不安に思った。
「一緒にベッドに入ろうよぉ〜そしてはなそ?」
「まじで?きつくね?」
「大丈夫だって」
 考えもなしに言われ、引っ張り出された。男2人が一つのベッドに寝るって・・なんか変で嫌だが。
「で?どうしたん?」
「なんか・・かなり考え事してた」
「考え事?」
「うん。いつまで俺の事・・春風って呼ぶ気かな?って。最初の頃は嫌だった。あ・・・ううん。やっぱ良いや。じゃあ、部屋戻るね」
 といって、パッパと自分の部屋に戻っていった。
「たまに来いよ?」
「おぅ・・・お休み」
 といって、自分の部屋の窓を閉めた。
 ベッドに戻りこんでこう思った。

 チョット早まりすぎた

 たまに考えなしに行動すると気が、よくある。といっても、中学入ってからはそれは無かった。なぜだろうか、十瀬といると、何か乱れて嫌だった。

 次の日。丁度学校が休みで、のんびり寝ていた。
 結局目が覚めた時間は、午後一時。それまでずっと寝ていたのだ。きっと、時々目は覚めたような気がしたが、何度寝かしたと思う。
 てきとうに家を歩き回っていた。(きちんと着替えました)
 適当に入った部屋が兄貴の部屋だった。そして、いつの間にかベッドに座っていた。兄貴は机に向かって勉強家何かをしていた。
「どうしたんだ?珍しいじゃないかお前がこんなところに来るなんて」
「そう?」
「あぁ。それにお前良くなったよ」
「は?」
 急に言い出すその言葉に、その俺はよく理解できていなかった。
「話すようにもなったって事」
 無言にしておいた。
 近くにあったクッションに抱きつき、ベッドに横になった。
「オイオイオイオイ・・・どうした?」
「ん〜・・」
 とかいって寝てしまう俺である。
 昔から、なにかあると兄のベッドに横になるのだ。
「癖だなお前」
 そんなことも聞き流す。これで寝てしまったら、今日は何時間寝ることになるのだろうか。


 何時間たっただろうか。覚えていないが、晩御飯で兄に起こされた。
「オイ・・ご飯。今日起きてから何も食ってないんだろ?晩御飯くらい食べとき」
「うん」
 目をこすりながら、体を起こした。
 晩御飯もあまり口には入っていかなかった。
 ご飯を食べると、すぐに部屋に戻り、ベランダに出た。そして、隣人さんに会いに行く。
「やっほぉ〜十夜。やっぱり来た」
「やっぱりって?」
「いや・・・来るかなぁ〜って待ってた」
「だったらそっちから来ればよかったのに」
「行ったらいなかった」
「あ・・ゴメン」
 十瀬の部屋はきれいで、広かった。昨日は暗くてあまりわからなかったが、男にしては結構広かったし、きれいでもあるってなんだか羨ましかった。
 本当に十瀬と話すのは、面白かった。
 なぜか俺はのんびり出来る場所だった。
 やはり、友達は大切だなぁと、十瀬といるときからいなくなるときに、一番わかるのだ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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