けれど、まだそのときの俺はあまり変わっていない。
家に帰る途中、急に十瀬はこういった。 「なぁ、今日寄り道して行かない?」 そう言って、十瀬は十夜を引張っていった。
暫く歩いて行くと、誰も居ないがきれいな桜並木に覆われたところがあった。 「こんな・・ところに・・・」 余計な寄り道をしない十夜は、こんな場所なんて知らなかった。 「知らなかったの?」 十夜はうんと頷く。 まだ話すことになれたわけではないので、そういう動作で現すしかできなかった。 「ほら・・歩こうよ!きれいだよ」 軽く走って十瀬は、桜の木を見上げるようにてきとうな場所に止まり、子供が始めて見るきれいな桜を見ているように、はしゃいでいた。 十夜はゆっくり歩いて行った。
なんだか十瀬の行動が舞い落ちる桜よりも面白くって、そっちにばっかり笑っていた。
暗くなりかけて、十瀬と一緒に歩いて家まで行った。すると、何か焼肉のにおいが、家の庭辺りからにおう。 「あれ?俺の母さんが春風のところにいる・・・なにやってるんだろう?」 「さぁ?」 十夜も十瀬も、親からはなんも聞いては居なかった。 「お帰り〜」 兄貴が俺に気付いたみたいだった。 「あっれぇ〜?何してるのぉ〜?こんなところで・・・焼肉?」 「そうだよぉ〜ほらッ遅かったから無くなりそうよ」 と、俺の母は言った。けれど、全然肉やら野菜やらが残っているのが目に見えている。 「十瀬君もいっぱい食べなさい」 父さんまでもそう言っている。 もちろん、十瀬の親も来ていて、隣人バーベキュー?けれど、実際食べてみれば、意外とおいしいものだった。 その頃の俺は、そんなに食べるほうではなかったし、焼肉だとか、バーベキューとか言うものも、あまり体験したことが無かったのだ。 いまだにバーベキューと焼肉とジンギスカンの違いがわからない俺だが。
あまり食べなかったが、結構おいしいもので、食べ疲れたのか、立ちつかれたのかはわからないが、とりあえず疲れたので、部屋に戻った。 十瀬はまだ下で食べている。意外と大食いだとそのときに知った。 ベッドにバタリと仰向けに倒れ、天井をじっと見ていた。 何もない天井だが、じっくり見ていると、本当にこの目で今見ているのもが、本当に見えているものなのかが不思議と思う。 じっと見ていれば見ているほど、なんだか、想像にしかないものだとも思う。 もし、十瀬と会ったことが・・もし今が夢ならば、今で良いから冷めてほしい。 こんなにも、いい人生が送れるとは、実際のところありえないのだから。
本当に昔からいいこと無しだった。 なぜかはわからないが、いい事が無かったのだ。 だからこそ、これが幸せだとか、いいとか思うのだろうか。 傷が浅いうちに・・・この夢が覚めてほしい。
そんなことを思っていると、いつの間にか寝ていたのか、目が覚めたときは、もう明るい朝だった。 けれど、いつも起きるときよりも、なんだか早く起きてしまった。 昨日のままだから、焼肉くさい。 朝風呂に入った。 なんだか気持がよくて、また寝そうだったが、次寝たら、いつおきるかわからない・・・それに今は風呂だから寝たらヤバイだろうと、眠くなってきている目に、想いっきりシャワーをぶっ掛けてやった。
風呂にも入ったし、気持がよくなって部屋に戻った。 そして、指定ジャージに着替え、カバンを持って外に出た。すると、最早十瀬が居た。 なぜこんなに早いのだろうかと考えながらも、テクテク学校に向かっていた。
何時間目だっただろうか、暑いせいなのか、かなりだるくなってきていた。モワンモワンと頭の中が鳴ったり、回ったりしていて、気持悪い。 頭を押さえながら、授業を受けた。あまり記憶に残ってないが、それは確か、四時間目くらいのような気もする。 もう少しがんばれば、昼ごはんが食べれるのだ。 今更だが、今日の朝は、何も食べてきていなかった。 けれど、昼もお腹が空いていない。こんなんで本当に大丈夫なのかと、この先が不安になってきていた。 「どうかしたの?」 いつの間にか授業は終わっていたらしい。 何か異変に気付いていたのだろうか、十瀬はかなり不安そうに見ていた。 十夜は首を横に振った。すると、ズキッと頭が鳴る。 気付かれないように、全然平気な顔をしていた。けれど、何かまだ不安そうな顔をする十瀬がいた。 「あんま・・・・無理しないでね?」 うんと頷く。 あまり今は声を発したくは無かった。
あ
一つある事を思い出した。 昼ごはんが食べれないとかそういう以前に、お弁当を忘れてきたという(ここの学校は給食無し)ことを今思い出した。 すぐに出てきたので、そんなことも忘れていたのだ。 「一緒に弁当食べようよ十夜」 そのことを思い出しながら、十夜は横に首を振った。 「えぇ〜なんかあるの?」 また首を横に振る。 「もしかしてもう・・・俺が・・嫌に?」 もっと首を横に振る。振るごとに頭がズキズキ言う。 「本当にどうかしたの?」 ゆっくり首を横に振り、にっこり笑って教室を出て行った。十瀬を置いて。 「なぁ十瀬!あんな奴置いといて、一緒に食べようぜ?」 と、隣の席の奴が言ってきた。 「う・・うん」 十瀬は、十夜のことを考えながら、ゆっくりうなずいていた。
屋上に出て、ずっと風に当たっていた。 春の風が涼しく、気持がよかった。
なんだか眠たくなり、座って壁によしかかり、目を閉じた。
気が着いたら、もう夕方近くになっていた。 それまで寝ていたのだから、誰も着ていなく、もし来ていても、起こしてくれなかったということだ。 急いで教室に走った。 すると、こっちでも眠ってる人がたった一人。
「十瀬・・」
そう。まだ十瀬が残っていたのだ。 窓が開いていて、風が入ってきていた。 さすがに寒いだろうと、十夜は自分の上のジャージを脱ぎ、かけてやった。 きっとこの衝撃では起きないと思う。カバンを持って、帰ろうかどうか迷っていたが、結局帰らないでやめた。
外を眺めるよう。
窓の開いたと所によしかかり、すぐ見えるグランドを見ていた。 野球部が一生懸命なのかどうかはわからないが、練習をしているところが見える。夕日を背中に、走っている人も居た。きっと陸上部だろか。 こうしてみると、なんだか面白い。 なぜ面白いのか?と聞かれれば、どうも言いようが無いが、なぜかいい気分になったのだ。 「あ・・・れ?だれ?は・・・るかぜ?」 十夜はゆっくり振り向いた。 「起きたんだ・・・・帰ろうか?」 「うん。あれ?かけてくれたの?」 「おぅ。寒そうだったから」 「ありがとう・・」 何か驚いたようにこっちを見ていた。なぜかはなんとなく勘付く。 「じゃあ、ずっとこれ着てよ」 「え!返してよ」 「イヤッあ・・・なら俺のを貸すよ」 「なんじゃそりゃ」 そう言って、渡されたのを着てみると、チョット大きい。 中学生だからか、今が育ち盛りな十瀬だったのだ。 「そういえば・・・十瀬・・もう背・・高くなったよな・・」 「そうかなぁ〜?春風が縮んだんじゃない?」 「まじ?」 と、チョット自分の身体をそうか元か思いながら、見回して見てみた。 「嘘だって」 クスクス笑いながら十瀬は言っていた。面白くって、俺まで笑っていた気がする。それからだろうか、俺がなんとなく変わり始めているような気がするのは。
なんだかんだ言いながら、家に帰っていった。 夜、ベッドの中に入り、また天井を見つめていた。 何か考え事をしているのだ。 「俺・・・なんか今日変だ」 急に言葉がそういった。 実際はそのときの俺は、そんなこと考えて居なかったのに、口が勝手にしゃべった。ということは、どこかで考えているってことなのだろうか。 今日は最後のほう、たくさん話した。たくさん言葉を発した。
なぜこんなに話せたのだろうか。
なぜこんなにも、桜の季節で悩まないといけないのだろうか。
なぜこんなに、十瀬のことが友達と確定されてしまっているのか。
俺には、すべてわかっているのかもしれない。 けれど、いまだに俺が言ったことを実行されている。 それは、名前で呼ぶ名とかいったときから、ずっとみよじで呼ばれているのだ。 自分から言ったほうがいいのか、言ってくれるのを待つべきなのか。 解決できないままでいるのは、なんだか嫌だった。 軽く着替えてベッドから出て、ベランダに出た。そして、隣のベランダに移る。隣は、丁度十瀬の部屋だった。 窓をノックした。
カーテンで閉められているため、なんだかチョット緊張する。ゆっくりカーテンは開かれた。
十瀬
良かったと、かなり安心してた。 ガラガラッと窓は開いた。 「どうしたの?こんな夜中に。入りな」 と、入れてくれた。 「お邪魔します」 「どうした?来てくれるなんてメッチャ嬉しいよ」 と、ニコニコしていた。 そんなに嬉しいものなのかと、かなり不安に思った。 「一緒にベッドに入ろうよぉ〜そしてはなそ?」 「まじで?きつくね?」 「大丈夫だって」 考えもなしに言われ、引っ張り出された。男2人が一つのベッドに寝るって・・なんか変で嫌だが。 「で?どうしたん?」 「なんか・・かなり考え事してた」 「考え事?」 「うん。いつまで俺の事・・春風って呼ぶ気かな?って。最初の頃は嫌だった。あ・・・ううん。やっぱ良いや。じゃあ、部屋戻るね」 といって、パッパと自分の部屋に戻っていった。 「たまに来いよ?」 「おぅ・・・お休み」 といって、自分の部屋の窓を閉めた。 ベッドに戻りこんでこう思った。
チョット早まりすぎた
たまに考えなしに行動すると気が、よくある。といっても、中学入ってからはそれは無かった。なぜだろうか、十瀬といると、何か乱れて嫌だった。
次の日。丁度学校が休みで、のんびり寝ていた。 結局目が覚めた時間は、午後一時。それまでずっと寝ていたのだ。きっと、時々目は覚めたような気がしたが、何度寝かしたと思う。 てきとうに家を歩き回っていた。(きちんと着替えました) 適当に入った部屋が兄貴の部屋だった。そして、いつの間にかベッドに座っていた。兄貴は机に向かって勉強家何かをしていた。 「どうしたんだ?珍しいじゃないかお前がこんなところに来るなんて」 「そう?」 「あぁ。それにお前良くなったよ」 「は?」 急に言い出すその言葉に、その俺はよく理解できていなかった。 「話すようにもなったって事」 無言にしておいた。 近くにあったクッションに抱きつき、ベッドに横になった。 「オイオイオイオイ・・・どうした?」 「ん〜・・」 とかいって寝てしまう俺である。 昔から、なにかあると兄のベッドに横になるのだ。 「癖だなお前」 そんなことも聞き流す。これで寝てしまったら、今日は何時間寝ることになるのだろうか。
何時間たっただろうか。覚えていないが、晩御飯で兄に起こされた。 「オイ・・ご飯。今日起きてから何も食ってないんだろ?晩御飯くらい食べとき」 「うん」 目をこすりながら、体を起こした。 晩御飯もあまり口には入っていかなかった。 ご飯を食べると、すぐに部屋に戻り、ベランダに出た。そして、隣人さんに会いに行く。 「やっほぉ〜十夜。やっぱり来た」 「やっぱりって?」 「いや・・・来るかなぁ〜って待ってた」 「だったらそっちから来ればよかったのに」 「行ったらいなかった」 「あ・・ゴメン」 十瀬の部屋はきれいで、広かった。昨日は暗くてあまりわからなかったが、男にしては結構広かったし、きれいでもあるってなんだか羨ましかった。 本当に十瀬と話すのは、面白かった。 なぜか俺はのんびり出来る場所だった。 やはり、友達は大切だなぁと、十瀬といるときからいなくなるときに、一番わかるのだ。
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