涼しい
自分の部屋から出たベランダで、風に当たっていた。 その日。そのしたの左のほうでは、誰か越してきたみたいに、ザワザワしていた。
誰か来たのかな?
俺にとってそれは嫌だった。 今まで空家(あきや)だった隣の家は、昔俺の大好きな子が住んでいた。 急に中学に入って転校し、どこかへ消えて行ってしまった大好きな子・ けれど、その時は、それでよかったと思っていた。変な未練が残らなくて。 だからといって、人がその家に住むのは、なんとなく許せなかった。
ふと目に入った子が居た。
同い年くらいの男の子だった。 そいつがこっちに向いて、急ににっこり笑い、手を振ってきた。そんなやつがだいっ嫌いな俺は、そのときフイッと顔をずらして、空をゆっくり見上げたのだ。
次の日 友達のいない俺は、のんびりと朝からベランダに出ていた。 確か明日から新学期が始まり、中学二年生になる。 昨日の事をすっかり忘れていた俺は、何もなかったかのように風に当たっていた。 「昨日の・・・おはよう。早いんだね」 急に話をかけられた。フッとそっちを向いた。 かけられたほうは、左・・・・隣の空家だったところだった。 すぐ隣の部屋だ。 俺はまた、フイッと目線をずらした。 「何で〜ずるいなぁ〜挨拶してるのに」 俺は一回部屋に戻ろうかとした足を戻し、そいつのほうを向いた。 「誰だよ」 その時はまだ話すのが苦手だった。そういう、ちょいときつい言葉しか知らなかったから。 今思って見れば、本当に誤りたいくらいだ。けれど、その頃は仕方ない。と思いたい。 「俺は隣に越してきた、美馬(みま)十(とお)瀬(せ)。よろしく」 あまりにも近いからか、握手を求めてきていた。けれど、俺は友達を作る気なんてサラサラなかった。 「ま・・・・隣人ってことでな」 それだけ言って、俺は握手もしないで部屋に入っていった。 入って思い出した。 自分の名前を言っていない。
「ま・・いいか」 大雑把な俺だから、どうせどこかで聞いてくるだろうとか思っていた。
けれど次の日。 新学期として学校に行った。 入学式を終えた後、二年生になってからの豊富をやると先生は何か、ルンルンと言っていた。何かが引っかかっていた俺である。
教室に入って、皆ザワザワしていた。確か、朝来たときもザワザワしていたが、興味の無い俺は、自分の席に座って、のんびり窓の外を眺めていた。 「ほらぁ〜席に着け」 先生がニヤニヤしながら入って来た。 「さぁて今日は転校生を紹介しよう」 クラス皆は、それを聞いたすぐにざわめいた。けれど、俺だけは寒気しかしていなかった。 ガラガラっと教室のドアは開き、男の子が入って来た。俺は横目で見るだけだった。寒気で首すら動かす気になれない。 「おはようございます。今日から一緒させてもらう、美馬十瀬です。よろしくお願いします」 すぐに窓の外に目線を戻した。 変に反応されるのは嫌だったからだ。それに、キチンとした顔まで、向こうは覚えていないだろう。 俺は軽くそう思うだけだった。 「よし。なら席は・・・春風の後ろで良いだろう」 俺はビクリとした。 春風とは、俺のみよじだ。 焦りを隠しながら、窓のほうを見て顔を隠す。後ろの席に座ると、俺は前を向いた。
昼休み。俺はチョット警戒しながら、屋上に走って行った。なんとなく、下手したら突っかかってきそうでなんだか怖かった。 屋上に向かうと、すぐに弁当を食べた。 風に当たりながらお弁当を食べるのは、気持がよく、いつも屋上で食べるのだ。 春は、少々寒いという人が多く、なかなか屋上に来る人は居ない。だから、ほとんどか仕切り状態で今日までは気分は良かった。 「あれぇ〜?やっぱり隣人さん?」 ドアが開き、テクテク近づいてきたのは、十瀬だった。 「ねぇ、春風十夜さん?」 「なんで?」 「え?」 「知ってんの?」 「何で知ってるって、そりゃさっき隣の席の・・・確か・・・・飯島美恵さんから教えてくれた。というか聞いた。」
そりゃそうだろうな。
考えても見れば、どうせクラスが同じになってしまった今、名前を知られないように居るのは、先ず無理だ。 「ねぇ十夜」 「呼び捨てかよ」 ボソリとつぶやいてしまった。 そういうつもりではなかった。 不器用な十夜は、思ってもいないことをズバッといってしまうのだ。 話すことになれていないのは、なぜなのだろうかとも考えたことがある。けれど、結局見付からずだ。 「あ・・・呼び捨てダメだった?」 「・・」 何も言うことがなかった。 立って食べていたのを、足が疲れてきたので十夜が座ると、その隣に十瀬は座った。 静かにしてくれる。けれど、何か落ち着かない。 こんなに人と接近したことは無い。といっても、ただ隣に座られているだけなのだが、何か怖いというのか。
数分間。何も話さなかった、この空間が益々怖くなってきた。 立ち上がり、急いで教室に戻ろうと考えていた。実行させようと、立ち上がろうとした瞬間。服をピッとつかまれた。 「少し話そう?」 何か嫌と言いたかったが、話を聞くくらいは・・と軽く考えてしまった。 「聞くくらいなら」 「何で話してくれないの?」 即行聞かれた。 あまり聞かれたくないし、聞かれたことが無いから、どう答えようか迷う。 「口数少ないと、周りから嫌われるよ?」 「もう嫌われている」 ズバッといってやった。 そう。もう嫌われていることだから、どうでもいい。今から好まれようなんざ、無理に決まっている。そんな決まっていることを、変えようとも思わない。 元々ここの中学は、小学から一緒の人が多い。けれど、十夜は遠い小学から来たからというか、引越しってきたから、知らない人ばかりで接しにくいのだ。 こう考えてみると、それから口数が少なくなったのかもしれない。 小学の頃は、口数も少ないわけではないが、中学入ってきてから、口数が一気に減った。 「まだ嫌われてないと思うけどなぁ〜俺も居るし」 十瀬はにっこり笑って俺を見ていた。俺はなんだか、口も動かないし、なんだか身体も思い通りには動けなかった。だからか俺は、急いで立ち上がって、走って教室に戻っていった。
放課後。 部活動に入っていない十夜は、パッパと教室を出て行った。 「あ・・待って!」 後ろから十瀬が走って追ってきたのがわかった。 「ねえ、春風は部活入ってる?」 俺は立ち止まり、ゆっくり首を横に振った。 「へぇ〜なら俺も入らないどこ」 そうにっこり笑って言っていた。 「ねぇ、これから一緒に登下校しない?」 「別に良いけど」 それだけ言って、すぐに玄関に向かって行った。 送れないように、十瀬も着いてきていた。 「何でそんなに冷たいんだよぉ〜・・・まぁいいか。なら俺がいっぱい話しちゃうからね」 何も言わないで十夜は、家に帰る道をのんびり歩く。その隣に、ハイテンションな十瀬が歩いていた。 やっぱり一人で話していた。
家の前に着くと、十瀬がこんなことを急に言い出した。 「ねぇ、後から春風のところに行っていい」 「え?」 かなり急で、どう答えようか迷った。 「いい?」 かなりキラキラした目でこっちに願ってくる十瀬を見ていると、断りようにもかなり断れない。 ゆっくり首を縦に振った。というか、そうするしか考えが思いつかなかったかもしれない。 「やったぁ!カバン置いたらすぐ行くね!」 と、パッパと走って家に入っていってしまった。 何か怖いと察し、十夜も急いで家に入り、部屋に走っていった。
軽く部屋を片付けると、何か見られていたのかというように、呼び鈴が鳴った。 二階に居るのですぐに出れなく、なぜかもう帰ってきている兄が出た。 「あ・・・十夜?二階に居るよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・十夜友達らしき人来たぞ」 そういわれて、急いで階段を降りていった。すると、本当に十瀬は来ていて、チョットびっくりだった。 リビングに入れ、軽くジュースを準備した。 「うわぁ〜ひっろ〜いね〜春風の家は」 なんだかジロジロと家を見られているみたいで、何か嫌だった。 「ハイ飲み物」 「ありがとぉ〜なぁ、俺春風の部屋に入ってみたい」 十夜の体内時計が暫く止まった。 「おぉ〜い・・・」 「やだ。入れない」 「単語・・・えぇ〜・・入りたい〜」 「じゃあ、大分今度ね」 「遠まわしだなぁ〜」 「ハハハッまぁまぁ」 ついつい笑ってしまった。 十瀬は本当に面白い奴だ。 「あ・・・」 「なに?」 急に不思議な一文字を発した十瀬に、チョット驚く十夜。 「あ・・・いや・・なんでもない」 そう言って、にっこり笑っていた。
次の日。気付けばベランダに十瀬は居た。 ベッドから降りて、ベランダのドアを開けた。 「どうした?」 「いや・・丁度となりだから・・起こしにでもって思ったら鍵閉まってて・・・」 と、アハハハハァと笑っていた。 「プッ・・・・おま・・・あったりまえだろ」 思わず吹き出してしまった十夜。面白くて、腹を抱えて笑ってしまった。すると、いつの間にやら十瀬まで笑っていた。 けれど、こんなにも笑ったのはここ何年ぶりだろうか。というか、生まれて初めてかもしれない。そのせいで、本当にお腹が痛くなってきてしまった。 「じゃあ、また後でな」 「おぅ」 そう言って、十瀬は戻って行った。
こんな数日で、こんなにも俺が変わるとは思っていなかった。 今思ってみれば、話さなかった頃の自分が、自分ではないみたいだ。 何か・・・・何かが俺を震わせていたのだ。きっと、助けてくれたのは、十瀬なのだろうか。
春
何か新しいことが始まる
そして今が、それを教えてくれると気が来る
変わる時期は、今しかない
まっすぐ今を見て・・いや、しっかりとまっすぐ前を見て行こう
きっと輝ける日々が待っている
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