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神様の不平等 作者:米沢涼

第3回   カット
 バンッ!
 枡は真剣な顔で、稔の机を両手で叩いた。かなり体重が乗っていて、いい音が鳴った。
「なぁ、一昨日一緒にいた男誰だよ」
 急なことで空気が読めないだろう。今は次の日の学校。家から学校までの間、黙々と何かを考え込んでいた枡が、教室に入って少しすると、急に怒鳴りだしたのだ。
「一昨日?」
「あぁ・・なんか柄の悪そうな男と一緒に」
「あぁ〜あれか」
 きっとその柄の悪そうな男というのは、緋月のことだろう。というか、緋月しか居ない。
「知り合いなのか?」
「うん。知り合いだよ」
 いちお知り合いということにしておけば、どうにかなると思う。
「どういう関係なんだ?」
「あの時たまたま、昔遊んでいたどっかのお兄ちゃん。良くしてくれたから色々また遊んでたんよ」
「そうなのか・・・悪い大声出して」
「いや?心配してくれたんだなぁ〜って嬉しいよ」
「う〜お前はかわいい」
 と、枡は稔の頭をクシャクシャにした。
 何とか逃げ切れたものの、いつ本当のことがばれるか心配だった。本当のことを言うべきか、言わないべきか。

 恐々としていたその日は終わり、家に帰った。今日はそのままたまり場には行かなかった。下手したら、見つかる可能性がある。

 その夜たまたま枡は外を出歩いた。急になくなったものを母に買って来いと頼まれたのだ。
 いやいやと家を出て行き、用を済ませた枡は、家に帰ろうとしていたところだ。近道をしようと、丁度たまり場の近くを通った。不意にそこから出てきたのは、緋月だった。それに驚いた枡。一止まりし、目と目を見つめ合う。
「何だお前。何でこんなところに居るこんな時間に」
 へんなことを聞かれぬよう、緋月は枡に向かっていった。
「はぁ〜・・・あの・・あなたは確か稔と知り合い?の?」
「え?あぁそうだが・・稔の友達かい?」
 さすがの緋月でも、かなり心臓がどきどきしている。冷や汗も出ているようだ。逆に、枡のほうはチョッと親近感を持ちたいらしく、色々話してきた。
「けど、何でこんなところから?」
「え?あ、チョッとな」
 とアハハハハ〜と頭をかきながら言った。本当は頭なんか痒くない。その場でチョッと話して、緋月は用事があると、すぐにどこかに消えて行った。
「怪しい」
 深々と考え込む枡。全く緋月のことが信じきれないのだ。なぜ信じきれないのかもわからないが、とりあえず、暫くの間様子を見ることにした。

 カバンをあさり、明日の準備をする稔。すると、ある一枚の紙を見つけた。それは、授業参観だった。
 授業参観で、今まで父親が来たことは、一切ないわけではない。紙を出せば、来てくれた。なんだか、そう思うと嬉しくなり、すぐに父の部屋へと向かい、テーブルの上にその紙を置いておいた。読むかどうかはわからないが、来てくれる可能性はある。
 なんだかんだいって、結局稔は父の側にいたいのだ。

 次の日。枡からの言葉を聞いた。
「昨日お前言ってたやつに会った。」
「どこで?」
 焦らず冷静な態度をとろうと、必死だった。
「ちょっとした裏で。何やってる人なの?」
「さぁ〜?よくわかんない」
「ふぅ〜ん」
 悪をやってる人なんて、言えるわけがなかった。
 そして、その放課後。緋月とメルをしながら歩いていった。なんとなく下を見てみても、慣れている道だからか、別にぶつかることはなかった。
 家に帰ると、ポケーッと天井を見つめながらベッドにねっころがった。きっと、自分が女だったら、枡か緋月に惚れてたんだろうなとかおもっていた。
 そのままふと寝てしまっていた。気付いたら次の日になっていた。丁度学校が休みで、もうポケーッとしていた。この前四時間しか寝てないせいか、かなり長い時間寝てしまっていた。
 起きたのは何時だろうか・・昼過ぎだということもわかるし、なんだか外が薄暗いというのもわかった。おきた理由は、緋月からのメルだ。
 時計は見ないで、そのままメルをみた。
「オイ今何してるんだよぉ〜 暇だったらこっち遊びに来いよ」
 という誘いメールだ。まぁ暇だしと思いながら、返信する。
「今どこにいるの?」
 と送った。さすがの緋月。メルに離れてるのか、数秒待っただけで帰ってきた。
「○○の喫茶店の裏をまっすぐ行った場所」
「気が向いたらいく」
 とメルをした。なんだか、このやりとりは、どこかの仲の良い人たちみたいだ。
 気が向いたらといったが、いつの間にか稔は着替えていた。着替えたならば、行かなくちゃダメなのだろうかと、のほほんと考えていた。てきとうに財布をポケットに突っ込み、帽子をかぶっていく。なにかあったらのために、動きやすい靴を履いていった。 何もないと思うのだが。

 言われたところに向かった。すると、本当に喫茶店の裏にまで、裏道があるのだと、初めて知った。この前散歩したときにも、この喫茶店の近くを通ったはずなのだが、気付かなかった。
「あ・・本当に居た」
「居ちゃダメなのか?というお前も、本当にきたんだな」
「まぁまぁそんな話は後、今日はパァッと行きましょう!」
 と宥(ひろ)が言った。緋月は、そうそうといいながら、両手に飲み物を持った。
「ほらお前の分。絶対にくると思って、用意しといた」
 一つのジュースを差し出してくれた。それをそっと受け取ると、すぐに克哉(かつや)が立ち上がり、自分の持っていたジュースを片手に、斜め上に上げた。何をするかといったら、急にこんな大声を出した。
「よし!とりあえずカンパーイ!」
 そんなに大声を出すと、誰かにばれるのでは?というような大声で、克哉は容赦なく声を出した。それにあわせて、皆声を合わせて、乾杯といった。
 すると、なんだか奥のほうで、軽く物音がした。それを察知した、身軽そうだけど、背は高い男の人が言った。
「ヤバイ、誰か来た早く片せ!」
 とスッと言った。それを聞き取り、皆はジュースを一気飲みし、巻き散らばした飲み食い物を、一つにまとめ、動けるように準備した。稔も遅れを取らないよう、一気飲みした。そのコップを緋月は取り上げ、大きなバックに投げた。その中に、いっぱい食べ物などが入っていた。
「誰だ」
 物音が下方向から来たのは、一人の警察官だった。稔は帽子を深くかぶり、顔が見えないようにした。すると、いつの間にかみんなまで、サングラスや帽子をつけていた。
 まぶしい光を当てられて、ドンドン近づいてきていた。すると、ドンドンこちらの人数がなぜだか減っていた。
「稔」
 ボソッと緋月に言われ、振り向いたとき、すぐに手を引張られた。と思ったら、なんだか行き止まりだった壁にむかって、稔を投げつけた。すると、その壁を越えた。何が起きたのか理解されていない稔でも、投げ捨てられて、キャッチされたと思えば、その壁から緋月がひょこりと顔を出したと、あいまいで簡単な解決していただけだ。
 考えている暇なく、宥に引張られていった。
 軽い動きやすい靴を履いてきて、正解だったのだろうか。暫く走ると、また誰も居なさそうな場所に着いた。
 なぜそういう場所を知っているのかが不思議だ。それに、さっきばれたのは、たぶん乾杯のせいでは?と思っているうちに、なにやらまたお菓子などを、広げ始めたのだ。
 そして、また克哉が立ち上がり、次は小さい声で「かんぱーい」と一言「かんぱーい!」と皆声を合わせていった。
 後は、誰にも見つからないで過ごせた。
 結局今は何時かと聞いたら、今はまだ十一時だった。だからか、こんなに暗いのは。

 家に帰ったのは、朝の一時。その時間に帰ったのが悪かったのだ。

 家にいたのは、父だった。疲れたような様子で、リビングに居た。パチパチと何をしているのかと思えば、パソコンに向かい残った仕事をやっていた。
 こっそりそこを通ったとき、気づかれないはずだったのだが、急に声をかけられた。
「稔」
 ビクッと身体がびくつく。ゆっくり父のほうを見ると、何でかこっちをみていた。いつ気付いたのかが不思議だったが、とりあえず、そちらに近づいていった。
 「今何時だと思ってるんだ。最近帰ってくるのが遅いじゃないか。この前は何時だと思ってる?」
「・・・」
 迫力負けして何も言い返せなかった。
「3時だったよな!この前は、今日は1時か・・何をやっているんだ!」
 言ってはいけないことと、迫力で口が開かないという、未熟さだ。
「確かにテストの点はいいがな、それまでの行いが悪ければ、次どうなるかだってわかっちゃいないだろ?」
 テストの点は、かなりの上位。というか、学年トップなのだ。これでも。けれど、そんなに夜遅くにしていたら、確かに親も怒るもんは怒る。
「だって・・・少しは遊んだっていいじゃん!いつもかッツも親の言いなりばかり聞いていられないよ!少しは遊んだりしたいよ!」
 やっと口を開けたと思ったら、あまりここにも思っていないことを言ってしまった。そして、すぐに走って二階に上がって行った。部屋の電気はつけないで、ベッドにねっころがった。ふと机に目が行った。その中でも、一番に目に付いたものがある。
 カッター
 月の光だけが差し込む部屋に、たった一つだけ反射するものがあった。刃物で何が出来る。何かを傷つけたい。
 物はダメ動物もダメ。といっても、動物なんて飼っちゃいない。目の前に出てきたものは、そう自分の手首だった。
自分の左手首を、逆の手でなぞってみた。すると、身体のどこかから、ゾクゾクという何かに襲われた。なんだか、きもちいいというか、ちょっとこそばいというか。
 カッターの刃をカチカチっと、少し出した。そして、力を入れてそのなぞったところを、ゆっくりきっていった。いわばリストカッター。なんだか、言葉を聞いていたが、馬鹿馬鹿しいとも思わなかった。昔は。なんだか、やられるのは自分なんだから、自分がいいならそれでいいんじゃない?
 という、不思議な思考がある稔には、何の抵抗もなかった。
 しかも、そのゆっくり切っていくところは、なんだか痒かった。そして、カッターをてきとうに置き、切った右手首を見てみた。すると、ジワジワと血が流れてきた。その流れるところが、これまた痒かった。
 想像では、痛くて倒れそうだと思っていたが、リストカットじゃ、そうにはならなかった。それだけなのか、ただ甘かっただけなのかどっちかだ。
 実際のところは、なんだかリストカットになぜかはまりそうな勢いだった。気持ち良いのだ。スッキリするというよりも、ゾクゾク感がたまらない。
 軽くティッシュでふき取ると、そのまま着替えて寝た。血が服についているような感覚はするが、とりあえずは眠たくて、そのまま寝た。
 次の日。また遅くまで寝てしまっていた。昼一時。丁度ではないが、その辺におきた。そして、昨日切った右手首を見てみた。
 服には血がついており、なんだか冷たい感覚がする。手首はかさぶたになるチョッと前くらいの状態だ。ちょっぴり赤く、今にでも血が出そうだ。
 血が出ていないということで、とりあえず服を着替えて、血に染まった服を洗濯機の中に突っ込んだ。そして、ガーッとまわす。
 むなしく洗濯機の音がなる。その音を聞きながら、昼食を食べる。そして、たまたま目に入る右手首をちらりと見た。本当に今にでもタラリと血が出てきそうだ。
 食べ終わると、片付けて部屋にこもった。やることがないから、とりあえず机に向かって暇な勉強というものをしていた。

 その一日はずっと勉強して、パン食べてで終わった。やることがないし、近くに友達がいないという欠点の中、黙々と勉強をしても、あまり勉強にはならないような気もする。
 暗くなると、すぐに寝た。やることが無いと、暇すぎてダメだ。緋月や枡にあってから、暇に耐え切れない身体になっていた。
 今までは、こんなひまくさいの慣れていたはずなのに、今になってはもうこれだ。こういうのが嫌で、友達を作らなかった気がする。

 次の日は学校で、すぐに起きて準備し、早く家を出た。
 早く家を出たつもりなのだが、なぜかそこには枡がいた。
「やぁ、早いね」
「そっちこそ。どうしたの?こんなに早く」
「家にいても暇だったからさ、ちょっと早く着てみたってわけ」
「そうか。」
「だめだった?」
「別にダメじゃないよ」
 といって、学校に向かった。なんだか、学校が久し振りのような気もするが、気のせいとしておきたい。
なんだかんだ言っていたが、学校が一番落ち着く場所だった。
 午後からの授業は、体育だった。皆体育館に向かった。
 体育館の中は、モワンモワンと蒸し暑く、皆半そでになった。稔藻なりたかったが、少しばかり抵抗があった。それは、右手首だった。最初は、そんなところ誰も見ないよなって思い、脱ごうかと思ったが、すぐそこに先生がいた。
 先生たちは、そういうのにうるさいと聞いたし、なんだか嫌な気分になってきた。けれど、こんな蒸し暑い中、ジャージ着ていたら、蒸し殺しされそうだ。
 仕方なくと、稔はジャージを脱いだ。本当に仕方なくだった。
 授業が終わり、皆が体育館から出て行ったとき、稔は先生にとめられた。
「チョッと話があるのだが・・」
「はぁ〜・・」
 言われたとおり、付いていった。そこは、相談室という微妙な部屋だった。
 その場所はじゅうたんで、少し生暖かく、ソファーがあった。
「なにか?」
 と聞くと、すぐにドアの鍵を閉めた。
「チョッと聞きたいのだが、右手を出してもらえないかい?」
「はぁ〜」
 バレルの早いな
 心の中で、軽くため息をついた。
 言われたとおり右手を出した。すると、ジャージの袖をまくられた。切った生々しい傷が顔を出す。
「これはどういうことだ?」
「いろんなところで言われているリスとカットっていう奴ですよ」
「わかっている!なぜこんなことをしたのかと聞いている」
 多少怒鳴るように言った。
「ストレスたまって。切るものがなかったから目の前にあるものを切ってみた」
「それが腕だったわけか?」
「はい」
 嘘なく言った。元々、他人を傷つけたり、物を壊すという行為が嫌いな稔には、そんなことが出来ない。
「家でなにかあったのか?」
「何にも」
「なら何に不安があるんだ?」
「色々ってことですよ。大人って言うのは本当に、必要ないことに首をつっこんで、必要なときに限って、何も見ていない不利をする。それが一番嫌いなんですよ」
 といって、すぐにその部屋相談室を出て行った。
 こんなところに閉じ込められていると、酸欠で倒れそうだ。
 けれど、すべてにおいて本当のことを言ったまでだ。
 必要なときに限ってみていない不利をし、必要ないときには、首を余計に突っ込んでくる。空気を読めとよく大人が言うが、その大人が空気を読めていなかったら、意味がない。
 子供というのは、親や大人のことを良く見ていて、けれど、親は子供の事をよく知らないでおいて、ああだこうだ言う。子供にとって、それが一番のストレスの原因だた。
 
 結局家に帰ってきた後は、やっぱりやることがない。暇でしょうがなく、机に向かうしか用がなかった。それだからか、いつの間にか点数が良いのは。
 今まで起きた事件を頭の中で整理した。
 まず一に、母と父が離婚。 第二に、枡との出会い 第三に、枡の家で。 第四に緋月との出会い。そして、第四にリストカット。
 意外とすごいことをやっていたのだなぁ〜と感心する稔。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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