いつも一緒にいる兄貴。僕が生まれたときから、ずっと遊び相手をしてくれた兄貴。けれど、その存在が急に途切れたとき、僕は何かの力を求めていた。
中学一年生。今は父と一緒に暮らしていた。二人っきりといいたいが、ほとんど一人っきりだ。父は仕事で、ほとんど帰ってこなく、帰ってきたときには、なんかお土産やらを買ってきてくれる。 兄弟はというと、大分昔に、離婚してバラバラになってしまった。元々は、兄貴と姉貴が居た。それに、弟も居て、四人兄弟だった。姉はもう自立し、どこかに働いていき、そこで一人暮らしをはじめているらしい。 兄貴も、寮過ごしを始めたらしく、今母の基に居るのは、弟の智也(ともや)くらいだった。 今日だって、雨の中、たった一人で公園に来ている。もう中学生だというのに、なんだか公園が懐かしいのだ。 傘も差さずに、僕はずっとぬれていた。雨は何もかもを悲しくし、何もかもを流してくれて大好きだ。そんな僕、相沢稔(あいざわ とし)
そんな日も、誰も待つはずの無い家へと帰っていって。一回、兄貴が高校を卒業すると、一緒に暮らすのを考えたのだが、そしたら、ただでさえ悲しい家が、余計悲しくなる。父だって、めったに帰ってこない分、どこかに泊まっている。 着替えずに、ぬれたままポケーッとしていた。座っているソファーは、なんだか、自分の雨でポタポタぬれてきた。 入学して、何ヶ月だろうか。もうそろそろ学校になれて気もていいころだ。けれど、本当になれるのが苦手と、人見知りの激しさに友達なんてひとりもいなかった。それに、居る必要も無いと考えている。 何もかも変わってしまったのは、あの離婚の話しが始まった後からだった。 そう、あの離婚の話は、稔にとってすべてが変わる重大に話だった。 昔は、よく兄貴の智晴(ともはる)と一緒に、川原へ行ったりして、いっぱい話していた。けれど、父と母との間に問題が大きく変わり、かなりの問題は家族をもおかしくするものだ。 「もうこんなやつとは離婚してやる」 そう言い出したのは、父のほうからだった。そのころの稔は、育ち盛りの小学三年生だった。ついでに兄貴は小学六年生。姉の晴(はる)は中学二年生だった。弟は、まだ小学に入ったばかりだ。 それから兄貴は、父の元に行き、姉と弟は母のほうへと行った。姉はいい男を探し出したのか、そっちの男のほうに行き、本当に帰ってこなくなった。兄貴は、高校を寮生活し始めた。 なんだかんだで、僕の家族は自分勝手なのだ。 親は子供の事を一切わかっておらず、子供の考えと大人の考えが交差し、なかなか張り合わない。腹を立てては、何かということを聞いてしまう子供は、なんだか気分が悪くなり、家でも考えてしまう年頃だろう。中学一年生といえば。
「いってきます」 学校に向かうときは、いつも言っている。けれど、誰も迎えてくれる人は居ない。たった一人で家を出て、たった一人で学校に向かい、そしてたった一人で学校の日々を過ごす。 今日もまた、一時間目が始まろうとしていた。 「ねぇ、確か・・・」 「あいざわ」 「そうそう。相沢稔君だよね?」 いきなり話をかけてきたのは、前の席に居る確か藤田枡(ふじた ます)だったはず。こいつは、人懐っこく、いろんな友達が多く見られる。 「なぁ、お前って友達居るんだろ?いつも何話してるん?」 「居ないよ」 「え?」 ボソッと言う稔のことばが聞きとれずに、聞き返した。 「居ないよ。友達なんか」 「そうなんだ。なら、僕と友達になろうよ。損はさせないよ」 損はさせないといわれても、枡とは一回も話したことが無いのに・・何かの罰ゲームだろうかと、かなり不幸な方向を考えていた。 「別にいいけど、いつまで持つかだね」 「大丈夫だよ」 と、かなり自信満々だ。そう言っている間に一時間目が始まった。 実際のところ、このクラスには、稔の居場所なんて無いようなものだ。
とりあえず、午前中は終わり。弁当を机の上に置いた。すると、枡は後ろを向いてきた。 「いい?一緒して」 「いいけど」 そう攻めてくるか 地味に、何かを隠しているような気のする枡を、稔はまだ信じきれていないのだ。 いろんな話をしてきた。こいつ(枡)の話は、思ったより面白く、たまに軽くだが、笑ってしまうときもある。
放課後も、一緒に帰ろうと言い出した。よく考えてみれば、方向は確かに同じだった。 「別にいいけど」 なんだか、そのことばが稔にとって、口癖になりそうだ。今日で確か二回目だったはずだ。 歩いてるときでも、枡は良くしゃべる。話題とかが、豊富にあるやつって、こういうときには、かなり武器になりそうだ。 「じゃあ俺ここ」 丁度、歩いているともう家についてしまった。なんだか、いつもより数分早くついている気がする。やっぱりこいつのせいなのだろうか。 「ねぇ、今日チョッと寄り道。遊んでっていい?」 「別にいいけど」 三回目。なぜ自分で数えているのかも、チョッと不思議な稔だった。 「うわぁ〜広いね」 「そうでもないと思うけど」 「親は?」 「仕事」 「兄弟居るの?」 「居る。と思う」 一回居るで止まってしまった。なんだか、自分でも良くわからない質問をされたのだ。 「思うって?」 「そういうお前は居るの?」 「お前って・・・ひどいなぁ〜俺には枡と言う名前があるんだけど!」 「はいはい。で?居るの?兄弟」 「弟と兄貴が居る。けど聞いてよ。俺の兄貴ひどいんだぜ?すぐ俺を子供扱いしてくるの!ったくひどいよね?」 「ハハッ」 本当に面白そうな家族だった。なんだか、自分の話より百倍は楽しい話だ。 「で?いるの」 「いたよ。弟と、姉貴。それに兄貴も」 「四人兄弟!」 かなり驚いた様子だった。けれど、少し間をおいてから、なんだか考え込んでしまった。 「いたって・・・なに?」 「え?今居ないし。弟は、母のところ行ってる。兄貴は今は寮生活。姉はなんだっけ?・・そうそう・・なんか男のところ行ってるよ」 「ん?なんか全然呑み込めない・・」 「いいよ。俺の話よりそっちの話してよ。そのほうが面白いし」 「そうか?」 そういいながら、暗くなるまでずっと話していた。
「じゃ、俺もういくわ」 「おう。」 玄関まで見送った。なんだか、本当に楽しい谷津田なぁと、負けた感じで行ってしまったけれど。 また一人ぼっち。さっきまでの空気が、あっという間に抜け、さっきまでの空気がまた入れられた気分だ。 軽くおなかに入れようと、冷蔵庫を開けた。いつもの事だが。てきとうな場所から、てきとうなお金だけを出し、コンビニに行った。すると、懐かしい顔が。それに、そこには男の顔もあった。 「やぁ稔。元気にしてた?」
一旦三人で公園に行った。 「えっとこのひとは?」 「あれ?言ってなかったっけ?綱紀(こうき)に・・」 「うん。」 「この子は私の弟よ。無口なのちょっとだけね。けど、話したら面白いこよぉ」 「へぇ〜」 「あ。ソウソウ。こっちは私の彼氏の中島綱紀(なかじま こうき)よ」 「ども」 「どうもよろしくね稔君」 「気安い男だなお前」 そういって、晴のほうを見た。姉貴といったら、やっぱり落ち着くのだろうか、今まで以上にホッとする。
結局急いで戻ってきた。なんだか、綱紀ってやつが気に食わなかった。 ベッドの上でなんだかむなしい感じにねっころがっていた。兄弟といえば、ここ何年かあって居なかった。けれど、話をした後に、あんな感じに現れるのがなんだかいやな気分だ。 次の日。朝起きて、リビングに降りた。すると、これまた懐かしい顔ぶれだ。 「おはよう」 そう言ってきた。図太い声。それは、父だった。仕事でなかなか家にだって帰ってこないのに、朝っぱらに居るのは、本当に機嫌のいい日とかくらいだ。 「はよ。どうしたの?」 「いや・・仕事が順調だったから。どうだ?何か変わったことは無いか?」 「全然ない。」 「そうか・・」 なんだか、本当にスッキリした感じだった。 それからまた学校に行った。待ってたかのように、枡が立っていた。 「待ってたの?」 「うん。けど、あんまり待ってない。思ったより早く出てきてびっくり立ったよ」 「あっそ。」 うきうき話す枡にダメージを入れるように、ズバッといった。 「冷たいなぁ〜」 なんだか、しょぼくれたようにくらくなった。 なんだかんだ行ってる割には、すぐに明るくなり、学校まで行った。 机に座ると、一気にため息が出た。出した自分でなぜか驚く。 ポケーッと授業を聞く。なんだか、そんなんでいいのか?となるが、実際のところ、この前のテストなどで、トップを貰っちゃっています。なぜか、ポケーッとしてる割に出来るという、周りから嫌われがちです。 勉強が出来るといえば、運動はというと、悪くはない。結構いいほうだったはずだ。本人に言わせれば、「勉強よりも運動のほうが自信ある」らしい。 どうせ家に帰っても暇だったから、てきとうに机に向かい、てきとうにペンを回していただけなのだが。 兄弟が居れば、きっといい点なんて取れなかった。けれど、友達は五人はいたはずだ。表情がこんなにも硬くなければだが。 「神様は不平等だ」 昼休み。枡と向かい合っていると、急に稔がボソッと言った。 「え?」 「ん?いや・・なんでもないよ。独り言」 「そう?なにかあれば言えよ?」 「うん。」 なんだか、今日は否定も何も出来なかった。 自分にばかり・・ 普通の人ならこういってしまうだろう。こう思ってしまうだろう。けれど、そういうことばは、大きな何かがないと、言いたくない。けれど、「神様は不平等」どこかで聞いたことがある。
下校中、なんだか急に兄貴に会いたくなってきていた。兄弟の仲で、一番なついていたのが兄貴だったはずだ。 今日、枡は委員会というめんどくさいものがあり、残念ながら一緒に下校は出来ないのだ。 ふと通った道に、公園があった。ちょいととおってみた。誰も居ない公園に、ブランコに腰をかけ、軽く動かしてみた。 懐かしい音がキィキィなる。さび付いた音。 なんだか悲しくなり、ブランコを止めて、膝に肘をつけ、手のひらに頭をつける。かなり落ち込んだ様子だ。 光に反射し、きらりと流れる1滴の涙。その涙の意味は稔にしかわからなかった。
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