ある冬。学校帰りに見つけた弱っている子猫。勇はその猫を抱え、家に帰っていった。 家の風呂場に連れて行き、暖かいお湯を洗面器にたっぷり入れ、拾った子猫をゆっくり入れてあげた。小さいからか、まだ余裕はある。 身体についている泥を、手で優しく落としてあげる。そして、身体がきれいになると、違う洗面器に新しいお湯をいれ、その洗面器に移し変えてあげた。先ほどの洗面器のお湯は、ザバーッと音を鳴らして流れていった。 きれいになると、フワフワなタオルで包んであげた。そして、リビングの温かいストーブの前で、その子猫と一緒に横になった。 子猫は、さっきよりもきれいになり、そして何より、しっかりした感じになった。 いつの間にかねている勇。そのとき、子猫は目を覚ました。横になっていた身体を起こし、勇のほっぺたのところまで行った。においを嗅ぐように、鼻をほっぺたに軽くくっつけたりしていた。それで目を覚ましたのか、勇は目を開け、体をゆっくり起こした。 すると、子猫はミャ〜ッと泣いたのだ。何かうれしくて、その子猫を抱き上げた。 「良し。お前は舅だ。」 勝手に名前をつけて、三年後。舅はすっかり大きくなった。けれど、まだ子猫といっても良いくらいかもしれない。 三年経った勇は、これから舅と会う時間が、すっかり少なくなるかもだ。その理由は、猛勇も中学生になった。 一人っ子の勇は、何かと不安が多かった。誰が猫の世話をするのか・・そして何より心配だったのが、友達だ。友達を作るのが苦手な勇は、よく人見知りをする。 初めて会う人たちに一歩引いてしまうのだ。 そして今日、知らない人たちに会う。入学式なのだ。 教室に入ると、当たり前のように知らない人がいた。もう他の人は友達とワイワイやっていた。 あっちで知らない話。こっちでも知らない話。小学校のときとあまり変わらなかった。 舅を見つけてうれしかった、あのときの勇。それは、友達といえる友達がいなかったからだ。 席にゆっくり座り、机の横にカバンを掛けた。丁度席は、窓側の一番後ろ。誰からも目に入りにくいし、のんびり出来る席。 こうして無事、入学式を終えることは出来た。玄関で靴を履き変え、帰り道をのんびり歩いていく。学校からの距離はあるほうで、舅に会いたくて会いたくてしょうがなかった。 少しずつはや歩きになっていく勇。ついに走ってしまうかの勢いだ。けれど、走らない。本気を出せば足は速い。けれど、あえて走らなかった。 周りには知らない人たちが、学校帰りといっているように、のんびり友と歩いていた。 ――仲間はずれ 周りからそんな目で見られているようで怖い。教室にいたときくらい怖い。早く舅に会いたいという、熱心な思いが届いてほしい。そう感じていた。 何とか家に着いた。玄関の戸を開けると、主人を待つ奥さんみたいに、ちゃっかり玄関に座っていた。 「舅・・・」 うれしくなってきた勇。舅を持ち上げ、家の中へと入っていった。すると、いつものようにリビングのほうから大声がする。 親だった。 いつもの夫婦喧嘩。これを聞くたび悲しくなってくる勇。それをカバーするように、舅がミャーとなく。その舅を抱えたまま、自分の部屋へと急いでいく。 そして、おなか減っているのかどうかわからないが、取り合えず台所に行き、いつもの牛乳を、舅のおわんみたいなものに入れる。そのとき、リビングから聞こえる親の声が、怖くて怖くて早くその場を立ち去りたかった。 牛乳を入れ終わると、急いで部屋の戻った。そして、待っている舅の目の前においてあげた。 舅は、その牛乳をぺろぺろ舐めた。 その舅を見ていると、救われた気持になる。 一旦飲むのを止め、勇のほうを向いて、ミャーと一声。 何か「学校はどうだった?」と聞いてくるかのような顔だった。勇はねっころがって、そうだなぁ〜と考え出す。 「舅〜聞いてよ。俺さ。学校やっぱ苦手だわ。舅といるときが一番良いよ。」 舅の頭をなでながら、にっこり笑っていった。 ダンッ! 急にリビングのほうからテーブルを、思いっきり叩く音が聞こえた。びくついた舅と勇。時計が止まったように固まっていた。 勇はゆっくり立ち上がり、舅の頭を一旦なで、リビングのほうに向かっていった。あえてドアを開けず、ドアの前に立った。 父が母を怒鳴りつけている。ゆっくりドアを開けた。びくびくしているけど、どうなっているのか知りたい勇。 「誰だ!」 「僕です・・大きな音がしたので・・」 「勇か・・」 父は、勇を睨みつけるように言った。母は、おびえながらも勇に優しく言った。 「勇・・外で遊んできなさい。それか、部屋に入っていなさい。」 にっこり笑ってはいるけど、いろいろなところに、アザなどが多かった。それに、近くにあったテーブルが、真っ二つになっていた。きっとさっきの音はこれだろう。 「勇。部屋に戻りなさい!」 父が睨みつけながら、勇に怒鳴った。 「は・・ハイ」 恐る恐る一歩ずつ下がっていった。ドアを閉めると、急いで部屋に駆け込んだ。怖くて布団の中にうずくまった。 舅がゆっくりベッドの中に入ってきた。 ミャー 優しい一声を出してくれた。頭をゆっくりなでた。 すると、いつの間にか朝になっていた。舅はのんびり寝ていた。それに気付かなかった勇。自分が寝たのか寝てないのかもわからない。 ゆっくりベッドから降りて、制服に着替えた。舅の飲み物を入れてこようと、入れ物を持って台所に向かう。いつも通り牛乳を入れた。舅の元へ持っていく。 昨日のことがなかったかのように、舅がゴロゴロと勇にくっついてきた。 頭をゆっくりなでてあげた。カバンを持ち、学校に向かった。 のんびり歩いていく。すると、どんどん結うと同じ学校の人たちが歩いていた。 教室に入ると、やっぱり居にくい。席に入ったものの、周りの人たちの笑顔が嫌い。窓のむこうのほうを眺めた。そのほうが気分が楽なのだ。 昼休み。ボケーッとしていたらいつの間にか昼休み。お弁当を出して、のんびり食べる。すると、男子たちが近寄ってきて、こういってきた。 「ねぇ、一緒に食べちゃダメか?」 「良いよ。」 別にいやではないので、とりあえず一緒に食べることになった。 「ねぇ、霧島君って何得意なん?」 *霧島勇 「わかんない・・」 「え?わかんないって・・」 「ん〜特にこれといったのはないけど、走るのは大好きだよ。」 「へぇ〜走るの好きなの?」 「俺ダメ!体力ないし。」 そんな話をしていると、何か学校も良いもんか?と考えるようになってきた。 けれど、家に帰るとそんなことも吹っ飛ぶ。 家に帰ってくると、玄関のところに舅がちゃっかり座っている。抱きかかえ、靴を脱いで中に入っていく。 部屋はいつも通りだが、猫のえさを入れたりしようと、勇はリビングに降りてきた。 すると、ドアを開けた瞬間、勇は氷づいた。こんなことが毎日あったわけではないが、たまにあるくらいだったのだが、それが今日にもなってしまった。それは・・ 「うわぁ〜」 声に出るほど、歩く場がなかった。いろいろなものが倒れており、グチャグチャハチャメチャになっていた。 「誰が片付けるんだ?」 不思議になりながらも、リビングのものとかを戻していった。 何時間かたつと、いつも通りというまで戻らないが、直るものは直しておいた。 「ヨシッ」 それから舅のご飯を用意して、二階に持って行った。すると、舅はちゃっかり者なのか、いつものところに座っていた。そのいつものところとは、落ち着くのか、勇のベッドの上だった。 よしよし 舅の頭をなでてあげた。よく考えてみると、あの大騒ぎを、舅は耳にしているのだと。そう考えると、舅が不便でならなかった。 気分転換に、舅を抱えて外に出た。そして、向かった先は、いろいろな裏道を通り、きれいで真っ青な海だった。 砂浜に座り、舅を放してみた。すると、勇から一切離れようとしなかった。頭をなでていたら、何かに気付いたのか、舅は歩き出した。のんびり目で追ってみた。すると、海に近づいていき、足が多少当たるかな?というところで立ちどまり、座っていた。 勇はあえてそこに行かなかった。暫く様子を見てようと。それで舅がどこかに行ってしまったら、そのまま放って置こうと。 多少空が暗くなってきていた。すると、後ろから声をかけられた。 「勇。」 聞き覚えのある声。勇は振り向いた。すると、そこには父がいた。 「やっぱりここに居たのか。もう帰るぞ。」 「ハイ。」 勇は立ち上がり、ゆっくり歩いていく父のほうに向かっていった。ふと舅のほうを見てみた。すると、こちらを何か訴えるようだった。 また明日見てみよう 軽く考えて。次の日。学校の帰りにまた寄ってみた。すると、海水が舅の足にチョビットつく位の場所。丁度昨日、舅がいた場所だ。そこに、海に背を向け、座っていた。近寄ってみると、足に引っ付き、離れなかった。 勇は抱きかかえてあげた。 ミャー 鳴いた声を久し振りに聞いた気もする。 放そうと思うけれど、放してくれなかった。爪が制服に引っかかっていた。 そのまま家に連れて行った。そして、牛乳などを用意すると、舅は止まらすに飲み続けた。 次の日。 いつも通り学校に行こうと、朝リビングにおりてみると、また荒れているというか、何かが違った。 いつもよりきれいで、きっちりしている。こんなことは前代未聞。不思議に思いながら、学校に向かった。 教室。やっぱり恐々とドアを開ける。 「おはよう」 クラスの皆が勇に挨拶をしてくれたのだ。驚きながらも 「おはよう・・」 すると、皆にっこり笑ってくれた。それに答えるように、勇もつられて笑ってしまった。 席に着き、いつも通りの授業。 急に知られたように驚く勇。 知らされたこととは、明日から二日間、ランキングテストをすると。 ランキングテストとは・・ 学年一位を争う中間というよりも、生徒がふと思いついたことを、生徒会が了解を出し、先生までも賛成したということだった。 今までも、急だったらしい。 別に一瞬驚いた以外、特に驚かなかった。勉強は嫌いじゃないし、出来ないとは言い切らない。 皆は昼休み、必死に勉強をしていた。そこにのんきな勇が、弁当を食べていた。 「霧島。ここどうやるの?」 「こうしてこう・・で、こうなるから・・結論がこう。」 「サンキュ」 もう、おなかが減ったよりも、勉強やばいだった。そんなこんなも関係無しに、勇はのんきにご飯を食べる。 放課後。やっぱり、歩いている人の目が違う。 ミニ資料を見ながら歩いていたり、友達同士問題を出しながら歩いて帰っていた。そんな中、やっぱりのんきな勇は、今日の夕飯何かなぁ〜?しか考えていない。 家に帰ると、舅を抱きかかえ、部屋に行く。牛乳を入れに、入れ物を持って台所に向かっていった。 自然なリビングが見える。平和なリビングを見る。のんびり身体を伸ばす勇。 なぜこうなってしまったのかは、何年前だろうか。勇が小学三年生のころ。ある人がこの家を訪れた。 ある人。その人が、訪れたとき。家には母と父。全員が揃っていた。 「あなたが勇くんかい?」 呼び鈴が鳴って出たのが勇だった。そのとき聞かれた真っ先の言葉がそうだった。 「うんそうだよ。」 まだ幼い勇は、何がいけないことかどうかが、はっきり出来ていなかった。 「おいで」 そういわれたとき、そのままのんきに付いていった。 「私の息子をどうするつもり?」 言ってきたのが母だった。その後ろで父が見守るように睨み付けていた。 少しの間がある。そのとき、そのお客は勇を抱きかかえ、走っていった。 「勇!」 父と母は、急いで追う。けれど、相手は近くにあったバイクで逃走。 それから暫く、親は家の中でどうしようか、あたふたになってたという。結局のところ、見ず知らずの人が、勇を助けてくれたのだ。その人は、かなりの美少年で、人当たりのよさそうな人だった。 その人を、今でも覚えている。その一軒で、それからはなかなか家から出してもらった利は、出来なくなってしまったのだ。 小学校に入学して、知らない人たちを見たとき、またあの日の事を思い出し、なかなか人には頼ったり、話しかけたりなんかは、絶対しなかった。それから何年かして、子猫に会った。そう。舅である。 中学に入学して今がある。まだ忘れてはいないあの日。家族が根に持っているあの日。一人っ子の勇は、余計心配だという。けど、兄弟がいると、余計心配だったりもするのではないかと、今になって思う。 取り合えず、舅のご飯を部屋に持っていった。 部屋からベランダに出、暫く外を眺めていた。すると、舅まで出てきた。 「こら危ないから中に・・ 舅を持ち上げようとした瞬間、何かに気付いた。それは、舅ではなく、外に居た人だった。 あの日以来、呼び鈴がなっても玄関を開けなくなった勇。そして今、家には誰もいない。いないということは、外に居る人が呼び鈴を鳴らすと、居留守になる。 急いで舅お持ち上げ、部屋に入った。そして、ベッドの上で舅を抱えたまま、ブルブル震えていた。 怖かったそのとき、なってしまった。 ピンポーン・・・ あの日と同じ音。そして、唯一変わったものは、出るのを恐れたこと。
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