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暗闇 作者:米沢涼

第1回   ユメ

 あなたって何考えているかわかんない

 俺は知らぬうちに付き合ってる人が居たらしい。
 いつもボーッとしてて、周りを威嚇し、警戒する俺が、いつの間にか彼女が居るという、おかしな現実に、ボーッとしているしかなかった。
 叩かれる前に、俺は叩かれそうになる腕を、つかみとる。
 何を考えているかわからない。
 いつも振られ文句だ。よく記憶を思い出してみると、確かにいつの間にか告白されている。
「うん」
 それが俺の口癖だった。
 面倒ごとには巻き込まれたくない。だから俺は、逃げる。いや。逃げてるわけじゃない。決して。
 いつもの脳天気さが現れ、いつの間にかが多い。別に悪いことではないのだが。勝手な噂が本当の事だということが、よくあるという悲しい結果。
 だから、それ以降俺は人と接しなくしていた。口癖も無くなり、というか、逆に違う口癖が出来た。それが・・
「うるさい」
 口癖を直していく際、よくよく出てきていた言葉だった。
 言葉が柔らかくない俺は、単語で表してしまうのだ。
 ズバッといって、人は傷つく。それを恐れていて出てきていたのが、うん。
 頷くが一番だと思っていたが、今になってはどうだ。俺はそう思わなくなってきた。

 赤西隆茄(あかにしりゅうな)
 俺の名前。元々は、西台隆茄(にしだい)母が変わり、赤西となったのだ。けれど、俺的には西台のほうがよい。
 なんとなくという理由でいいのだ。
 昔から表情の硬い子といわれ続けて十四年。あまり変わったことは無かったが、大きく変わったのは、みよじと口癖。
 友達がいないのも、男子から嫌われ続けているのも、対して代わりが無かった。クラス替えをしても、嫌われ続ける。けれど、女子からは人気らしい。噂を耳にしただけだが。
 俺は解放されたい。
 何か言われるくらいなら、自由気ままに生きたほうが、俺的には楽しい。人間楽しく生きなくては意味がないと、俺の中ではそう思っているつもりだ。

 皆が嫌うはずの闇は、俺にとって支えだった。
 闇は全てを消してくれるから、全てにおいて気楽な感じでいられる。けれど、明かりがともると、ばれてしまうことや、苦しいことを出てしまいそう。
 光は闇を照らし、闇は光を目立たせるもの。だから、逆に闇に入りたがら無い人が居るのだと俺は思う。
 闇は、自分を消し、苦しみを消してくれる。だから、家に居るときは、電気をつけずにカーテンを厳重に締める。そして、うずくまって何も考えないで居る。
 けれど、光となると自分の心を見られていそうで、何かと怖い。それをさえぎるためのカーテンだと、俺は思う。だからこうしてカーテンをしめ、自分の心を隠している。

 暗闇から抜け出そうとしている少年と、暗闇に逃げ込む隆茄がばったりどこかではちあったとしたら、その少年は隆茄を追い続けるだろう。
 新しい未来というものを作らせていこうとする少年が、出てくるであろう。

 新しい未来というものを辞書で調べても、きちんと出てこない。「新しい\未来」と分けなければ、辞書というものは出てこないだろう。
 嫌われ続けていた俺にとって、辞書があっても、いつの間にか誇りにかぶって消えているだろう。使わなくなり、身体の押入れのどこかにしまってある。
 結局使わないのにあっても邪魔だと、いつの間にか言葉を失っているかもしれない。

 学校に行ったとしても、あまり話さない生活。
「おはよう」
 どこからか出てくる言葉に、てきとうにおはようと答えるだけの生活。ほとんどが、同じ場所で終わっている。
 そんな中、ある日曜日そのとき俺は海に出かけた。
 季節が季節だからか、人が居るとはいえなかった。少し肌寒い。
「あれ?赤西君?」
 砂浜に座り、海を見ていた俺に、後ろのほうから声をかけてきたやつがいた。確かそいつは、俺と同じクラスの高木諒助(たかぎりょうすけ)だったはずだ。
 一旦そっちを向いたが、すぐに目線を戻した。
「何でそうなるんだよ。前までは、少しだけでも話してくれたのに」
 悲しいというような目で、俺の隣に座った。
「俺は話していたときの隆茄のほうがいい」
 今思ってみると、こいつとクラスが離れたことが無かった。
 話していたときといっても、うんとかくらいだった。まぁ、他にもいろいろ話したかもしれない。
「話していたときかぁ〜」
 何か気が抜けたように、後ろに倒れ、仰向きになった。スッキリしたのはなぜだろうか。
「久し振りに聞いたな声。いっぱい聞かせて」
 と、にっこりしていた。そんなにっこり笑えるやつは、光だ。俺は闇。こいつは敵と考えてはいけないのかもしれない。けれど、闇と光で考えるなら敵だな。
「お前だけにな」
「俺だけ?特別かぁ〜良いな。特別は!」
 ガキみたいに、騒ぐ諒助。けれど、俺はこいつと話したことなんて、めったに無かった。
「じゃあ、今日から親友な」
 握手を求めるように、片手が出てきた。
「親友か。良いな」
 体を起こしてその片手に握手をしてみた。
 すると、さっきよりももっと笑顔になってきていた。
「なぁ、隆茄って呼び捨てにして良い?」
「あぁ。」
「俺のことは諒助って言って良いからな」
「あぁ。」
 こんなに話して、握手をしたこともめったに無かったから、久し振りでなんか面白く感じてきていた。
 けれど、これで何かと厄介なことが、おきるとは思わなかったし、思いたくも無かった。

「おはよう」
 次の日だって、隆茄の肩をポンッと叩き、挨拶をしてきた。
「あぁ。おはよう」
 片手を軽く挙げていう。何かが突っかかるような気がする。
 授業をのんびり紀伊居ているようで、実際は聞いていない隆茄は、何であんなに頭が良いんだ?という男子たちが居る。

 放課後だって、部活動をやっていないにしても、運動神経がありすぎる。恨みられまくりな隆茄だが、最悪の弱点があるのは、本人しか知らなかった。

 今までの経験上、俺の近くに寄ってくるものは、光をもつものだけだ。だからこいつもそうだから、あまり関わらないようにしていたのに。
 ベッドの中で悔やむ隆茄。家には誰も居ない。のんきにしていられるのは、家の中しか居ないのだ。
 枕を抱きしめて、天井を見つめ続ける。小さい頃に夢を見た。
 いつの間にか、空色の中に立っていた。周りを見回すと、雲みたいに真っ白なものが、ポツポツある。よくみてみると、なんとなく空に浮かんでいた。
 足を前に動かした。
 地面を歩くように、自由自在に動ける。そして、高さも調整できる。なぜか足が止まらない。止まろうとしたくなかったのだ。真っ白な世界に飛び立ったみたいで、何か心細い。誰もいないんだ。
 ただでさえ光に立っているみたいで怖い。今にでも逃げたいのだ。
 後ろをふと振り向いてみると、パズルのピースみたいに、空が駆け落ちていく。
 走った。黒い闇から逃げるように、頑張って走った。けれど、走っているとき、思ったことがある。
 逃げなくても俺には闇があるから怖くない
 確かに怖くなかった。足は立ち止まり、後ろを向いた。ドンドン暗闇がこちらに向かってきていた。怖くなかった。一切怖くない。恐怖のかけらすら落ちてこなかったのだ。
 俺は話していたときの隆茄のほうがいい
 意味がわかった。考えてみると、確かにいっぱい話していた。この夢を見る前は。
このユメから人生がグルリとまわってしまった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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