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風船 作者:米沢涼

最終回   届く位置
 空を見上げてみて
 何かが浮いているよ
 透明じゃない・・
 
 なんだろう

 ふと横も見ると
 違う色のものも浮かんでいた
 よくよく見ると
 もっと・・もっとたくさん
 浮かんでいた

 今さっき持っていたものはなんだろうか
 今さっき持っていたものはあの中に一つだけある
 そう・・・・
 初めに見ていた
 あの風船
 緑色でなんだか自然を何かに戻そうとする色
 隣では
 空と似たような色の風船
 あれは誰が飛ばしてしまったのだろうか

 なぜこんなにも皆して
 風船を手から放してしまうのだろうか
 ふんわりふんわりと眺めると
 みんなの笑い声が聞こえる
 シーッと静かにしていると
 機械の回る音が鳴る
 それと同時に
 人の悲鳴が聞こえる

 そっと向こうでは
 なんだかのほほんと音楽流れている
 馬が上下に動き下の板がゆっくりと前へ前へと・・
 俺はちらりとも見ないで風船を眺める 
 自分の放してしまった
 あの風船を

 何かを手放すということは
 俺にとって悲しいものだった
 すべてのものが
 俺から逃げていく
 俺はたった一人で
 この地に立たなければならないのだろうか

 一人という名は
 慣れていたはずなのに
 あの人がいなくなって
 針からずっこけ
 油煮込みの中に入った
 俺は
 上を見るしかない
 地面なんて見る余裕がない
 上からの障害から逃れなければ
 けれど
 上を見ていると
 ドンドン自分の背が
 縮んでいるように感じる
 なんていったって
 風船はドンドン上がっているから 

 俺に手を差し伸べてくれ
 一人で立ち上がれる自信が無い
 誰かに助けを呼びたい・・けれど本心は助けられたくない
 きっと
 逆に一人では立ち上がれなくなるから 

 一人で立ち上がることは
 何かと大変なことがありそうだ
 だって・・
 たくさんの人とのかかわりが
 崩れていたのを頑張って組み立てる人みたいだ

 「怖い」
 
 なんだか自分には
 あの人の存在が大きすぎていた
 人との別れは
 つらいものだというのを
 甘く見ていたのかもしれない
 俺には
 何も向いていない
 
 そっともう一度
 風船を見上げた
 もう
 手の届かない
 目の届かない位置にある
 
 お前も俺を見捨てるのか
 
 風船に何を言っても帰ってこない
 そんなの解っていた
 わかっていたけど
 少しは期待・・して見たいものじゃないか
 
 さぁ
 空に手を当ててみよう
 当たらない?
 そんなの想像でいいんだ
 ほらっそこに見える手は
 自分を支えるのに
 十分な手ですか? 

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Novel Editor by BS CGI Rental
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