「さぁてどこから探すかなぁ〜?」 てきとうな屋上に上った。 「猿になってくれないかな?」 「は?」 「ううん。なんでもない。」 猿みたいに暴れてくれれば、居場所がわかったのになぁとか思っている櫻。いろんな意味で、居場所がわかると困るのだが。 「特徴とかは無いの?」 「特徴・・・背が高い」 「背かぁ〜髪型は?」 「サラサラヘアー」 「メガネは?」 「どうだっけかな?かけてたようなかけてないような・・・」 ほぼてきとうな答えだった。 本当に人の顔とかを覚えるのが、櫻にとって大の苦手なのだ。 「ちゃんと探してるかぁ〜?櫻ぁ」 「うん探してるよぉ〜」 お菓子を食べながら、てきとうに見ているだけなのだが。あまり探す仕事はしていない。 けれど、本当にこんなときにはぐれてしまっては、笑い事にはすまない。早く「フォーサフトォーム」に着かなければ。 お菓子は食べているが、きちんと桜をてきとうな場所に飛ばしている。 飛ばしている位置が、遠ければ遠いほど、人ごみが多くて体力がかなり消耗されるが、夜須を探すには結構いい方法だ。 「イタッ!」 ビクッと身体がびくつき、ついつい大声を出す櫻。 「どこだ?」 「来い」 かなりの命令口調。 急いで夜須の居る屋上まで、屋根と屋根を跳びながら向かっていく。
「まだかなぁ〜」 冷たい風をあたりながら、ポケーッと櫻の迎えを待っている。 「夜須」 「おっ早速来ましたか櫻」 「わりぃわりぃ」 「悲しかったよぉ〜」 と、急に櫻に抱きつく夜須。 「離れろばか」 殴ったり暴行は加えない櫻。 「この人が・・・櫻の仲間?」 「いちおね」 「え?まだいちおだったの?で?そのひとは?」 「漆(うるし)」 「やっぱり簡潔だなぁ〜櫻は・・漆君ね。なに?仲間になった?」 「いちお」 「やっぱりいちお?」 まだ二人を信じたわけではないのだ。 「行くぞ夜須。」 「おう」 とりあえずこのまちから先に向わなければ、フォーサフトォームには届かない。それに先ほど、あの牢屋に連れて行かれた櫻にとって、ここにのんびりしているのは、かなり心臓に悪い。
街を去った三人。なんだか息苦しさも無くなり、櫻はチョットゆっくりする。 「なにかあったのか?なんかさっきよりも楽になってる櫻・・」 「え?ううん?なんでもないけど?」 チョット焦ってしまった。けれど、自分でもなんでこんなに焦っているのかはわからない。
その夜は、てきとうによしかかったりして寝た。けれど、さすがに寝れない櫻。 きれいな月を眺め、のんびりと暗いのを紛らわそうとする。
その頃寧々の家では。 「あぁ〜きれぇ〜」 水をずっと長めていた寧々は、部屋を真っ暗にしたとき、一つ気付いたことがあった。 桜がきれいに桜色にほんわか光っていたのだ。 「これがお守りね」 これで、結構気に入っているみたいだった。
「眠れないのか?」 急に後ろから話しかけられた。 「え?」 後ろを振り向くと、漆だった。いつもどおり夜須はぐっすり寝ている。 「あぁ・・俺・・あんまり寝るほうじゃないんだ」 「へぇ〜明日からきつくなると思うぞ?」 「大丈夫。これでも、まだ一週間くらいだし寝てないの。」 「最高は?」 「二ヶ月仮眠入りだったけど」 「へぇ〜つか、身体おかしくなるだろ」 「俺は普通の人間じゃないから」 「普通の人間じゃない?」 「気にするなって」 立ち上がり、身体を伸ばした。 「俺・・・・夜って嫌いなんだ」 「嫌い?」 「あぁ・・・なんか血が騒ぐ。だから寝たらきっと暴れる。寝たら・・自分じゃなくなりそうだ」 「どいう・・」 「あぁあ!こんな辛気臭い話止め!お前ももう寝な・・・じゃないと明日がきついぞ」 といって、てきとうに走っていった櫻。 「あ・・さくら・・」 追っていこうと思ったが、暗くてもうどこにいるかわからなくなってしまった。 「さぁって・・・てきとうに走ってきたけど・・どうしようかな?」 迷っては居ないが、木に囲まれているものを、東西南北(とうざいなんぼく)があやふやになってきている。 帰って、まだ漆が寝ていなかったら、何かと気まずい。 「チクショウ・・・なんで俺が悩まないといけないんだ」 自分に腹を立たせながら、近くの木に身軽と登った。 頂点にまで着くと、周りを見回した。かすかに漆たちが見え、誰か居るのかと周りを警戒してみた。 今のところは居ないみたいだ。けれど、暗いからか漆の姿が見当たらない。 「漆・・・・?」 どこかに行ったのかと、周りを見回すけれど、暗くて全然見えなかった。あきらめて、チョット降り、てきとうな枝に座った。そして、幹によしかかって仮眠を取った。 本当はずっと警戒していたかったが、さすがに睡魔が襲ってきたというものだった。たまには寝ることも許されるかな?と、途中までは仮眠程度にしようと思ったが、その考えは甘かったらしく、ぐっすり寝てしまったらしい。
次の日の朝。一番におきたのは、一番睡眠時間が長い、夜須だった。周りに誰も居ないことに気づき、ポケーッと周りを見回していった。 「真面目に居ない?ってか、最近俺置いてけぼりが多い・・・」 がっくりときた。下手にここを動いてはいけないのだろうかと思いながら、少々眠い目をこすりながら、仮眠をした。
漆はというと・・・ 「ったく・・もう朝になっちまった。あの櫻はどこいったんだか・・・」 はぐれてからずっと探し回っている漆だった。一日くらい寝て無くても平気だろうと思っていた漆。まぁいちお平気ではあった。 まだ歩き回っている。どこに居るのだろうかと。 それから何時間たっただろうか。なかなか見っから無くて、夜須の元へと戻った。けれど、仮眠している夜須は、ぐっすり寝てしまっているらしく、漆は近寄った。 「おぉ〜い。もう朝だよ・・おきてくださ〜い」 耳元でささやいた。すると、ゆっくりと目をこすりながら起きた夜須だった。 「あれ?どこいってたの?」 「ちょっと・・櫻を探しに」 「どこかに行ったのか?」 立ち上がりながら聞く夜須。昨日の晩のことは、すでに寝ていたせいで何も全く知らないのだ。 「探してきますから、夜須さんはここを離れないでください。夜須さんまで見失ったら面倒なので。」 「うん。いいけど、櫻は平気だと思うけどな・・・っていうか、きっと木の上でぐっすり寝てるよ?俺と居るときからずっと起きっぱなしだったからあの人」 キョトンとする漆。何か不思議なことがあったのだ。 「知っていたんですか?寝ていないということ。」 「あぁ。」 「ならなんで気を使ってあげようとは・・・」 「そういうことをされるのが苦手なんだよ櫻は。それに、あの人は夜というものがだいっ嫌いだからね」 クスクス笑って夜須はいった。 何も知らなさそうに見えて、これでも夜須はいろいろとわかっているのだ。 「そう・・なんですか・・」 「よし。探すか・・お前も寝てないんだろ?今寝とけ。なんとなくどんなところで寝てるかは、俺が一番わかってるし。見つけて戻ってきたら起こしちゃる」 「え?でも・・・」 「寝てろ」 「はい」 押し負けされた漆。 お人よしの夜須はというか、櫻想いの夜須はゆっくりと櫻探しに進んだ。 てきとうにまっすぐと歩いて、木の枝を十分に集中して歩いた。
おっ・・・居た居た・・
どこにいるかがわかっていたかのように、夜須はすぐに見つけることが出来た。 ぐっすりと寝ている様子は、まだ子供のようだった。といっても、まだ確かに子供だ。 十四歳の櫻にとって、ここまでがんばってきていることが、大人っぽい。逆に夜須が子供っぽいように見える。けれど、こういうところを見れば、やはり子供だなぁと確信できる。 ついでに夜須は十六歳だが・・・それに漆は十八歳。かなり年の差がある。十四歳の櫻は遅生まれ(一月以降)なので、今に現すと中学三年生だ。
「まだ寝てるか・・ここまで近づいてるのにおきないってことはかなりの爆睡中だな」 ちょっと呆れ気味な夜須だ。 木に登り、櫻に近づいた。いつもなら起きるような気がするが、おきなかった。 「チョット心配だけど平気だよな。全く・・」 夜須は自分の着ていた上着を脱ぎ、風邪を引かないように、櫻にかけてやった。 「まっててな」 ボソッと言うと、木と木を跳び越え、漆のところまで行った。 「ありゃ・・こっちも寝てる。まぁいいか」 夜須はチョット面倒だと思ったけれど、櫻のところにまた戻った。本当は漆に櫻を見つけたということだけ言いたかったのだが、寝ているならいいかと思い戻ってきた。
櫻の目の前に座った。チョット枝が揺れてしまったが、それでも起きない櫻も、どうかと思ってくる。 頬を触る夜須。櫻の頬はほんのりと温かかった。 「ん・・・」 「おっと・・おきちゃったか?」 櫻はゆっくりと目をこすりながら目を開けた。 「あれ?・・・俺・・・寝ちゃってたの?」 「あぁ・・・」 「それにこの上着・・夜須の?」 「うん。風邪引いたら困ると思ってかけておいたんだよ」 「そう・・ありがとう」 「櫻って意外と寝たらおきないのな・・」 「暫く寝てないからね」 「どうする?まだ寝てるか?」 「いんや〜もう行こうぜ。漆は?向こうで寝てる。夜中ずっとお前の事探してたんだと」 「ほぉ〜あいつもやるなぁ〜この俺を探すなんて」 「けど、見つかんなかったって。俺が見つけてやるから寝てろって言ったら、本当に寝ちまってよ」 「へぇ〜なら早く行くか。追っ手が来ないうちに」 「あぁ・・・」 まだ言っていないあのことを。一度、櫻がつかまったなんてことを言ったら、どうなることやら。きっと、ゆっくりはしていられないと、先に先にと逆に急いでしまいそうで。怖かった。
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