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| 「あぁ〜・・今頃あいつ何やってるんだろう・・先に走りすぎたかな?」 のんびりと、どこかの屋上で仰向けになり、ゆったりとした雲を眺めていた。
 なぜこんなにのんびりかは、マイペース夜須に聞いてくれ。
 「俺がのんびりなのは、俺の血液型はなんて言ったってB型だからだ!」
 と、何かかっこつけていた。
 櫻が大変なことになっていることも知らずに。
 
 櫻は逃げ切った。まぶしい光の中に紛れ込んでいったのだ。
 壁を越えると、どこかの森の中だった。その森はかなりまぶしいくらい、きれいで、居心地が良かった。けれど、のんびりとしていられない。
 多少疲れた身体を、がんばって走らせた。
 こまめな仕事だったからか、本当に精神もやられているような気もする。
 
 「ここまでくれば平気だろう」
 暫く走りこんだところだった。
 大きくきれいな泉の側に座った。そして、ゆっくり手を突っ込む。
 氷を触っているくらいつめたかった。それをそっと持ち上げ、口に入れようとした。
 「ダメ!」
 急に止めが入って、ついついその水を落としてしまった。
 ゆっくり声がしたほうを見た。
 「その水は身体に悪いの・・」
 「え?」
 小さい少女だった。
 「この水冷たいでしょ?普通の人なら、飲みたくなるくらいよね・・」
 「何でダメなんだ?」
 「この泉には、むかぁしから住んで居ると言われる、主が居るの」
 「主?」
 櫻は少女のほうに、きちんと身体ごと向けた。すると、少女は何の警戒もなしに、櫻の目の前に座った。そして、ゆっくり説明してくれた。
 「そう。主よ。大きくて冷たい主。その主がこの水を冷たくしてくれるの。けれど、その主は猛毒を持っている。それを身体から水を通して発しているの。触る際には全然平気なの。だけど、その水を喉を通したら、その飲んだ人は喚き・苦しみ・泣き叫ぶのです」
 少女は言い切ると、にっこり笑って櫻のほうを見た。
 「だから・・だから飲まないほうが良いのです」
 「そうだったのか・・教えてくれてありがとう」
 と、にっこり笑って御礼をした。
 「ねぇ、これから暇だったら、寧々の家に来ない?」
 
 誘われたものを断るのは苦手な櫻。ゆっくりとそのこの家に行った。
 その子は、土本寧々というらしい。
 「お邪魔しまぁす」
 恐る恐るその家に入った。すると、お兄さんと思われる人が、ゆったりとソファーに座っていた。
 「あ・・お兄ちゃんお帰り」
 寧々は、走ってそのお兄さんに飛びついた。
 「寧々・・その人は?」
 立ち上がって、こっちを見た。
 「あ・・こんにちは。櫻です」
 「女の人?」
 「男です・・」
 こういわれるのは、なんとなくなれているから、怒りは出てこなかった。
 「あ・・ゴメンナサイ・・」
 「いいえ。慣れてるんで」
 「この人はね、漆兄ちゃん。血はつながってないんだけど、お兄ちゃん」
 「血がつながってない?」
 「えぇ。俺と寧々はつながってません。俺はただここに匿ってもらってるだけなんで。」
 櫻は、何か不思議な感じがした。
 「匿ってる?」
 「あ・・気にしないでください・・」
 漆(うるし)は、かなり動転しているようだった。何かを隠すように。
 「もしかして・・・龍崎漆?」
 「え!・・なぜ・・」
 何かを思い出した。
 あのときの会議のとき、漆という名前を薄っすら聞いたような気がするのだ。
 「いえ・・別になんとなくです。そうなんですよね?」
 追い詰めるような言い方と、目つきで言った。
 「ハイ。けれど、これは内緒にしててもらえますか?」
 「えぇ、全然いいですよ。というか、絶対にいえませんし」
 何かを考えるように言った。
 「でわっ。そんなところに立ってないで上がってきなさい」
 そういわれたので、お構いなく上がらせてもらった。
 
 あの後、漆と龍崎一族の話をしてもらった。けれど、櫻が龍崎一族だとは言っていない。
 「だからこんなに騒がしいんですね最近・・」
 「あぁ・・で?なぜ俺が龍崎家だと?」
 やはり言わないといけないは目になるのだろうか。
 「櫻というなを・・やはり聞いたことはないのですか?」
 「櫻・・・?龍崎一族にも無敵のサクラという人は居ます。けれど、俺はその人をきちんと見たことはないんだ」
 
 だからぴんと来なかったのだろうか。
 
 櫻は、なんだか淋しい気持になってきていた。
 「で?漆さんの力はなんなんですか?」
 「力・・やはりそういうことまで知っているのですか・・あなたは一体何者なんですか?」
 「・・・・やはり言わなければならないことでしょうか・・俺は龍崎櫻。あなたの言っていた無敵のサクラ張本人です」
 そういうと、漆は声に出ないくらい驚いていた。目がまん丸になり、何か恐ろしいものを見たときとはちょっと違う。
 「なにか?不安でもあるんですか?」
 「え・・・?あ・・いや・・・チョッと・・なんか」
 「驚いた?」
 「はい。あ・・俺の力は水です」
 「水・・」
 「ハイ。一番力を発揮できる場所は、水のある場所が一番力が出てきます」
 「ほぉ〜そうなんですか・・なら、あの泉であなたと戦うときは、気をつけなければなりませんね」
 何かを攻めるように、言ってみた。けれど、さっきから水ということで、何かが木にかかっていた。何か古い記憶に。
 「そんな・・・恐ろしいこといわないでくださいよ・・」
 「ははは・・すみません」
 何か対策を深く練らない時計ないだろう。
 
 桜はほぼただの花だ。水にぬれると、しょぼくれて、桜吹雪の威力が一気に減少することは確実だ。
 水の弱点はこれといった事はない。
 筋力をよく使い、身体の攻撃を与えたほうが、一番だと思う。
 「ねぇ、櫻お兄ちゃん」
 「ん?」
 「今日ここに止まっていきなよ」
 「え?」
 「あなたどうせとまるところないんだよな?」
 「あぁ・・・ならお邪魔させてもらおうかな?」
 そういうと、何かと嬉しそうに笑ってくる漆と寧々。
 
 夜、布団の中。
 下手に眠ると、何かあったときに対処できないのだ。
 「あ!」
 急に思い出した。
 水・・そう。一話で話したあの朱未と言う女だった。といっても、思い出して何になるというわけではない。
 あのときの水が、あの泉だと考えると、避けて当たってたってわけだ。
 何か不安になってくる櫻。数珠をギュッと握り締めた。
 
 全然寝れなく、布団から出て庭に出た。
 涼しくて、何かいい気持ちだった。
 「寝れないの?」
 後ろから話しかけてきたのは、漆だった。
 「ああ・・なんかちょっとな」
 「まぁ、夜更かしもいいもんだぞ」
 普通なら明日のためにとか何とか言いそうな人だが、印象がガラッと変わってきた。
 「なに?何か俺悪い事言った?」
 じろじろと櫻が漆の事を見るもんだから、漆は何か動転しているというかチョッとあわてていた。
 「い・・イヤッ。別に悪いこといってないよ・・チョットそういうとは思わなかったから」
 「なんていうと思った?」
 「明日のためにとか何とかいいそうだった」
 「え!マジですか・・俺はそんな事言わない人ですよ」
 「うん・・わかってる」
 何か嬉しくて、櫻は笑ってしまった。こうやって話せれる人が、かなり久し振りのような気もするのだ。けれど、また何か重いことを忘れているような・・
 
 「櫻ぁ〜・・・もう夜だぜ?あんなに人いたから・・探せなかったのかな?」
 ウルウルと泣いている夜須。そう。櫻が忘れていたのは、夜須のことだった。
 「忘れてるわけじゃないだろうな?」
 フッと不思議になってきた夜須。心のどこかが焦ってきた。
 
 朝。
 無事朝を迎えた。
 これから櫻はどうしようかと、一人でボケッとしていた。
 「これからどうするつもりだ?」
 考えていたことを、漆に言われた。
 「ん〜何か忘れているような気がするんだ」
 「忘れてる?忘れ物どっかにしてきたのか?」
 「いや・・物じゃないような気もするんだよなぁ〜」
 ふかぁく考えていた。
 「なぁ、良かったら散歩しに行かないか?」
 「あぁいいよ?」
 ゆっくりと泉のところを歩いていた。
 並んでみると、結構背の差がある。もちろん漆のほうがかなりでかかった。これを見れば見るほど、何か忘れてると思う。何か大切だったような大切でないような・・
 
 「櫻ぁ〜早く見つけてくれ・・また人ごみが多くて下に降りれないよぉ」
 まだどこかの屋上に上っていた夜須だった。
 
 「なぁ、俺と戦ってみないか?」
 「え?」
 急な漆からの注文だった。
 「どっちが強いのか・・きっちりしてみたくって・・ダメかな?もし俺がまけたら言うことなんでも聞く。けれど、俺が勝ったら、仲間に入れてくれ」
 「俺に勝って・・それだけの要求で良いの?」
 「あぁ・・・もちろんリーダーは櫻だ」
 「いいよ。やってみようじゃないか」
 何かいけない方向に進んで言ってる気がする。
 
 「じゃあ、どっちかが動けなくなった時点で止め!わかった?」
 「いいよ」
 「俺はこの泉を使わない・・もし大変なことになったら、仲間に入ることすら出来なくなるから」
 「だったら場所を変えない?」
 「わかった。」
 
 そう言って場所を変えた。周りには水が1滴もない場所だった。
 「じゃあ・・初め」
 漆が力強く言った。
 初めに攻撃を仕掛けてきたのは、やはり向こうだった。
 自分の水をかなりに勢いで櫻に向かって、当ててきた。櫻は右手を差し出して、こう唱えた。
 「壁斗」
 目の前に壁を作り、水の流れを変えた。
 「な・・・ならこれでどうだ!」
 流れを変えた水が、向きなおし、後ろから襲ってきた。
 
 「流壁(りゅうへき)」
 
 右手を、来る水を縦に切るように、上から振り落とした。すると、流れてきた水は、縦に切れて二分割された。
 漆の前に水が戻ると、何か作戦を練っているようだった。
 「そっちから来いよ」
 漆が何か準備万端かのように言ってきた。
 ここで桜吹雪を使うわけには行かない。
 櫻は、数個の桜の花びらを一気に漆に向かって投げつけた。投げつけた瞬間に「風沙」で移動し、漆の後ろに回りこみ、また刃の桜を投げつけた。
 
 流桜(りゅうおう)
 
 この技に名前をつけた。今瞬時にだが・・
 
 さすがに後ろから一気に来るとは思わなかったのか、前から来たのは、水で防御したが、後ろの桜は防御しきれなかった。
 背中に数個の桜が突き刺さった。前に倒れこむ漆。
 「もう・・・終わり?」
 「まだまだぁ〜」
 力を振絞り、ゆっくり立ち上がる漆。
 「まだやるか・・・」
 「おぅ」
 漆は遠慮なく、図太い水柱が横になってこっち襲ってくるかのようなスピードで、水を動かした。さっきよりもスピードがあった。
 
 風沙
 
 瞬時にその場はなれるよう、横飛びするそして、漆の後ろにつき、戸惑い無く首辺りを思いっきりけった。
 そのまま吹っ飛んでいく漆。
 「どう?これでもまだ戦う?」
 「ま・・・だまだぁ〜・・・」
 もうフラフラなのに立ち上がってくる漆。
 
 こいつを仲間に入れたら良いかも・・
 
 なんて不思議なことを考えてしまった櫻。けれど、ほとんど本心の気持だった。仲間に入れると、くじけずにやってくれそうだ。
 「なぁ、お前これからどうするつもり?お前の事ばれたら・・」
 「戦うさ!逃げない!戦うんだ。逃げてばかりじゃ先に勧めない気がするんだ」
 
 前言撤回
 
 仲間に入れたいという気持を撤去する。こいつはやっぱり寧々の元においておくべきだと、気持を入れ替える櫻。
 「おまえ・・」
 「なんだよ・・・俺は・・絶対あなたと共に・・・・進んで生きたい」
 「やられたな・・」
 「え?」
 足もとがフラフラな漆の前で、軽く笑う。
 「いいよ・・仲間んなって」
 櫻は座り込む。
 「え・・・いい・・・の?まだ・・俺あなたに勝ってない」
 「いいよ・・たぶん」
 「たぶん?」
 「あぁ・・今思い出したけど、俺もう一人仲間が居ること忘れてたわ」
 漆は、嬉しかったのか、足がガクッとなり、座り込んだ。
 「って・・仲間居ること忘れるんっすか?」
 「ああ・・今まで忘れてたわ」
 
 「櫻ぁ〜本当に忘れてるわけじゃないだろうな」
 チョット難しい顔になる夜須。本当に忘れられてるとは、思いもしないだろう。
 
 ガチャ
 
 屋上のドアが開いた。
 女の人が出てきた。
 「あれ?こんなところでどうしたんですか?」
 「え?いや・・チョっと風に当たりたくって」
 と、軽くウソまでついた。
 
 疲れを癒すため、二人は一旦寧々のところに戻り、ベッドに寝る漆。
 「ねぇ、そんなに散歩疲れたの?」
 「あぁ・・チョット迷子になっちゃって」
 こっちも軽くウソまでついた。
 「チョット俺も休んでいい?」
 「うん良いよ」
 寧々は、布団などを準備してくれた。それに横になる櫻。といっても仮眠程度だ。なにかあれば寧々に、叫べと命令してあるし、もしかしたらということも考えて、深寝しないでおくのだ。
 
 
 何時間たっただろうか。漆は起きたらしく、軽く音がした。それにあわせて櫻も体を起こした。
 「あ・・すまん起こした?」
 「いや・・違うよ」
 「なら・・櫻準備できてるなら行こうか?」
 漆が誘いに出た。
 「え!お兄ちゃんどこかに行っちゃうの?」
 「俺・・・もう旅に戻るよ」
 「寧々を一人にするの?」
 
 そっか・・この子ずっと一人でここを番してたのか
 
 櫻は深く考えた。一つだけいい事が思いついたのだ。
 「ねぇ、お兄ちゃんと離れるのいや?」
 「うん。それに櫻おにいちゃんと離れるのも嫌だ」
 「おっそれは嬉しいこといってくれるね」
 櫻はポケットに手を突っ込んだ。
 「なら、お守りあげるよ」
 優しく言いながら、櫻はポケットから出したように、自分の桜を一枚出した。
 「はい。これを俺だと思ってね。けど、これは絶対人には見せちゃダメだよ?」
 そう。櫻の桜は普通の桜じゃないからだ。色は普通の桜の色より、チョット薄いし、たまに肌が切れる桜がある。
 「いいの?」
 「うん。けど、絶対に見せちゃダメだよ?」
 「うん。見せない」
 「なら俺からも・・」
 と、漆は何をするのだろうかと思えば、急にビンを取り出した。その中にはきれいな水が入っていた。
 「はい。この水をやろう。これは飲んではいけないよ。それに、触れてもダメ。ずっとこうしてふたを閉めておいてくれ」
 「水を?」
 「うん。わかった?」
 「うん。二つとも大切にする。けど・・」
 何か不安そうな顔をする寧々。
 「桜・・無くしちゃいそうだな・・」
 確かに桜は、小さくてどこかに閉まっても、なくしてしまいそうだった。
 「仕方ない」
 漆はなにかいいことをおもいついたけれど、あまりしたくなさそうなことだった。
 「なに?」
 櫻が聞くと、急にビンのふたを開け、桜を入れた。
 「ほらっ。これでなくさないだろ?」
 「うんっ」
 さっきの不安そうな顔はどこかに吹き飛ばされ、にっこり笑顔が戻ってきた。
 
 あれから二人で行動して、夜須を探しに街に戻った。
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