■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

桜舞い落ちる『葉桜』 作者:米沢涼

第6回   海と仲間割れ
 

 信じる信じないは、その人の勝手。だから、口出しするようなことじゃありません。決して、人の考えを馬鹿にするような人になってはいけない。
 
 
 母からの教えだった。
 大分前の会議。あのときの賛成・反対の意見。櫻は反対を選んだ。だからといって、賛成をなんだかんだと文句は言わない。

 
 自分の意思は大事に持て。決して納得しないままの、相手の意見を飲むのは、後からの後悔。

 
 母の言っている事が、一番大好きだった言葉だ。説得力もある。
 周りに振り回されるなといわれている櫻は、というか、言われているからこその櫻だからか、かなり信じるという一言が、一番の苦手だった。
 何かの事件がない限り、下手に信じることは、櫻の中では許されないことだ。

 
 男だから強くなろうじゃなくて、自分のために強くなろうと思うことが、一番いいことだ。精神を高め、眼力を高め。そして何より、反射神経を高めるんだ。

 
 これは父からの教え。
 父は、戦いを昔から知っている人だった。けれど、比較的攻撃を仕掛けるほうではない。なんだかんだ言っておいて、結局のところは、守るのが第一に得意だった父。
 何なんだろう。この親から生まれてくる子供が、回復と攻撃を持っていて、しかもそのこが強いと知ったら、父や母はどう思うのだろうか。

 今は、心配してくれる人が、二人居る。
 それだけで、櫻には十分だった。といいながら、結局のところは、信じ切れていないという、皮肉っぽいところもある。

 今見ている道を、ひたすら歩く三人。櫻・夜須・壱。
 この三人の中、信じあっているものはいるのだろうか。
この戦いには意味があるのだろうか。

 なぜ追われてる?

 追われる理由がわからない。
 なぜそんなにこの力がほしいのだろうか。
 こんな力があると、その力に頼りすぎてしまう事だってあるのに。

 櫻は歩きながらそんなことを思っていた。
 数珠を握り締める。なんだか、この数珠は心を落ち着かせてくれるという、特別な力を持ち合わせているのだろうか。

「櫻危ない」

 怒鳴られて、はっとする。そして、立ち止まった。
目の前に何があると思う。

 崖

 崖の向こうから見えるもの。それはきれいに青い、海だった。
「きれい・・・」
「だな」
 櫻は軽々と、木を上った。そして、高いところから見下ろす海は、やっぱりきれいだ。
 海は嫌いじゃない。
 嫌いなのは虫だ。

 関係ないか

 木を降りた。何か嫌な気もするが、いい気もする。なんなんだこの微妙な感覚は。

「どうする?あそこに行くんだったら、丁度あの海近く通るけど、遠回りするか、獣道通って、近道するか。」
 櫻に聞いてきた夜須。
 少し櫻は考えた。
「まっすぐ進む」
 一歩一歩歩き出して、結局その急な崖に思いっきり飛び降りた。
 その考えには、夜須も壱も思いつかなかった。けれど、そんなことが出来るのは、この三人全員できることだった。
「憑依・・・・猫」
 夜須が両手広げてそういうと、どこからか光が出て、そのまま飛び降りた。
「皆危険なことするなぁ〜」
 といいながらも、頭から落ちる位置。ツバメのように、風をも切り裂いた。
 肝心の櫻は、大量の桜を自分の下に集めだし、クッションにして落ちた。ふわりと少し冷たい桜が、かなり気持ちよかった。

「よし・・何とか降りれたな」
「本当にこれだったらまっすぐ進めるな・・・」
「素直な答えだ」
 そういいながら、まっすぐ海のほうに向かっていった。
 まっすぐまっすぐ進んでいく。

「着いた!海!」
 壱が、楽しそうに砂浜に立つ。
「いいからいくぞ〜」
 すかした夜須が、先に進んでいった。櫻はそれに付いていった。
「ひっどぉ〜い!」
 と、走っていった。すると、砂に足を取られたのか、何かに引っかかった感じに、前に倒れた。
「うわぁ・・」

 ボフッ

「何やってんだ?」
「アホ」
「簡潔に言うなぁ〜相変わらず櫻は」
 といいながら、壱に近づいていった。
「アホか・・」

 ガシャン

 砂の下からなにやら、鉄で出来ていて、太い手錠みたいなのが、足についた。それにビビッて、夜須までも、倒れてしまった。
 櫻は、壱に近づいていっていなかったので、それには助かったが。
「引っかかってやんの」
 何かたくらんでいたかのように、壱は立ち上がった。そして、倒れた夜須を見下ろす。
「てめぇ〜・・・」
「どうせ仕込んでると思ったよどっかで。だから俺は一人が良い。」
 櫻は呆れながら、その場に立っていた。
「助けようとしないのか」
「するわけがない」
「なぜ?」
「俺まで引っかかったらどうする?それに、俺はまだ誰の事も信じていない」
「へぇ〜信じる気が無いなら・・死んでくれ」
 睨みつけられると、いきなり走ってきた。
 気がついたら、すぐ目の前に居た。そのまま殴り飛ばされた。思った以上に力がある壱だ。

 こうだから・・・こうだから人は信じるものではない

 深々と思った。
 何か頭の中がシャッフルされた感じで、平衡感覚がつかめない。
 フラフラとしたまま、体を起こして櫻は座り込む。すると、次は後ろから殴られた。

 ブチッ

 何かが切れた音がした。すると、櫻は立ち上がり、大量の桜で自分の周りを囲ました。
「な・・・何がしたい!その桜で何が出来ると思っているんだ」
 余裕満々の壱が、馬鹿みたいに笑い怒鳴った。
「信じることが嫌い。本当にあんたの事を信じなくて正解だったらしいな」
「ほぉ〜・・信じてなかったのかい。まぁ、薄々気づいてはいたが、少しは信じてほしかったもんだな」
 と、自身下に話している。
「先ほどのダメージは少々効いたらしい・・次は俺の番だ!味わいたまえ!」

 桜吹雪

 唱えると、周りを囲んでいた桜が、刃のようになり、壱に瞬時に向かっていった。
「うわぁ・・」
 壱は腕で防御はするものの、何のこれしき。桜は腕をも切り裂き、切り傷でアック染まっていく血を見ていた夜須。
 夜須は、こんなにも恐ろしいとは思わなかった櫻に、驚きと恐怖。それにきちんとした仲間に入りたいという気持が、もっと込み上げていった。
 もちろん夜須は最初から、仕掛けなんて作っていなかった。というか、作る気もならなかった。
 昔から壱の噂などは聞いていた。だから、元々仲間になりたいという願望から仲間にいちお入っている感じになっている。

 信じてもらいたい

 その気持がかなり強くなってくる夜須。倒れながらも、何か役に立ちたい。
 何も出来ないまま助けられるのもどうかと思うし、その戦いが終わって、夜須を助けてくれるかどうかが、かなりの不安でもある。

 信じられていない

 そのとき発覚した。
 
 桜吹雪。その技は、ちがく発音するならば、「血吹雪き」でもあると思われる技。何かの攻撃も吹き飛ばす。それにプラスし、物理攻撃も当たられる技。逃げるときにも使える。それに、追い詰められたときにも使えるという優れものでもあったのだ。
「た・・助けてくれ〜!」
 壱は怒鳴った。
「助けを求めるほど、落ちこぼれるのだなお前は」
 櫻は、桜吹雪を止めた。
 夜須は櫻を見た。
「あ・・・・・・赤・・い・・瞳?」
 そう。櫻の瞳は赤く染まっていた。あのときのように。
 櫻は、もう動けなくなっている壱に、ゆっくり近づいていった。
 壱は倒れこんでおり、もう戦闘不能と言ってもいいくらいだ。
「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませ・・・・・・・」
 ずっと誤っている壱を見下ろす赤い櫻。
「謝る相手が違うよな・・・夜須の手錠らしきものを外せ」
 動けない壱に向かって、かなり無理を言っている気もする。
「う・・動けません」
「ウソをつくな」
 即怒鳴りつけた。
 壱の身体はビクリと震えだし、ゆっくり立ち上がった。
 足は震えて、まともに歩けていないが、ゆっくり夜須に近づいていった。そして、どこからか鍵らしきものを出し、鉄を外した。
 櫻は、たった一つの桜を手にし、それに力を込め、壱に向かって投げた。その桜は、壱の背中にプスッと刺さった。

 バタッ

 刺さった瞬間に、壱は前に倒れこんだ。夜須は急いで櫻のほうに近づいていった。
「何をした?」
「身体を麻痺させる。まぁ、あれじゃあ動くことすら出来ないから、意味なかったか?」
「いや・・・ありがとう櫻」
「別に?行くぞ」
「あぁ」
 赤い櫻はフッと前に倒れた。
「櫻?・・・おい!」
 夜須は櫻を抱え、仰向けにした。
「あ・・・あれ?夜須?」
 ゆっくりと目を覚ます櫻に、ホッと安心する夜須。よく見ると、櫻の瞳はいつもの色に戻っていた。
「大丈夫か?櫻」
「あ・・・あぁ・・夜須は?」
「お前のおかげで助かった」
「おれ?またなんかしたの?俺・・」
「また覚えてないのか?」
 櫻はうんと頷いた。
「まぁ、助けてくれたことには変わりない。礼をする。ありがとう」
「いいよ。夜須が無事なら」
 と、にっこり笑って言った。
「笑ったな」
「え?」
「いや・・初めて見たなぁって笑った顔」
 そう夜須が言うと、櫻はまたニッと笑った。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections