■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

桜舞い落ちる『葉桜』 作者:米沢涼

第5回   熱と戦い
 日が昇りかけて、朝になった。
 少しすると、二人も目を覚まし、おきてきた。一番初めに起きたのは、壱だった。
 目が合い、かなり気まずい雰囲気だ。
「おはよう」
 壱が先に挨拶してきた。
 櫻は身体をチョッと震わせ、ゆっくり答えた。
「はよ」
「お」と「う」が消えてしまったが。というか、これが多い。
 最近全然こんな会話は発しないので、チョッと恐る恐るだった。けれど、壱はにっこり笑ってくれた。なぜだろうか。
「ふあ〜・・・ん〜・・・早いねおはよう」
 目をこすりながら、夜須はまだ眠いとあくびをしていた。
「さて・・・次進もうか」
 夜須が言った。それについていく壱。けれど、櫻は足が進まなかった。
「櫻?どうかしたか?」
 夜須が後ろを振り向いて櫻にいった。櫻は、うつむきながら首を横に振った。
「なら行くぞ・・・?」
「あぁ」
 全然足が動かなかった。もっと言うなら、身体が思いっきりだるい。

 寝てないし、力使いすぎたんだろう

 軽く解決させた。けれど、思っても思っても、なかなか足は動いてくれなかった。それに、なんだかだるさが増してきた。とりあえず、その場にしゃがみこむ櫻。
 おかしいなと思った夜須は、櫻のところに近づいた。
「おい櫻?」
 肩をユラユラと揺らした。すると、軽く後ろに倒れこむ櫻。
「櫻!」
 驚いた夜須は、櫻を木の陰にもって行き、座らせた。
「熱は?」
 櫻のおでこに手を当てる。

 熱い

「このバカ!何で早く言わない!」
 文句を言いながら、夜須は自分の上着を脱ぎ、櫻にかけてやった。心配そうに壱は、立っていた。
「ったく・・・こういうときはどうすればいいんだよ」
と、結構熱と苦戦している夜須。
「俺なんてそんな風邪とかひいたことねえんだよ」
「良いよ・・行こうよ先に・・」
 がんばって立ち上がろうとした櫻の頭を、思いっきり叩く夜須。
「バカ。アホかお前は・・」
「今バカってつか、アホとどっちだよ」
 軽く突っ込むが、叩かれた頭が、かなり痛いと押さえる。
「安静にしててください」
 それだけ言うと、身軽な身体を利用し、猿見たく木を登っていく。頂点まで着くと、そこから飛び降りるように、一回ぴょんと飛ぶ。
 普通なら重力に伴い、落下していくものだと夜須と櫻は思っていた。
けれど、想像を反転させられた。
 軽く落ちるには落ちたのだけれど、自由に宙を舞っていた。
「何するつもりだ?」
「外的が来たら、出来るだけ早く非難できるように。急に現れるよりは、先に知っておいたほうが対処できるでしょ?」
 と、自身気に言っていた。
「そうか・・まぁ今は仕方ないか・・・」
「悪い・・・」
「アホ。そんなええねん。とりあえずお前は早く治ることを考えないと」
「ハイ」

 とりあえず、あれからなん時間経っても、敵は来なかった。
「オイ壱」
「はい?」
「チョッとその場から櫻の事も少し見ててくれ」
「うんいいけど・・・なに?」
「近くに水無いか探す」
「それなら俺がするけど・・・」
 ハッとチョッと考え込む夜須。下手に壱の場所を動かすと、経過する人が居なくなる。けれど、うまくいけば、夜須の能力で暫くの間は、凌げるかもしれない。
「なら水とかを探してきてくれ。見っけたら、このタオルに水を思いっきり含まして来い」
 ポケットからきれいなタオルを出した。その場所まで壱は向かった。


 あれから何分か経った。
 夜須と櫻のときは、ほとんどが櫻にまかせっきりだった夜須。なんだか、かなり心配というか・・・。
「遠くまでいっちゃったけど、見っけてきた」
 壱は急いで櫻の元へと戻ってきた。

 そのタオルを櫻のおでこにのせてやった。

 ひんやりだ・・

 冷たいという意味だ。ボケーッとしている櫻は、このとき自分が熱を持っているんだと、確信した。

 それから暫くしても、特にこれといった敵は来なかった。単に旅人が、遠くを歩いてるという情報以外、こちらに向かってくる様子は見られなかった。
 結構冷たいタオルを、おでこに当たっているせいか、かなり冷えてきていて、熱も大体下がってきたみたいだ。
「取り合えず、今日は動かないどくか」
 もうすでに、辺りは暗くなりかけてきていた。これから動くと、色々面倒だし、きちんと治ったかも、あまり確信できないからだ。

 暗くなった今。きちんと警戒できない壱は、下手にこっちの行動を見られぬよう、降りてきた。さすがに疲れて、まだ薄っすら明るい(きっと六時くらいだろう)なのに、グースカ寝てしまった。
「夜須もねなよ」
 優しく声をかけた櫻。まだ暗闇になれたわけではない。だから、怖がっているところを見られるのが、一番嫌いだった。

 弱点を見られるみたいで、何か胸騒ぎがするというのかなんなんだろうこの気持は。

 何か、嫌な気がしてきている櫻。
 集中して、警戒するために、桜を散らした。出来るだけ遠くまで警戒させた。

 木と木が揺れぶつかる。そのざわめきが、櫻の気持をざわめかせた。
 
 怖い

 ドンドン暗くなる景色に、何か不安を持つ。
 もうすでに安心して夜須はゆっくり寝ていた。その中に、またたった一人寝れない。
怖さが櫻を襲う
 
 怖い
 
 怖い
 
 恐ろしい
 
 死ぬ
 
 震える足
 
 震える身体
 
 震える心
  
 すべてが怖い。怖いしか言いようのない怖さ。集中が揺らぐ。
 
 不安で数珠を握り締めた。すると、何かに気付く。

 誰か来た

 ピンと体が張る。何か怖い。本当に怖かった。
 立ち上がり、周りをキョロメかせる。
 気配がし他方を向く。すると、のっそりのっそりと歩く、何か嫌な気を持つ、大きなガタイの人が歩き出してきていた。
 人というのは、きちんと理解した。きっしりした体つき。

 ぐっすりと眠っているこの二人を起こすわけにはいかないと、二人の目の前に立って深く警戒した。
 
 こちらからは仕掛けない。

 もし、悪いやつではなかったら、単なる損だからだ。
「お前は・・・」
 向こうから話しかけてきた。
 本当は話すことすら嫌だった。何かが壊れる感じもする。
 
 怖い

 またこの怖さが現れた。けれど、怖いといってばかりでは先には進めないと、櫻は自分に言い聞かせた。
「お前は・・・櫻」
 体の力が抜けた。なぜ自分の名前を知っているのか。なぜ櫻を知っているのだろうか。
 かなり不安になる。
 自分はどこかでへまをやらかしたのか。
 どこかで何かを騒がしたのか。
 不安だった。

「あなたは?」
「俺は・・・・霄壤寿人(しょうじょう ひさと)だ」
 何か頭をピンとさせた。

 霄壤

 どこかで聞いたことがあるのだ。
「忘れたというのか・・・霄壤家を!」
 怒鳴りつけられた。
 静かにと、人差し指を出す。
「この人たちを起こさないで」
「あ・・・すまん」
 誤った。なぜかその男は謝った。

 悪いやつじゃない
 
 深々と思った。
 悪いやつなら、そんなことを気にも止めず、大声を出すはずだからだ。
「どこかであった?」
「わすれたか・・・」
 ごついからだの人などには、何回も会いすぎて、余計わからない。

「俺はお前を昔さらったことがある」

 体が動かなかった。
 
 確かに言われて見れば、あの時の人と、少しばかり体形が似てると思う。
 
 怖い

 恐ろしい

 あのときの不安と怖さが、また櫻を襲う。
「俺を・・ど・うする・・つもりなんだ?」
 口が思った以上に、カタカタになってしまった。

 男は、急にどこからかナイフを取り出した。すると、急にこっちに向かってきた。
はやい。
 
 足は動かない。

 下手に動くと、壱と夜須が危険。
 あれこれ考えて、櫻は桜を刃に変え、向かってくる男に無数の桜を突き刺した。
かなりの力を加えた

 ウッソ・・・

 跳ね返された。
 そのせいで、かなり距離は縮まった。仕方ないと、手袋をつけている右手を、思いっきり突き出した。

 壁斗(へきと)

 目の前に、透明な壁を作る。何とかそれには効果あり。
 防御はしたものの、こちらの攻撃が効かない。

 もう一度試してみれば?

 普通の人なら、もう一度試すだろう。けれど、試すと相手には、自分の技がばれてしまうという、櫻にとって大きな問題を抱えている。
 ただ単に嫌なだけだが

 こんなに騒いでいるのに、起きないこの二人に、なんだかピキッと来る。
 まぁ、今日は結構お世話になっていたから、仕方が無いと思うが。

「悪いけど、俺そこまで強くないよ?」
「あの大きな建物を、一瞬で壊した奴がか」
 即な質問に、即答で返された。
 この後の話が思いつかない。

 怖い

 この沈黙が一番怖い。
 一歩一歩進んできている敵に対して、突っ立ってるしか出来ない櫻。
 攻撃も効かない。効くのは防御だけ。足は使えない。というか、スピードで勝とうなんて、無理がありすぎる。
 もう、脳がついていけていない。
 いつの間にか、敵に胸倉をつかまれた。
 何も出来ない。

 出来る

 ふと、思い出した。
 せっかくの良いチャンスではないか。

 櫻は敵の目の前に、左手を出した。
 そして、そっと握り締めている左手を、ゆっくり開いた。
 その中には、まぶしいものが。

「うわぁ〜」

 目の前でやられたからか、櫻を振り投げた。
 向こうにあった木に背中をぶつかった。
 敵は、目をやられたからか、目を押さえる。

 いまだ

 今しかチャンスはない。 
 数珠を握り締めて、力をこめる。
 すべての桜を刃と変え、素早く性格に、攻撃を仕込んだ。

 行ける

 自信を持てた。久し振りに自分に自身が戻ってきてくれた。
 その桜は敵に向かって、集中攻撃。
 無数の桜が襲った。


「つかれたぁ〜」
 さすがに疲れたと思った。
 すぐ側には、死んでいると思われる敵。名前は確か・・・・・
 思い出せない。
 関わりたくない人の名前は、覚えない主義。その主義も良いかもしれない。

 朝になると、思ったとおり二人は起き、やはり驚いていた。
「昨夜何があったんだ」
 なぜか怒られている気分で、何か気まずいというか、なんと言うか。
「心配したじゃねぇか」
 心配してくれるのは、今のところ、壱と夜須くらいしかいないからだ。

 結局のところ、二人を信じ切れているのか?

 という質問には、まだ答えるわけには行かないだろう。
 けれど、もうそろそろ信じても、許される頃かな?とは思ってきている。まだ信じてはいないが。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections