■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

桜舞い落ちる『葉桜』 作者:米沢涼

第3回   暗黒

 怖い

 真っ暗な闇の中、たった一人で立ち尽くしている。歩けない・・・嫌歩きたくない。

 一歩先が穴だったら?

 一歩先が針地獄だったら?

 一歩先がこれからの未来を左右していたら?

 下がるしかない。けれど、下がっても同じことだったら?

 動くことが出来ない。何も出来ない真っ暗な闇。少しの光もない場所は嫌だ。何も考えたくない。考えたら死ぬ。考えたらへんなことまでも考えてしまいそう。

 信じれ

 どこかから、そんな言葉を聞いた事がある。

 信じるんだ

 何か聞いたことがある声だ。何か、何かがどこかにつまっているような。
「櫻!」
 パッと目が覚める櫻。何がおきたのかわからなかった。
 目の前には、心配そうに見る夜須と、壱が居た。本当に何が起きたのかわからなく、周りをゆっくり見回した。櫻は、木によしかかりながら座っているらしい。
「なに・・・が?」
「大丈夫か?」
「何がおきたの?」
 慌てて聞くと、何か言いにくいものがあるらしい反応をする、夜須と壱だ。
 よく身体を見てみると、砂などで汚れた夜須や、壱。そして、一番ひどいのは、櫻自分自身だった。それに、よく見てみると、服も血で汚れている感じだった。その血は、自分の血ではないことは、確かだった。
「お前・・・俺らをかばったんだよ」
「かばった?俺が?ってか、本当に何したの?」
 夜須と、壱は何か驚いたように、顔を合わせていた。ゆっくり櫻のほうを見た。
「お前・・・覚えてないのか?」
 櫻は、うんと頷いた。

     櫻が倒れる前。
 不思議な男が、櫻たちの前に現れた。その男は、なんだか正体を隠しているように、サングラスをかけ、深く帽子をかぶっているひとだ。
 何か寒気を感じて、おばちゃんから貰った数珠を握り締めた。すると、何かの力がジワジワと、身体のどこかから来た。
 すると、いつの間にかその男は、櫻の前に立っていた。それに驚いた櫻は、わけもわからず思いっきり桜を、その男に向けて切り裂くようにした。
 なんだか、力の制御が出来なくて、かなりの力が入った気がする。それに、自分で動いているわけでもないのに、かなり動いている。怖い。何もない。
 すべて戦いが終わると、櫻は急に倒れた。それを支えた壱。
 敵はもうすでに、再起不能。何が起きたのか、壱と夜須はわからなかった。

 そして今があるということだった。
 思い出した。
 怖かった。かなり背中に寒気が通り、手首についている数珠を見た。何か、怖い。今にでもその数珠が動き出しそうで、かなり怖い。
「大丈夫か?櫻」
「うん・・・たぶん平気」
 手をパーにしたり、グーにしたり少し動かしてみた。どこ痛みはない。きっと、こっちは傷を負っていないのだ。
「夜須たちは?」
「お前がかばってくれたから、全然平気」
「けど、俺何したか覚えてない」
「大丈夫。すべてが良かったんだから、あんまり考え込むことないさ」
 と、壱は励ますように言った。それが余計悲しくなってくる原因の一つだった。

 
 けれど、さっきの暗闇はなんだったのだろうか。
 怖かった。なぜ怖かった?と聞かれたら、何も答えることは出来ないだろうけど、とりあえず、怖かったのだ。
 進む道に今は進んでいる。
 けれど、またあんな暗闇があると、なにかこれ以上先に進めないような気がする。
 昔のあんな事がない限り、こんなことはおきなかったはずなのに・・

   昔
 本当に幼いころだった。良い事と、悪いことがなんとなくわかっているはずの、純粋で無邪気な男の子だった。
 周りからは、接しやすいと好かれており、今とは全然逆の性格の子だった。木登りするのも、走り回るのも大好きだった。そんな信じることしか出来ない子供に、ある人が現れた。
 疲れて家に帰ってきた櫻は、手を洗って、冷蔵庫に入っていたジュースを飲みかけたときだった。
 ピンポーン・・・
 呼び鈴が鳴ったのだ。
 コップを置き、玄関にゆっくりと向かっていった。
「はい?」
 サンダルを軽く履き、ドアを開けた。
 向こうにいたのは、かなり怪しいおじさんだった。サングラスをかけ、帽子を深くかぶってスーツを着ていた。奥を見れば、リムジンらしきものがある。
 けれど、まだ純粋だった櫻は、何も感じずに普通に接した。
「どなたですか?」
 おじさんに聞く。
「君に用があるんだ」
 と、図太い声で言うおじさん。
 普通の人なら、怪しくてドアを閉めるが、まだそこまでわからない櫻だった。
「ん?」
「来てもらっていいかな?」
 櫻の目線にあわせるように、しゃがんで言った。
「うん」
 疑問を持たずに、頷いた。
 すると、軽く抱っこされ、リムジンの中に入れられた。すると、カーテンを閉めて、真っ暗な状態だった。
 車の中には、おじさんと櫻以外に、運転手を合わせて二・三人は居た。

 着いた場所は、なんだか高いビルのような建物だった。すぐにそこに入れられ、少しいろんな角を曲がり、階段を上りと、着いた部屋に入れられた。
 その部屋は、真っ暗で、何も見えなかった。たった一つの光といえば、ドアから刺す廊下の電気ぐらいしかなかった。
 本当に真っ暗で、どこに穴があるかわらかなく、寒気が背中を通した。ゾクゾクッと身震いする。
 そのまま押され、足が引っかかり、前に倒れこむ。すると、すぐに光がなくなった。ドアが閉まってしまったのだ。
 怖くて、そのまましゃがんでいた。ブルブルと震える身体を、押さえるように。
何があるのかが知りたかった。
 無邪気だが、賢い櫻は決心をした。とりあえず、ここにあるものを知りたく、桜を自分の周りに少量を集めた。
 そして、かなりの場所に飛ばした。四方八方に飛ばしたから、どこに飛んだかは見当もつかないが、その中は察知できる。
 部屋は、少々長方形の部屋だった。
 家具らしいものは一つもなく、窓もなかった。そして、どこかに電気はないかと、神経を集中させた。
 
 なかった。
 
 結局なくて、なんだかスッキリしない気分だ。あきらめずに、色々と調べた。
 何かないかと、探しはするが、本当に何もなかった。また、背中にさっきよりも強い寒気がする。
 立つことなんて、出来ないし、考えることもなかった。暗闇は、一番の敵といっても良いのだろうか。

 閉じ込められてから、何時間たったのだろうか。ボケーッとしているうちに、寒気も失い、恐れしか出てこなかった。
 すると、ハッと思い出したように立ち上がった。
 何をするのかといえば、一つ試していないことがあるのに気が着いた。

 馬鹿だった。

 こんな一・二個の頼み綱があったとは、以外だった。
 神経を集中させた。
 見つけた。
 その見つけたものといえば、ドアのドアノブ。急いでそのドアノブをまわした。けれど、途中で、カチャッと言い、止まってしまった。

 開かなかった

 チョッと、足がガクッとなった。が、まだ一つ思いついたものがあった。
 先ほどの桜を、自分の周りに戻した。さすがに、暫く集中させて置いたから、ほんの少しだが、体力が消耗してしまったのを、感じた。
 けれど、そんなことを今感じている場合ではないのは、わかっていた。
 桜一つ一つに集中させた。

   桜吹雪

 櫻は、桜を四方八方に散らばせた。これは戦闘用の桜。
 壁を切り裂き、天井も切り裂く。
 そのときの櫻は、もうきちんとした櫻ではなった。かなりの人格が変わったのだけは、確かだった。

 瞳が違う

 いつもの櫻の瞳は、桜色。けれど、今回の色は・・・最高にきれいな赤だった。きれいな血の色に。

 気が付いてみれば、その建物はもうすでに崩壊し、桜が所々に落ちていた。そして、自分は、座ってよしかかり、薄っすらと目を開けて空を眺めていた。

 いつもの桜色に戻っていた。何が起きたのかは、ほとんど覚えていないが、悪いことはしていないということだけは、確かだった。
 意識も朦朧としている。きっと今立ち上がると、ぶっ倒れるような勢いだ。
 周りには、何かオドオドしている人たちのかたまりが多かった。
 所々に散らばった桜を戻せるかと、微妙な体勢のまま心を落ち着かせ、集中させた。 けれど、全然集中できなかった。途中で嫌になり、身体をのほほんとさせた。
「櫻!」
 どこからか、聞き覚えのある声がする。そっちに向こうと思ったが、先ほどまで多少動いた首すらも、力が抜けすぎて動かなかった。
 その声の主が、櫻に近づいてくる。目の前に現れた。それは、やはり父だった。なんか、安心したのか、疲れていたまぶたも下ろしてしまった。
 それからのちゃんとした記憶がない。目が覚めたときには、もういつもの自分の部屋だった。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections